例会部会
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「第186回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男: 7月号

【データ】
開催日: 2014年5月23日(金)19:00~20:30
テーマ: 「P2M : 新時代への変革の基盤」
 ~P2Mガイドブック改訂3版の紹介~
講師: 日本工業大学大学院 (技術経営研究科教授) 清水 基夫 氏
講師略歴及び講演概要:
    こちら のリンク先の例会案内をご覧ください。

 【はじめに】
 システムマネジメント工学の教授でありPMAJの副理事長を務める講師は、長年のプログラム & プロジェクトマネジメントの研究や実践経験に基づき、今般「改訂3版P2Mプログラム & プロジェクトマネジメント標準ガイドブック」(日本能率協会マネジメントセンター発行)の改訂委員会委員長として、同ガイドブックの編集を担当されました。
 本例会の当日は、PMAJの会議室が満席となる約50人の聴講者を前に、1時間半という短い時間の中で、講師ご自身及び改訂に携わった多くの方々が約2年にわたる多くの時間を費やして完成させた同ガイドブックの改訂内容について、次の4つの副題でご講演頂きました。
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    1. 改訂の背景
    2. P2M改訂の経緯と基本方針
    3. P2Mガイドブック改訂3版の概要と特徴
    4. P2Mの特徴
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 以下に、当日戴いた実際のスピーチを要約して記載致します。
 但し、上記3.についてはガイドブックの特徴的な図表についてのみ解説され、ガイドブックに記載された内容とほぼ同じですので、要約については省略させて頂きます。
 当日配布された講演資料(P2M会員のみ掲載の参照可)をご参照頂ければ幸いです。
 又、ガイドブックの改訂の経緯と概要については、同ガイドブックの巻末(補遺)にも記載されておりますので、ご参照願います。

 【講演概要】
P2M : 新時代への変革の基盤
1.改訂の背景

ガイドブック初版の発行当時から予感はありましたが、15年前と今ではまったく社会や環境が変わってしまいました。当時の高校生は携帯端末を持っていなかったのですが、その後携帯電話を持つようになり、今はスマートフォンを持つことが一般的になりました。さらにスマートフォンやタブレット端末の発展により、今やパソコン離れが起きつつあります。
P2M標準ガイドブックですが、2001年にエンジニアリング振興会(ENAA)が業界向けに出版し、その後2003年に上下巻に分けてPHPから発行されました。レトリック、非常に味のある文書でしたが、かえってわかりにくいという意見もありました。2007年にプログラムマネジメントをもう少しわかりやすくした新版(=改訂2版)が発行されました。(JMAM版)。今回、それを全面改訂をした改訂3版を発行しました。
デジタル革命と知識社会
以前はデジタル革命、グローバリゼーションは対岸の火事でしたが、次第に翻弄され、今回は意識しています。
ドラッカーが「知識社会」になったと言っています。日本はかつて非常によいポジションにいましたが、1990年になって怪しくなってきました。即ち失われた10年、20年いや30年です。
情報化革命が進んでいます。知識社会とはどんな社会と思っていますか?よく考えると知識が日々更新され、情報がどんどん失われていく社会です。また、知識社会は、職場(製造業)がどんどん小さくなっていく時代です。そこだけ見ると先は暗いのですが、工業化社会では農村が小さくなっていき、その際打ちこわし等が起きましたが新しい産業ができました。同様に知識社会では、また新しい産業が出来てくるでしょう。
機械の優位性と新たな社会の創造
コンピュータの能力が進化し、ハイエンド機では1.8倍/年で、PCでは1.93倍/年の割合で性能が上がっています。即ちPCが登場して現在までに7~8桁性能が上がっています。
数年前、IBMのコンピュータと人間のチェスの戦いで、IBMのコンピュータに人間が負けました。今のPCは当時のIBMのものより性能が上ですから、チェスより難解な将棋でPCがプロの棋士を負かします。
機械と人間の関係ですが、今は人間が優位ですが、数年経つとロボットが優位になると思います。
「ロボカップ」という2050年に人型ロボットがサッカーのワールドカップチャンピオンチームと試合して勝つことを目指し、その研究過程で生まれる科学技術を世界に還元することを目標としている競技があります。
新時代のイノベーションと産業の盛衰
物づくりは省力化が進み、産業として雇用力がなくなってきました。では今後どうなるか、何が出てくるのか。創造性がますます重要になります。つまりP2Mが大事になってきます。
2010年~2020年で、どんなものが伸びてくるでしょうか。プログラムの自動化は早く、ピザの配達に無人のヘリコプターを使おうとする会社まで現れました。
この10年、20年に技術的な開発は進みましたが、技術だけではダメでビジネスイノベーションが大事です。かつて深海探査技術で日本は進んでいたのですが、今は周回遅れになっています。現在世界では、水深1000メートルの海底からドリルし2500メートルの深さまで掘るというところまで技術が進んでいます。
社会の構造的変動
先日ドバイにPMI®の用事で行ってきました。ドバイは中東の妙な国と思っていましたが、戦略的に国を作っているところでした。ドバイ空港は世界一と言われた北京空港より大きいのですが、世界のロジスティクスをコントロールするために大きな空港を作っていたのです。日本で24hr空港を作ると言っているようではとても敵わないと思います。
色々な技術があり、それをどこにアプライするか。無数の変革・想像・挑戦が必要で、それはP2Mに期待するところです。P2Mとして、色々な人がわかるものを作る必要があり、それが使命と考えます。
プログラムマネジメントの業務
経営戦略・方針はあいまいで複雑ですから、その複雑性を解消し、暗黙知を形式知にしないと組織で使えません。この複雑性を解消するのがプログラムマネジメントの業務です。
一般にプロジェクトはミッションが明確に定義され、その達成はタスクベースの計画によりコントロール可能ですが、プログラムはプロジェクトに比べて高度の複雑性を持ちます。
この複雑性には2つのレベルがあります。ひとつは、非常に複雑な機械を動かすオペレーティングプログラムのように、多数のプロジェクトを組み合わせるために、それらの相互の関係性をコントロールするための「詳細化の複雑性」です。もう一つは、原発廃炉とか人口減少のように、環境変化を受け、プログラムの本質が何かを見通すことが困難であるという意味での「動的複雑性」です。
プログラムマネジメントでは、最初に価値がわからない為、自分でラインを決めることを行いますが、プロジェクトマネジメントでは、それぞれがラインに合うようにコントロールします。

