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「エンタテイメント論」(78)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :9月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●優れた発想は、発想の動機が実現し、成功した状況と効果を「仮説」する事で生まれる。
 上記は、発想促進法②に相当する極めて重要な方法論である。是非、実践して新しい、優れた発想を促す基礎を築いて欲しい。この成功した状況を仮説することを便宜的に「状況仮説」、成功して生みだされるだろう効果を仮説することを「効果仮説」とそれぞれ定義した。この2つの仮説を設定(描く)することが発想を促す基礎作りとなる。

 この仮説設定によって人類は、人類史上類を見ない下記のプロジェクトを成功させた。またこの仮説設定によって人類史に刻まれるであろう下記の新しいプロジェクトも進行中である。

●「ある仮説」を基に成功した「マンハッタン・プロジェクト」
 アルバート・アインシュタイン博士は、「物質とエネルギーは等価」であるとの仮説を理論的に構築し、実験によって証明された。それが「E=MC二乗の法則」である。

 この法則を活用して物資をエネルギーに変換する核分裂爆弾を作る「仮説」が生まれた。その実現に「マンハッタン・プロジェクト」が立ち上がり、世界の知恵が結集され、膨大なコストが投下されて、成功した。ウラニューム235の数グラムの物質は、エネルギーに転換され、広島 & 長崎の原爆の威力と悲劇を生んだ。

人類最初の原子爆弾実験 広島&長崎への原子爆弾の投下 投下された原子爆弾

●「ある仮説」を基に成功した「アポロ・プロジェクト」
 人間を月に到達させる「夢」は、大昔からあった。しかし本当に到達させるという、途方もない「仮説」を米国やソ連などの科学者が設定した。

 ケネディ大統領は、1960年代に人類を月に着陸させると宣言した。しかしその当時、それを実現させる確固たる技術的基盤は存在しなかった。まさしく「仮説」:であった。しかしその宣言を凶弾で倒れた同大統領の「遺言」と受け止め、米国民の支持を基に「汗と涙と血(開発関係者の死を賭けた実験)」を流して遂に遺言通り、1969年に月面到達の「アポロ・プロジェクト」を成功させた。
左:ケネディ米国大統領(1917~1963) 中:アポロ11号の発射 右:月面着陸

●「人類の月移住」と「火星着陸」の仮説は、現在建設中の「国際宇宙ステーション」を第1歩として必ず実現し、成功するだろう。仮説の「夢」は、実現するのである。


●日本では仮説や夢を描くことを「取らぬ狸の皮算用」として軽視、蔑視、無視されてきた。しかし本当に皮算用なのか?
 上記のマンハッタン・プロジェクトの「原子核分裂爆弾」とアポロ・プロジェクトの「人類月面着陸」を仮説した時、いずれも「取らぬ狸の革皮算用」と多くの人から批判され、「そんなバカげた話は信用できない!」と軽視、蔑視、無視されたのである。しかしいずれも実現し、成功したのである。従って「人類の月面移住」と「人類の火星着陸」の仮説は、近い将来必ず実現し、成功するだろう。


 「アイデア」が今直ぐに思い付かなくても、アイデアが実現し、成功した「状況仮説」と「効果仮説」を頭の中に描き、可能な限り、具体的に紙に書き、絵に描き、効果を数値化することを勧めたい。「取らぬ狸の皮算用」と軽視、蔑視、無視されても、ひるむ事なく、頑張って欲しい。優れた発想をするための最も重要な作業だからである。何故ならこの仮説設定によって、「アイデア」を求める動機が高まる。それだけでなく、アイデアを考え続けるパワーも得るからだ(川勝良昭著「夢と悪夢の経営戦略(出版:亜細亜大学・購買部)」参照)。

●「状況仮説」と「効果仮説」の設定は、「発想」する動機、目的、方向、対象、範囲などを定める。
 古今東西の科学者、工学者、事業家、芸術家は、「優れたアイデアを掴んだ時とは、考えに考え続けた結果、突然、向こうの方からアイデアが訪れて来た時だった」と異口同音に語っている。

 しかし考え続ける「パワー」が無ければ、脳は考え続けてくれない。「夢」を動機とするとパワーが生まれる。「夢」を持つ事の重要性と必要性がここにある。また仮説を設定すると、考える動機が強化され、優れた発想を生み、実現させる可能性が増える。その可能性への期待感が脳は考え続けさせる。更に仮説設定によって発想の目的、対象、範囲が最初は漠然としていても、考えるに従って少しづつ明確になる。その結果益々パワーが集中・強化され、発想が現実化する。

 以上の事は、発想ばかりではない。直面した「問題」を解決するためにも「状況仮説」と「効果仮説」は極めて有効である。その両仮説が問題解決の方向や範囲などを明らかにするからだ。問題解決のイメージを具体的に紙に書いたり、絵に描いたり、写真を集めて固定化する。これらは「夢工学式発想法」だけでなく、「夢工学」も重視する発想作業の1つである。

●仮説なくして、成果なし。
 科学者に最も求められる能力とは何か? 一般的には考えられている事は、当該科学に関する優れた知識、経験、判断力、分析力、そして経験などである。しかしそれだけでは科学者としての成果を生み出せない様だ。

 最も求められる能力とは、ある研究が成功した時の「状況仮説」や「効果仮説」を描く能力であると言われている。この様な仮説を描かず、コツコツと研究を積み上げれば、いずれ何らかの成果が生まれると考え、日々の科学研究に従事する研究者は、殆ど成果を生み出せず、「一生を棒にふる」ことなるだろう。

 この事は、工学者にも、芸術家にも、事業家にも共通して当て嵌まる事である。「取らぬ狸の皮算用」と軽視し、蔑視し、無視する人物は、「君の考えは、非現実的で、夢物語だ。現実を直視しろ」と、新しい発想で企画し、提案してきた人物に対して「したり顔」で批判ばかりする人物に多い。そして成果を生めず、「一生を棒にふる」人物の一人であろう。

つづく

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