投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~多様な人とつながり変化を起こす力~

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 9月に、二つのシンポジウム、PMシンポジウム2014とジャパン ダイバーシティ ネットワーク(JDN)のキックオフシンポジウムで、通訳をする機会に恵まれた。PMシンポジウム2014では、インターナショナル・プロジェクト・マネジメント協会(IPMA)の Vice PresidentであるReinhard Wagner氏の講演を、そして、JDNのキックオフシンポジウムでは、パネリストとして登壇した米国・ワシントン DC にある政策シンクタンク、ブルッキングス研究所のシニア・フェロー、ミレヤ・ソリス氏の通訳をした。
 この二つの機会を通じて改めて、「変化を起こそうとする際に多様な人とつながることのパワー」を感じた。シンポジウムという性格上、両方のイベントのアジェンダには、さまざまな来場者を一堂に集めた中での知見の共有、Q&A、懇親会でのネットワーキングが含まれていた。それに加え、来賓の方々やイベントの立役者が、ネットワーキングの重要性について具体的に言及する場面が見られた。私の印象に残った点を紹介したい。
 PMシンポジウム2014で講演されたWagner氏は、PM=Network Managerと書かれたたスライドを見せて、プロジェクトネジャーは、コネクションを築き、それを活かして、人々をリードしていかなければならないと主張した。その裏付けの一つとして引用したのが、「つながっていることを抱擁することで、パートナーシップを活用したイノベーションの拡大が可能になる」といった主旨のIMB Global CEO Study 2012だった。IPMAは、60カ国の連合で構成されるグローバルなネットワークで、グローバルな視点で考えつつ、地域ベースや各国ベースで行動することを推奨している。それを可能にするために価値観の一つとしてあげているのが、ダイバーシティ、合意と尊敬の三つの要素で構成される「交流する」だ。Wagner氏と名刺交換をしたが、彼は早速リンクドイン(フェイスブックのビジネス版)でコネクション要請を出してきた。「交流する」ことを自ら積極的に実践している。
 IPMAが大事にしている「ダイバーシティ」を推進しようとしているのが、ジャパン ダイバーシティ ネットワーク(JDN)だ。日本の中で「ダイバーシティ」を推進しているさまざまな団体や個人が問題を共有し、意見交換や提言等を行うためのプラットフォームを提供しようとする目的で設立された。「ダイバーシティが社会を変える」と題したキックオフシンポジウムには、900人を越える方々が集まり、基調講演やパネリストには、日本経団連、政府関係者、企業の方々等が参加した。この会には、企業等に勤める女性達がボランティアとして参画した。本業で多忙な中、多くの時間をコミットした彼女達の中には、「一人の力では成し遂げることができないことに、多くの人と協力して関わっていく」ことに意義を感じていた人もいたようだ。同協会の代表理事の内永さんも、「一つの組織の中にとどまるのではなく、いろんな人とつながることで、世界が広がることを実感した」といった主旨のことを話しされていた。私が通訳をしたソリス氏は唯一の外国人パネリストだったのだが、外からの目線で日本が抱える課題を指摘してくれた彼女に、パネルディスカッションの後、お礼を述べた方々が複数いらした。これも、多様な視点を取り入れることのメリットだと言えよう。
 多様な人とつながり変化を起こす際には、Wagner氏の忠告を意識しておきたい。彼は氷山モデルを用いて、表面に見えている言語や手法等の違いの他に、水面下で目に見えない違い、例えば恐れや期待や夢や感情、経験、動機、価値観、偏見、関心等がたくさんあることを指摘していた。そういう違いがあることを認識した上で、多様性をできる限り受容しつつ、つながり変化を起こしていきたい。

ページトップに戻る