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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~日本の良さに気付き活用する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 6月20日のワールドカップ 日本対ギリシャ戦。朝7時のキックオフということで、会社の大会議室で、大きなスクリーンに画面を映し出して見せてくれた。残念なことに引き分けてしまったが、大勢の同僚達と一緒になって応援するのは、エキサイティングだった。背が高いギリシャ人と戦った日本人選手達、いろいろ言われているけれど、一生懸命頑張ったと思う。オリンピックとワールドカップの時期になると、日本に対する意識がぐんと高まる。
 日本の良さ、その一つは真面目に取り組む姿勢。そして、オリンピック2020誘致の成功に寄与した「おもてなし」の精神もその一つだ。つい最近、アメリカでの就業ビザを入手しようとしている寿司職人の方が大使館に提出する書類の作成をサポートした。推薦状の一つにはこんなようなことが書かれていた。「本格的な寿司屋の寿司職人は、高度な技術に加えて、”Only you!”あなたのためだけに握るという情熱とおもてなしの心がある。それを彼はアメリカで惜しむことなく伝授するだろう。」和食がユネスコ無形文化遺産に登録された今、彼には「おもてなし」の精神をアメリカで存分に発揮してもらいたいと思う。日経新聞に一ページ全部を使って広告を掲載したアンダーズ東京も、この日本の良さを前面に打ち出している。各地でそれぞれ独自のカラーを持ったホテルを設立している中、世界で12番目になるアンダーズ東京では、「日本らしさ」を演出しているという。インテリアに加え、「ゲスト一人ひとりのスタイルに合わせた繊細できめ細かいサービス」を提供するそうだ。
 日本のサービスの良さは確かに優れていると感じる。もちろん海外でも超一流のところに行けば別だが、日本の場合は、ごく普通のところでもそれが感じられるのがすごい。アジアに赴任していた方がこんなことを言っていた。「吉野家ができたので喜んで行ってみたのだけれど、料理がなかなか出てこない。自分で作ろうか、と言いだした程だった。」チップをあげるという習慣が無い中で、日本ではファーストフードでも、一般的にサービスレベルが高い。交通機関が時間通りに運行されている、というのも世界的に考えると珍しいことだ。反対に、特に若者の許容範囲が狭くなってきていて、例えば、少しでもルート通りの時間に電車が来ないといらいらする人が増えている、というのは問題だ。それが当たり前になってしまいすぎると、海外でそうでない場面に直面した際の対応力が弱まってしまう。昨年インドに行ったが、インドではアポの約束をしても、遅れるのは当たり前。インフラは相当悪いし、道にもゴミがよく落ちている。その中で、彼らはたくましく生き抜いている。日本のサービスやインフラの良さを享受しつつ、「恵まれている」ことを認識しておくことが必要なようだ。
 6月19日付日経新聞に、「お笑い・演劇 ライブを輸出」という記事が掲載されていた。「アジアの人々にお笑い、演劇といった日本の娯楽のライブを提供する動きが広がっている」とのことだ。例としてあがっていたのが、AKB48に学んだインドネシアの「JKT48」というアイドルグループ。クールジャパン戦略の一環だ。すごいと思うのは日本の娯楽をベースに、ちゃんと現地目線で価値観を共有すべく、タレントを住まわせることが含まれている点だ。吉本興業の大崎社長は、日本の強みとして、「日本人はみんなで一緒に頑張るのが得意だ」としている。
 日本人以上に日本の心がわかるとして人気がでているのが、歌手のクリス・ハートだ。紅白歌合戦で松田聖子とデュエットをした。テレビの番組で彼を取り上げていた。他にやるべきことを一杯抱えていた私が、思わず1時間番組を見いってしまうほど、いい話しだった。小さい頃「キロロ」の歌を聴いて、「こんな優しいバラードがあるのか!」と驚いたのだという。そして日本の優しさ、家族、日本語の繊細な表現に惹かれていった。彼のような人を見ていると、日本人である私も、もっと日本の良さを見つけなきゃという気になる。
 プロジェクトリーダーとして、あるいはマネジャーとしてプロジェクトを遂行する際に、こういった日本の良さをどう活かしていけるのか。吉本興業の大崎社長が見つけた「日本人はみんなで一緒に頑張るのが得意」は、日本人だけで進められるプロジェクトなら効果を発揮する。外国人が入っている場合はどうか。繊細できめ細かい、という部分をプロジェクトのフォローやチームの人間関係を良くするのに使えないだろうか。それ以外はどうか?7月から2ヶ月間、海外からインターン生が職場にやってくる。東欧出身で現在イギリスに留学中。複数の国で働いた経験がある。彼女が発見する日本の良さも教えてもらい、日本の良さのプロジェクトへの活かし方についても、継続して考えていきたい。

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