投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~整理し、体系的に捉える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 日本人は現場力は優れているけれど、体系的に捉える力が弱い、と言われる。高コンテキスト文化で、言葉でしっかり伝えなくても相手が察してくれることに甘んじてきた、ということや、「頑張る精神」で、混沌としていても何とかやりきってきたことなども、その要因だろう。
 欧米で開発された数々の考え方を見ていると、それらがいかにわかりやすく整理されているか、感心させられることが多い。たとえば、先日読んだ人材育成関係の雑誌には、リーダーとして求められるネットワークについての記載があった。リーダーには幅広いネットワークが必要だとしている記事はよく見かける。この記事はその一歩先をいき、ネットワークを「発見」、「実行」、「ポジティブさ」、「影響」、「回復力」の5つに分類し、それぞれのメリットを記載している。「発見」は、異なる視点を持ち、新しい情報を提供してくれる人々との関係性を示している。メリットは、より良い意思決定につながることだ。ダイバーシティが実現できると得ることができるメリットとも言える。「実行」は、相互に信頼関係を持ち、お互いの役割を理解している関係性を示している。こういう関係性があると、物事を短時間に効率的に遂行できるという。確かに、信頼関係があるチームは強い。「ポジティブさ」は、仕事に関して何かを達成しようということだけでなく、個人的な支援を提供し受け取ることにも関心がある関係性だ。こういう関係性があると、逆境の時でも、モチベーションが高まる。「影響」は、組織の人々との強い関係が構築されている有様を示している。組織を変えていく際に役立つ。リーダーは特に、チェンジ・エージェントとしての役割が求められていることから、これは大事なネットワークだ。「回復力」は、自分と同様なリーダーシップとネットワークを持つ人々との関係性を指す。こういう関係性があると、仕事が許容範囲を越えた際に、肩代わりをしてもらうことができる。 ウエブ上でいくつかの質問に答えることで、これら5つのネットワークのうちどれを持っているのか、分析してくれるツールもあるという。
 こういった分類に対し、分類の仕方がMECEではないと批判する人がいる。確かに、必ずしもMECEではなかったりする。しかし、私が大事だと思うのは、混沌としている状態を整理する一つの「切り口」を提供してくれているということだ。整理されていることで、いろんなことが考えやすくなる。そもそも、我々日本人の中には、戦略的にネットワークを構築することすら考えたことがない人々が、以前の私も含め、たくさんいる。まずは謙虚に学ぶ姿勢を持ちたいと思う。
 人材育成についても、欧米では、研修の開発方法や求められるスキルが体系化されている。先日職場の人達に対し、米国の人材育成の協会が作成したテキストをもとに講義を行った。目から鱗的な人もいたようだ。経験を通じて得ていく知識もとても大事だが、全体像を把握し、今経験していることが、全体の中でどこに位置づけられているのかを理解ししておくことができれば、学びの速度は早まる。自分がどこまで学んでいて、どこをこれから学ぶ必要があるかを知ることで、学習計画も立てやすくなる。
 プロジェクト・マネジメントも同様だ。必要なステップを知らないまま、プロジェクトを進めると、多くの抜け・漏れがでてしまう。先日PMBOK®ガイド をベースとするPM10のステップという研修を受けたが、受講生のほとんどが、業務でプロジェクトをまわしているものの、ステップを知らないことによる抜け・漏れや手戻りを経験していた。
 整理整頓が苦手な私は、以前は、フレームワーク思考や体系といった考え方が、型にはまりすぎている感じがして窮屈で嫌だった。だからそういったものに頼ることなく、物事を考えていた。しかし、人材育成の担当になり、自分で教えるようになったり、さまざまな研修を受けるようになって、全体像を把握したり整理して語ることのメリットを感じるようになった。同様の話しをしていても、フレームワーク思考に基づいていると、理論整然としているような印象を得る。だから今はいろいろな型を真似るようにしている。学生に英語を教える際も同じ発想だ。基本となる英語のフレーズ(型)を覚えてもらう。新しい領域では、守破離の守をまずは実践していきたい。

(「PMBOK」は、Project Management Institute, Inc.(PMI)の登録商標です。)

ページトップに戻る