精霊の守り人
(上橋菜穂子著 新潮文庫、2013年6月5日発行、360ページ、17刷、590円+税)
デニマルさん: 10月号
今回紹介の本は、2014年3月に国際アンデルセン賞を受賞している。そして著者は、児童文学作家、ファンタジー作家、文化人類学者で女子大学特任教授と紹介されている。先ず国際アンデルセン賞であるが、アンデルセンはデンマークの児童文学者(「即興詩人」「裸の王様」「人魚姫」「雪の女王」:映画「アンと雪の王女」の原作等々を残された)を称えて名付けられ、児童文学の永続的な寄与に貢献した人を表彰する国際的な賞である。児童文学のノーベル賞ともいわれている。この賞は国際児童図書評議会が選考にあたり、言葉や文化が異なる世界10カ国の委員で構成されている。日本では、まど・みちお氏が1994年に受賞しているので、20年ぶりの快挙と報道された。次に著者の文化人類学であるが、オーストラリアの原住民アボリジニ-の研究をしている。このアボリジニ-の研究から、現存する世界最古の文化の中で、食事、労働、人間関係のあり方に大きな影響を受けたという。著者の作品は、この民族の見聞がベースとなって、異次元文化での物語を綴っている。
ファンタジー小説 ――ファンタジーな小説?――
ファンタジー小説は、独自の世界観や歴史をもつ架空の世界を舞台とする分野と、現実世界が舞台で、そこに魔法や妖精などが介入してくる物語分野がある。紹介の本は、先の分野に入る。過去には、ガリヴァー旅行記、不思議の国のアリス、ゲド戦記、トイ・ストーリィ等の映画がこの範疇である。最近のハリー・ポッターやスタ-ウォーズや宮崎駿の作品は後半の分野に入るであろう。因みに、著者の「獣の奏者」は2009年にアニメ化された。
ファンタジーな場所 ――新ヨゴ皇国とは?――
物語の舞台は、青霧山脈の麓で青弓川と鳥鳴川の中洲にある「新ヨゴ皇国」である。主人公「バルサ」は、女用心棒で年齢は30歳だが短槍の達人である。この用心棒が、「チャグム」という新ヨゴ皇国の第二皇子を助けたことから物語が展開する。この皇国には、星読博士の最高位である聖導師が、自然界と皇国の将来を予見する『占』で帝を助けている。聖導師は、今の旱魃危機を救う為に雨乞い儀式を滞りなく執行する必要があると予言した。
ファンタジーな水の精霊 ――ニュンガ・ロ・イム?――
ニュンガ・ロ・イムとは、深い水底に棲む精霊で、水の守り手である。その卵は、百年に一度サグ国の世界に住む人間の子どもに卵を産みつけるという。この卵を産みつけられたのが、第二皇子の「チャグム」である。その卵を狙う卵食い“ラルンガ”から「チャグム」を守るのが女用心棒の仕事である。無事に卵を守り切れば、第二皇子の命が新ヨゴ皇国の世継ぎとなる可能性を残し、新ヨゴ皇国に雨をもたらし旱魃から脱することも可能となる。
|