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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~セルフ・ブランディングをする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 今、セルフ・ブランディングが求められている。これは、高度経済成長時代には、ほとんど必要とされなかった。個人が成長するための機会が組織の発展と共に与えられ、定年まで一社で勤め上げる人が多かったから。今は、違う。日本でも、転職や起業をする人が増えてきた。新たな成長を求めるために、という人もいれば、組織の統合や業務縮小等の構造改革による早期退職によりやむをえなく、という人もいる。あるいは、寿命の延びに対する生き甲斐や年金体制への不安緩和のための自己防衛として、定年後も働き続ける人がいる。人々の価値観が多様化し、柔軟な勤務体制の導入も伴い、複数の組織から給与を得る人もでてきている。こういった外でのチャンスを求めて、また、組織の中にいる人も、成果主義の中で、自分をアピールすることが求められるようになっている。
 私は、2000年から、職務経歴書や英文レジュメ等の作成支援をする業務に携わり、数年前からは、研究成果をプレゼンするやり方を指導し、フィードバックを与える講義を大学で実施している。更に最近、セルフ・ブランディングのスキルを磨くためにアメリカでなされていることを体験する機会があった。これらを基に、セルフ・ブランディングをする力を身につけるためのミニワークショップをスタートした。今回は、その中で伝えていることを皆さんと共有したい。
 セルフ・ブランディングは、リンクドインやブログやフェイスブックといったオンラインと、直接会う機会を通じて行われる。直接会う時には、エレベーター・ピッチやエレベーター・トークと呼ばれるものを使うといい。エレベーターで上まで上がる間の30秒~1分程度で、自らをPRすることをイメージした表現だ。社内外のプロジェクトや、ネットワーキングのイベント等で誰かに会ったりした際に行う自己紹介だが、日本で通常行われる勤務先と部署を伝える自己紹介とは異なる。エレベーター・ピッチで最も大事だとされるのは、「どんな価値を提供できるのか」を相手に合わせて伝えることだ。「どんな価値を提供できるのか」は、あなたのUSP: ユニーク・セリング・プロポジションと呼ばれることもある。あなたが持つ、他の人にはない、他者に提示できる提案といったような意味だ。エレベーター・ピッチではあなたが誰か、どんな価値を提供できるのか、相手に何をしてもらいたいか、を伝える。
 実は、提供する価値、USPを見つけるのは、容易ではない。特に、謙遜が美徳とされる中で育ってきた日本人にとっては、ハードルが高い。先日行ったセルフ・ブランディング・セッションでも、「会社の看板と肩書きを取ると、私には提供できる価値がない」という人がいた。皆で「そんなことはない。あんなこともやってきたじゃない」と言うと、「確かに、社内の昇格試験の際、そのことを話しました」とつぶやいた。無意識のうちに言ってきたことを、きちんと自分の価値として認識する、というプロセスは欠かせない。今度彼女の強みや価値と思うものを思いつくまま皆で彼女に伝えるワークをやることになった。褒めて褒めて、褒めまくる、といったことをやる。新たな自分を発見する彼女のびっくりする顔、喜ぶ顔が、今から楽しみだ。
 こんなことを懸念する人もいた。「提供できる価値はあると思うけれど、他の人にも提供できる価値だと思う」確かにそう思う人は少なくないだろう。私も組織で働いている間、長いことそう思ってきた。「代替可能な歯車の一部だし、、、」こういう場合は、「組み合わせ」を考えるといいという。例えば、私の例だとこのようになる。
1. 英語ができる⇒これができる人の数は増えてきている
2. 日本語の文章も書ける⇒これができる人の数は多い
3. 英語圏の海外帰国子女だ⇒数は増えてきているが、日本語の文章も書ける人というと、数が少なくなる
4. 英語圏で駐在していた⇒数は増えてきている
5. 現在英語で業務をしている⇒数は増えてきている
6. グローバルに、英語で業務をし、インドにも数週間滞在し、インドの経営大学院の講義も受けた⇒人数が限定される
7. 指導経験が豊富⇒それなりの数はいる
8. 英語の通訳ができる⇒人数が限定される
9. 職務経歴書や英文レジュメ等の作成支援ができる⇒人数が相当限定される

 1~7個々を見ると、それなりにできる人はいるが、それらを組み合わせ、更に8.と9.を合わせると、他の人には提供できない価値を提供できているのではないかと思う。だからこそ、英語でエレベーター・ピッチをするパートを入れたセルフ・ブランディング・セッションは、私がやるのが適切だと信じ、これから広く展開していこうと思っている。
皆さんも、必要に応じ誰かに協力してもらい、ぜひこの組み合わせでUSPを見つけ、それをもとにエレベーター・ピッチを準備し、セルフ・ブランディングをしていくことをお薦めしたい。

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