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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~グローバルにコミュニケーションする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 「そこでストップして。説明はもういらないから、一文言ったら話すのを止めて、一呼吸入れなさい。簡潔に話しなさい。」6月に米国西海岸で実施した会社のグローバル・リーダーシップ研修で、参加した女性達が繰り返し、注意を受けた点だ。グローバルにリーダーシップを発揮しようとする際には、特に、この「簡潔に伝えること」が大事だということを徹底して教わった。研修参加者達は事前に複数の本でその重要性を学んではいた。しかし、頭で理解することはできても、実践することは容易ではない。
 特に女性は、2つの点でハードルが高い。1点目は、脳の構造によるものだ。話が長くなる脳の構造になっており、しゃべることで、情報を整理するらしい。確かに、話が長くて飛び、何を言いたいのかよくわからない女性に、これまで何度も遭遇したことがある。2点目は、話し方に対するきちんとしたフィードバックをこれまであまり受けていないことによるものだ。私自身のことを考えてみても、話し方に対して、日本の学校で学ぶことはほとんどなかった。入社後も、高コンテキスト文化の中で、言葉で説明するよりも、暗黙知に頼るところが多かった。周りのやり方を自分なりに真似する中で、スキルを磨いてきた。最近では、日本でも話し方に対する関心が高まり、話し方改善を題材にした本を通じてスキルを知ることはできるようになってきた。しかし、実践の場で、フィードバックを受けることは少ない。担当と管理職の両方の役割を担うために多忙で、部下としっかり向き合う時間が取れないでいるプレイングマネジャーが増えていることも一因だ。
 そういう意味でも、今回、自分の話し方やプレゼンの仕方に対して、フィードバックを受けることができた研修参加者達は、とても喜び、口ぐちに、「もっと早く受ける機会があったら、仕事上で効果的だったはず」と言っていた。フィードバックに加えて、パネルディスカッションで女性エグゼキュティブ達が、「簡潔に話し、質問に答えている」様子を実際にライブで見て、その大事さを腹落ちさせることができた彼女達、そしてそれを横で聞くことができた私は、幸運だった。印象に残っている女性エグゼキュティブの言葉がある。”Don’t over explain. Don’t over answer.”(説明しすぎるな。答えすぎるな。)実際、吟味された言葉で話をしてくれた彼女の発言は、皆の心に残った。
 2日前、会社で、研修参加者の女性の上司の方々に対するワークショップを開催した。その中で、私もファシリテーターとして、この ”Don’t over explain. Don’t over answer.”を引用して、「女性達は意識はしている。後は実践と、皆さんによるフィードバックと、本人達による改善あるのみ」と力説した。
 そういう私も、頭で理解したことを実践できるためには、改善に向けた努力が欠かせない。先日、社内である賞をもらうためにプレゼンテーションを行った時のことだ。発表自体は、事前に念いりに準備し、無駄な言葉を省くよう練習をして臨んだので、ある程度はできた。しかし、質問に対しては、即効回答したいという強迫観念にも似たような気持ちがあり、整理しないまま、話しをしてしまった。結果、over answer.(答え過ぎ)になってしまったことは否めない。なぜ、NikeのJust do it.のように、びしっとしたフレーズを言えないのだろう。反省、、、。
 力をつける方法は、やっぱり練習なのだろう。数日前、転職の成功率を高めるためのセミナーに行った際にも、「自分が何をしたいのか。何が自分にとって譲れない条件なのか。大事にしていることか」等を転職エージェントに簡潔に伝えることが不可欠。そのためには、やはり練習!ということで、お互いに転職エージェントと転職希望者の役割をロールプレイするワークがあった。私が転職エージェント役をして話しをした方も、話しをする中で考えが整理され伝えたいことが見えてきた、と言っていた。
 アメリカで受けた研修は、実はアメリカ人女性向けに行われているものだ。低コンテキスト文化で小さい頃から「伝える」練習をしてきている彼女達ですら、練習を続けている。我々日本人にとっては、Over explain. Over answer.は避けるべきだが、Over practice(練習しすぎる)ぐらいがちょうどいいのかもしれない。

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