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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~コーチングをする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 最近コーチングに関心を持ち始め、スクールの説明会に行ったり、ネットで調べたりしている。数か月前、職場面談でキャリアについて相談した際に、「コーチングをやってみたらどう?あなたに向いていると思う」とアドバイスされたことがきっかけだった。以前、コーチング研修を受けた時は、さほど実践的とは思わなかったが、今回は、「今の私には合っていそうだ」と、すっと腹落ちした。世の中的にも、広まっている。
 先月会ったアメリカ人の研修講師も、エグゼキュティブコーチングをしていると言っていた。良いチームワークをつくるための5つの効果的な方法の一つとして、コーチングを挙げている記事も読んだ。ASTDというアメリカをベースとする国際的な人材育成の専門組織の雑誌にも、コーチングを導入して、職場でのエンゲージメントのレベルを高めている例が紹介されていた。
 英語学習コーチを名乗る人もいる。学習の目標を明確化し、達成するための計画を立て、適切な語教材を選び、学習方法を決め、やる気が維持できるようにサポートをする役割を持っている。私も英語を教えているが、相手の自主性に任せるのがベストだと考え、特に課題を与えず、本人が学びたいことに都度対応してきた。どんな要請にも柔軟に対応できることが、私の強みだと思っていた。しかし、そのやり方は意思が強い一部の方には適しているが、一般には、もう少しリードしてあげるほうが良さそうだ。雑誌「プレジデント」の英語学習の特集(6.2号)に、長年日本人の英語学習を見てきた早稲田大学のジェームス・バータマンのコメントが掲載されている。彼は、次のようなことをポイントとしてあげている。
英語学習には明確な目標が必要。
レッスンプランのない英会話学校はダメ。
レッスンは一人で学んできたことを披露する場だから、宿題や事前学習が必要。
確かに、私が指導してきた人の中でも、必達の目標がある人は、準備をしっかりこなし、短期間でレベルアップしている。例えば、英語でのプレゼンを会社ですることになった人や、海外のセミナーに参加するために外国人とネットワーキングし、セッションを多少なりとも理解できるようになるという目標がある人達だ。
 プロジェクトのメンバーや部下と接する際にも、同様なことが言える。向こうからアドバイスを求めてきた時にだけ応じるのではなく、もっと積極的に関わってみる。それも、一方的に自分の経験や知識に基づいてアドバイスをするのではなく、相手の成長につながる質問を投げかけていく。この適切な質問をする、というのがなかなか難しい。だからこそ、コーチングスクールでは、質問をする練習をする。英語学習で言えば、「英語を学ぶことで何を達成したいのか?」が最初の質問になる。プロジェクトの場合であれば、「このプロジェクトに参加することであなた自身どうなりたいと思うか?」かもしれないし、「なぜこのプロジェクトをしているのか?」を参加者全員で語り合うことかもしれない。あるいは、もっと根源的な、「あなたにとって、仕事とは何か?なぜするのか?」かもしれない。ビジネスコーチの説明会では、職場でベストプラクティスを共有していくために、「先週一週間で上手くいったことは何か?」「なぜ上手くいったのか?」「上手くいかなかったことは何か?」「なぜ上手くいかなかったのか?」「次の一手は何か?」に対してお互いに答え合うことを勧めていた。確かに、「xxをやりました。xxをやります」という共有よりも、上手くいったりいかなかったりした原因がわかるほうが効果的だ。
 前述の「プレジデント」には、「間違いをいちいち指摘すると、生徒のやる気をそぐ。大切なところだけを的確に説明すること」が大事だと書かれていた。私がこれまで良かれと思って間違いを細かく指摘してきたことが逆効果になりかねない、というのは発見だった。私自身は、上達しようと思っていることだと、指摘してもらったほうが嬉しいし、こと細かに指摘できることが私の売りだと思っていた。しかし、皆がそれを望むわけではない。
 アドバイスのやり方も考えた方が良さそうだ。世界的に著名なコーチのマーシャル・ゴールドスミス氏は、こう語っている。「誰かが提案をしてきた際に、あなたが何かを付け加えることで、その提案の価値は例えば5%高まるかもしれない。しかし、相手のやる気を50%そぐことだってある。」私もそうだし、私の周りにも、一言付け加えたい人が随分いる。しかし、最終的な結果を考えたら、ぐっとこらえることを学ぶほうが得策だ。
 いろんな場面で有効活用できそうなコーチングという手法を少しずつ実践していきたい。まずは英語指導のやり方に、コーチングの要素を少し入れてみることから始めてみたい。皆さんはどんな場面で使ってみようと思いますか?

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