図書紹介
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満願
(米澤穂信著 ㈱新潮社、2014年5月30日発行、330ページ、8刷、1,600円+税)

デニマルさん: 7月号

 今回紹介の本は、第27回山本周五郎賞を受賞している。山本周五郎賞は、俗に「山周賞」ともいわれている。昨年9月に紹介した「残穢」(小野不由美著)が2013年度の受賞作品である。この山周賞を他の文学賞と対比してみた。純文学の芥川賞や太宰治賞他、大衆小説対象の直木賞や吉川英治賞等この山周賞もこの分野に入る。新人作家向けには吉川文学新人賞やオール読物新人賞等がある。他に時代小説や経済小説、推理小説等々、最近の本屋大賞等を入れると多くの賞がある。中でも山周賞は、直木賞に含まれない幻想小説が入っているので「直木賞候補の残念賞」とも邪揄されているが、両方を受賞した作家もいる。池井戸潤著の「下町ロケット」は山周賞に落選したが直木賞を獲っている。
 さて今回の著者だが、ミステリー作家といわれている。2011年に「折れた竜骨」で日本推理作家協会賞、今年は山周賞を受賞している。2010年に「インシテミル」が映画化され、ベストセラーとなった。他に「追想五断章」等、日常の謎を追う青春ミステリー分野での人気作家である。

柘榴 (ざくろ)        ――ザクロに秘められた策略――
 この本には、6編の「日常の謎」を追ったストーリィが書かれてある。どの話も終わりまで読まないとその謎が解明されない精緻なロジックである。この物語は、両親の離縁話しで姉妹がどちらの親に引き取られるかを書いている。その筋書きは姉妹の都合のいい結論を導き出す策略が綿密に練られていた。柘榴といえば鬼子母神である。鬼子母神は子育てと安産の神様であるが、その深い由来と姉妹の取った行動が見事に繋がるミステリーである。

万灯 (まんどう)       ――灯火に秘められた異国の夢――
 万灯とは、数多くのともし火であり、仏前の多くの灯明もこの中に入る。他に、「某社御祭礼・氏子中」などと書き、祭礼で担ぎ歩いたり飾ったりすることもある。この物語は海外での天然ガスを求める商社マンが主人公であり、万灯は日本へのエネルギー源の輸入を意味している。東南アジアでのある事件で、当事者が日本に帰国して更なる事件に発展する。その結果、主人公が窮地に追い込まれるが、その遠因は現地での些細な事に謎があった。

満願 (まんがん)       ――ダルマに秘められた願いと謎――
 この本にある6編のそれぞれの題名は、著者と読者を結ぶ謎のキーワードが込められている。それも単純にその言葉の意味だけでなく、その由来であったり連想されることも含まれている。この物語は、下宿人である主人公と大家夫妻との間で展開される日常的なことから事件に発展する。夫々の願いが込められたダルマであるが、そのダルマの置かれた場所で事件が起きた。事件の全貌をダルマが見ていた。この真相は読んでのお楽しみである。


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