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「エンタテイメント論」(77)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :8月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●具体的方法論の逐条解説
 今月号から「発想促進法」の10項目と「発想阻害排除法」の4項目を、順を追って解説する。

 しかし発想の際、これらの項目を全て実行する必要はない。その一部だけを活用しても構わない。また「自己流」を混入させても、日頃使い慣れている「発想法」があれば、それを併用しても構わない。

 何故なら「優れた発想」を得ることが本来の目的だから、その方法や手段に拘るべきではないからだ。すべて発想する人の考え方と感じ方に任せる。これこそが夢工学式発想法の説く「自由発想」が目指す事でもある。

自由発想こそすべて
自由発想こそすべて

 先月号までに、発想促進法の10項目と発想阻害排除法の4項目の「要約表題」を紹介した。その内容は全く変わっていないが、その表現に分かり難い箇所や誤解を生む箇所があった。

 そのため今月号以降の逐条解説に先立ち、改訂した「要約表題」を以下の通り、掲載した。

●発想促進法の「要約表題の10項目」
優れた発想は、発想の「動機(夢、目的、欲求、好奇心、好きな事等)」の強さに比例して生まれる。
優れた発想は、発想の動機(前記)が実現し、成功した状況と効果を「仮説」する事で生まれる。
優れた発想は、「理性と感性」の同時同質の発揮で生まれる一方、「自由発想」が活性化され、更なる効果が生まれる。
優れた発想は、「アナロジー(等価性、類似性)」を探索して活用し、「新しい結合や分解」を加える事で生まれる。
優れた発想は、「一人思考」だけでなく、小人数の「グループ思考(交流、協力、競争等)」でも生まれる。
優れた発想は、発想の「量」に比例して生まれる。量が質を決め、質は24時間働く脳によって無意識に判別される。
優れた発想は、「考え続けた」末に突然生まれる。脳が生み出す「直感」を信じる事で更なる効果が生まれる。
優れた発想は、発想対象に関する知識、経験、情報の「量」に比例して生まれる。無から有は生じない。
優れた発想は、発想内容を即時「メモ」する事から生まれる。発想内容が直ぐ消える事と脳の負担軽減のため。
優れた発想は、発想を促進する「環境」を整備し、発想に集中した末に生まれる。

●発想阻害排除法の「要約表題の4項目」
優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除し、発想(自由発想、以下同文)に集中した末に生まれる。
優れた発想は、発想を阻害するルール、マニュアル、手順等を強く求める発想技術を避け、発想に集中した末に生まれる。
優れた発想は、発想を阻害する「無理解」、「誤解」等を解決し、発想に集中した末に生まれる。
優れた発想は、発想を阻害する「環境」を排除し、発想に集中した末に生まれる。

Inspiration(発想)を破壊する人物は、他者ばかりではない。自分自身でも破壊する。
Inspiration(発想)を破壊する人物は、他者ばかりではない。自分自身でも破壊する。

●優れた発想は、発想の「動機(夢、目的、欲求、好奇心、好きな事等)」の強さに比例して生まれる。
 「発想法」や「発想技法」に関する本は、昔も、今も数多く出版されている。また脳を鍛える「脳トレ」の本も数多く出版されている。

 しかし如何に優れた「発想法」や「発想技術」を習得していても、「優れた発想」を生み出そうという強い「動機」とそれを持続させる「習慣化された行動(発想促進法の10項目に中で別途説明)」がなければ、「優れた発想」は絶対に生まれてこない。この厳然たる事実を多くの本では十分に指摘していない。しかし夢工学的発想法では最も重要な発想の「鍵」になる事として最初に指摘する。

 また「脳トレ」を日頃からコツコツ実践しておけば、発想する時に必ず役立つだろうと期待して、その訓練に励んでいる人が大勢いる様だ。筆者の周辺でも結構いる。脳トレの本は一時ブームになった。現在はブームが去ったが、依然としてその種に本が売れている。

 しかし脳トレに研鑽している人に「水を差す」様で申し訳ないが、この種の「脳トレ」は殆ど発想の実践では役立たない。もし役立つ「脳トレ」であっても、発想する強い「動機」が存在しないと何の役にも立たない。けれども「脳トレ」を実践して「楽しむ行為」は、エンタテイメントの観点から観ても、精神衛生的な観点から観ても、大変有意義である。

 さて企業が直面した深刻な「問題」を解決するため、社長や上司が「斬新なアイデア」を部下に求める事が多々ある。それに対して部下は、①命令に従うだけでなく、積極的に「優れた発想」を生み出そうと云う「意志と意欲」を持って挑戦するケース、②命令に従うが、積極的ではなく、「意志と意欲」が不足しているケースの2つがある。前者は、明るさと楽しさが溢れ、後者は、暗さや辛さが漂う。

