資本主義の終焉と歴史の危機
(水野和夫著 集英社新書、2014年3月19日発行、218ページ、第1刷、740円+税)
デニマルさん: 8月号
先月の新聞広告にこの本の宣伝が掲載されていた。それによると新聞・雑誌・テレビで話題沸騰、アマゾン経済部門1位で11万部を突破したとあった。推薦文に「21世紀の資本主義が全般的危機に直面している現実を解明した好書」(佐藤優氏)、「資本主義の終わりをどうソフトランディングさせるかの大変ク―ルな分析」(内田樹氏)等と称賛している。この機会に資本主義の終わりとは何かを考えてみた。そのキーワードは新自由主義とグロ-バリゼーションと利子率の変遷ではないか。先ず新自由主義だが、1980年代で俗に「市場原理主義」ともいわれ、政府より市場の方が正しい資本配分が出来るという考え方である。日本では、小泉政権の時代に小さな政府と聖城なき構造改革と成果主義を柱に政治が行われた。次のグロ-バリゼーションは、国境を超えた地球規模の経済連動で、IT技術の進歩で益々スピード化と広域化している。利子率については、この本に詳細に書かれてあるので割愛するが、上記の潮流が複雑に絡み合って資本主義は危機にあると著者は書いている。
資本主義の終焉とは? ――資本主義の構造変化を歴史から視る――
この本で資本主義は、国や企業がフロンティアを求め新規市場や新製品を開拓し、利益率を高めて資本の「自己増殖を推進」するシステムであるという。だから常に成長し続けることで存続が確保され、それが地域的拡大から電子・金融空間拡大への変遷は歴史が証明していると書いている。その結果、成長が鈍化して投下資本が回収出来ない状態が続くことは終焉を意味する。著者は、その背景に利子率の低下(低金利)があると指摘している。
資本主義の延命はあるのか? ――脱成長という成長概念を求められるか――
世界経済は、自己増殖し続けて成長を止めることが出来ない資本システムの延長線上に、赤字倒産かバブル崩壊という歴史的経験をしている。先の利子率の低下が各国に広がっている現在、実物投資は利益を上げられないので株価投資に移行し、一層バルブ生成に向かっていくという。更に、著者は現時点で資本主義の暴走を阻止する方策は見当たらないが、「定常状態」(ゼロ成長)で耐え凌ぐ間に次の可能性を模索する方法しかないと書いている。
日本の未来はどうなるのか? ――資本主義の矛盾を体現した日本経済――
日本は、現時点で1000兆円の借金(赤字国債)を抱えて、ゼロ金利に近い状態にある。これは決して好ましい状況ではないが、財政赤字を今以上に増やさないで基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡化を図れば、日本国債の国際信用は保たれる。そのためにも財政健全化を実現する増税(消費税だけでなく、法人税や金融資産課税等)は不可欠である。成長一本槍でなく「脱成長という成長の概念」が資本主義の危機を救うと纏めている。
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