グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第83回)
カリフォルニアから北フランスへ

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :9月号

 6月、7月と、最近では珍しく、2ヶ月連続で海外に出かけることなく家で過ごしたが、今月からは月の半分以上を外で過ごすことになり、8月は月初にサンフランシスコに行き、22日からは北フランスのリール市に居る。
 同じ月に2回大きな時差がある地域に行くと普通の人は疲れるだろうが、時差を感じなくなった私は、訪問先での適度の緊張で、かえって身体がシャキッとしている。
 予約できたフライトの都合で往復ともサンノゼ空港経由でサンフランシスコを訪れたが、家族旅行でツアコンをやりながら30年ぶりのサンフランシスコを十分に歩いてきた。この街は1980年に私が初めて米国に出張した際に上陸した思い出の地で、米国の主要都市はほぼすべて廻った後に、この街を訪れたいと思ったことは、そろそろ旅の思い出の整理意識が出てきたのかとも思う。
 サンフランシスコは、米国の大都市(と思っていたが人口は82万人であった)には珍しく、観光客にとって動きやすく、ツーリズムで大変競争力がある目的地であるとの感を持った。たとえば、次のような点だ。
ホテルの料金がリーズナブルである(かつて高値の花であった伝統ある4つ星ホテルは家族で泊まると手頃な価格となっている)。
Golden Gate Bridge、Fishermen’s Wharf、Ferry Terminal Building + Bay Bridge、Union Square、つづら折れのLombard Street、Golden Gate Bridge Parkなどいつくかの壮大な公園、など第一級のツーリストスポットが市内に詰まっている。
サンフランシスコ
公共交通機関が充実しており、ちょっと土地勘があれば、観光客でも市を縦横に駆け巡ることができる。ケーブルカー+市バス+地下鉄(トラム)乗り放題3日間パスを$21で、乗り降り自由4ルートのダブルデッカー観光バスの2日間パスを$44で購入するとタクシーを使わずに地図を片手に行きたいところに移動できる。市バスはトロリーかハイブリッドバスであり、環境配慮がよくできている。
多民族都市であり、バラエティーに富んだレストランが多くあり、米国に珍しく味がよくて安い。伝統的アメリカ料理、シーフード、ステーキハウス、ベトナム料理など訪れたレストランは全て当たりであった。
オーガニック文化が根強く、野菜は最高に美味であり、また、各種食材も料理も自然で豊かな味がする。またユニークなデザインの衣類や家庭用品店も豊富だ。
ヒッピーのHaight Streetや、サーファーのSunset Oceanなど世界的に有名なサブカルチャー・スポットがツーリストにも行きやすい地区にある。
 思えば、米国によく行っていた頃は社業での渡航か年一回のPMIの大会であり、観光はほとんどした記憶がないが、こうしてサンフランシスコを仕事抜きで訪れてみると、実に楽しかった。

 サンフランシスコは真夏と思えない寒さ(日中で20度Cを下回り、観光バスの2階に座ると強烈に寒い)であったが、真夏日が続く東京に戻り、そして、ここフランス北部ベルギー国境に近いリール市に来たが、フランス側のフランダース地方は日中の気温が15度Cくらいであり、もう晩秋の気配である。
 8月最終週である今週いっぱい開かれるSKEMA経営大学院大学主催で、EUの博士研究ファンドEIASM後援の、EDEN World Project & Program Management Doctoral Seminarへの教員としての参加は、2004年から始まり今回で10回目となる(2011年は体調不良で参加辞退)。SKEMAはP&PM科学の世界のハブ校であり、招待制であるこのセミナーは、世界の関連教員と博士課程生の聖地である。
 60の手習いで、招いてくれる方がおり、当大学院で始めた教員の仕事を12年以上続けることができ、70歳を迎えた今年も参加してセミナーに貢献できたことを大変嬉しく思う。
 私の今年の役割は例年の倍以上の負荷があったが、無事乗り越えることができた。今年の2大テーマは途上国プロジェクトと過酷な環境でのプロジェクトであり、講演では初日午前の基調講演で発展途上国プロジェクトの総括を私が、過酷環境プロジェクトについては2日目午前に日揮の佐藤知一博士が事例発表を行った。

博士最終審査風景 無事博士認定の担当学生
博士最終審査風景 無事博士認定の担当学生

 毎日夕方には、博士課程生の博士論文の最終審査会があるが、今回は7件の審査(1件1時間)があり、うち、1件はスーパーバイザーとして学生の弁護役、1件については中立審査員を務めた。SKEMAの博士審査制度では、スーパーバイザー2名に加えて、最終審査に至ると、論文審査員(Examiner)が2名、セミナー直前に指名される審査員(Jury)2名が加わり、研究科長がチェアマンを務めて合計7名体制で学生ごとにコミティーが編成される。フランスの大学院ではあるが、チェアマン以下ほぼ全員が、私のようなSKEMAの国際ファカルティー・メンバー(英国、米国、インド、アブダビ、パキスタン)が務める。
 今年は第2スーパーバイザーとしてここ2年ほど指導を行ったラトビア人学生が無事博士認定に至った。社会人として中堅で、2足のわらじを履いて7年、無事修了は本人もさることながらご家族も万感の思いがあろう。彼の研究の土台にはP2Mプログラムマネジメント(ウクライナ版)が脈々と流れている。
 現在博士研究に取り組んでいる学生の中にも、かつて私が本学の修士課程でP2M論を教えていた頃にP2Mに興味を持ち、研究テーマに取り入れている者が数名いる。それと私の出身であるグローバル・エンジニアリング産業の学生も何名か居て、これらの学生のスポット指導も私の重要な役割になっている。
 今年のEDENセミナーでは、教授側の長老の影が薄くなり、EUやカナダの気鋭の研究者のプレゼンスがかなり高まった。いわゆる“アラサー”から“アラフォー”の女性研究者の迫力はすごい。
 こうして、いつまで続くフランス詣でかと思っていたが、どうも来年も来ることになりそうだ。  ♥♥♥


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