「社長は課題ばかり押し付けてくる。困ったなあ。何か良いアイデアはないかなあ?」 「社長は課題ばかり押し付けてくる。
困ったなあ。
何か良いアイデアはないかなあ?」

 ②のケースでも、上司が与えた課題の解決に本人は必死で考える。しかしあまり良い解決策が生まれない。四苦八苦して何とか解決策を提出しても、上司を満足させられず、時には厳しい叱責を受ける。「体」を動かし、販売ノルマを果たす場合と「脳」を働かせ、課題解決ノルマを果たす場合とでは、前者に比べて後者は想像以上に精神的な負荷が掛かる。その結果、体への悪影響まで生じる。多くの人が経験したか、見聞した事であろう。

 「優れた発想」を生み出せば、本人にとって如何なるメリットがあるのか? 企業にとって如何なるメリットが生まれるか? などを明確に、具体的に、予め示されている場合は、積極性や意欲が不足していても、精神的な負荷が掛かっても、上司から厳しい叱責を受けても、その命令に耐え、「本気と本音」で挑戦するやる気(モチベーション)が湧く。もし発想するための習慣化された行動を習得しておれば、早晩、「優れた発想」を獲得できる様になる。

 しかしこの「動機」は、既存事業を改善したり、新規事業を実現すると云う「積極的な意味」ばかり持つとは限らない。現状維持型、改革回避型、責任回避型などの人物は、保身、責任回避という強い「動機」を持つ。

 身を守れないデメリットや責任を取らされるデメリットを絶対に避けたいので、積極的な意味の場合より、その動機が遥かに強烈である。この様な人物は、保身や責任回避を成功させながら、巧妙に「優れた発想」も生み出す。自らの地位を高めながら、自らの利益を確保しながら企業も発展させるのである。従って彼らの地位と利益を脅かす様な既存事業の改善や新規事業の実現の動きには、事前に、巧妙に妨害し、破壊するのである。

 発想力もあり、行動力もあり、社内の陰の統制力も持つ、恐ろしいこの種の人物は、社内の真の発展を阻害している。「悪夢工学」を活用してこの様な保身や責任回避などの人物を見抜き、排除することを強く薦める。

●最も強い「動機」を持つ人物とは、「夢」の実現と成功に挑戦する人物。
 何らかの課題に関して発想する場合、その対象が自分の求める「好きなコト」、「世の中の人々のためになるコト」、そして本人の「夢」と重なる場合、最も積極的、挑戦的になる。外から命令され、問題解決のために発想するよりも、内なる意志、特に「夢」の実現に挑戦する情熱に裏付けられて発想する方が、遥かに勢いがあり、成果が生まれる。これこそが「夢工学」が最も重視する事であり、本発想法が「夢工学式発想法」である事の理由がここに在る。

「夢」の実現と成功のためにNo. 1のアイデアを見つけるぞ! 「夢」の実現と成功のために
No. 1のアイデアを見つけるぞ!

 社長、上司、本人、部下がそれぞれ持つ「夢」が当該企業の「夢」と重なる場合、その企業は、その事実だけで大きく発展する基盤が整備されたことになる。しかも夢の実現と成功に挑戦する人物は、挑戦のために「汗と涙と血」を流すことを厭わない。若しくは喜んで流す。この様な企業が発展しない訳がない。

●脳の自発性と喜びの報酬
 「問題解決のための方法を見つけたい」、「夢の実現と成功のためのアイデアを発想したい」などの課題が生じると、脳は自発性に働き、発想の可能性を探る。そして脳は24時間、本人が気づかなくても(無意識)考え続ける。一方本人も意識的に考え続けると、ある瞬間、「ひらめき」が生まれる。この事実は、多くの学者や脳研究者が昔から指摘してきた事実である。この事実をもっと積極的に活用しない手はない。

 美味しいものを食べた時、人から褒められた時、アイデアがひらめいた時、脳の大脳辺縁系に在る感情システムの中で「ドーパミン」を中心とする報酬系が極め活性化すると言われている。脳は、この報酬系の活性化によって「喜び」と云うご褒美を得る。脳は、そのご褒美を基に益々活発に活動する様になり、更なる「ひらめき」を得て喜ぶ。 まさしく「ひらめきの良循環」である。

ひらめきの良循環=夢の良循環
ひらめきの良循環=夢の良循環

 「夢」を実現し、成功した人物は、脳の「ひらめきの循環」に似た経験をする。成功すると人から褒められ、金銭的なご褒美まで得る。その喜びを基に本人は新たな「夢」の実現と成功に挑戦する。そのため結果、「優れた発想」が可能になり、新たな「夢」が実現し、成功する。まさしく「夢の良循環」である。その成功を通じて本人は、「仕事のやり甲斐」を感じ、「人生の生き甲斐」まで獲得する。以上の2つの「良循環」を利用しない手はない。

つづく

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