2.P2M改訂の経緯と基本方針
改訂実施体制

ガイドブックの改訂は、6つの執筆部会で、執筆委員30人と査読委員17人の体制で対応し、2年くらいかかりました。
改訂の基本方針
改訂の基本方針として、グローバル視点を考慮しISO21500の構成を参考にし、プロジェクトマネジメントについては、これをベースに考えています。また、PMBOK®等でプロジェクトマネジメントは進みましたが、今からはプログラムマネジメントですから、プログラムマネジメントに注目しています。さらに、ガイドブックの目的を明確にし、記述の詳細度にばらつきがあったので均一化をはかっています。
改訂執筆の方針
改訂執筆の方針として、幅広い読者を意識しています。
ある子供が、それまで全くうまく人物の絵を描けなかったのですが、翌日に急にうまく絵を描けるようになりました。それは何故でしょうか。実は絵を描くときに、目の色や髪の形とか何を着ていたとかに着目して描くよう伝えたのです。また、この子はさらに独自のイノベーションを起こしていました。実は彼は鏡で自分を見て、自分の姿を描いたのです。つまり分かり易くポイントを教えたことにより技術が飛躍的に伸びたのです。プロジェクトマネジメントも同じで、初心者にクリティカルパスとかの考え方を教えると変わるのです。
「分かり易く」への「実務家的アプローチ」
今回の改訂は、分かり易くすることを念頭に置き、プログラムをオペレーション型と戦略型に分け、プログラムの類型と事例を示し、プログラム概念の複雑性の解消をはかっています。

3.P2Mガイドブック改訂3版の概要と特徴
 ※ 内容省略

4. P2Mの特徴
複雑性への対応

複雑性への対応の図表は、P2M以外との比較を示しています。但しこの図表は、PMBOK®等と比較していますので、ガイドブックには掲載できないものです。
暗黙知の活用
戦略プログラムの展開として2つのモデルを示しています。トップダウン型とP2M型です。
大きな会社はトップダウン型、小さな組織はP2M型が適していると思います。
むしろ大会社はトップダウンでやらないとうまくいかないと思います。
P2M : イノベーション(価値創造)の方法論
大きな変化の時代に生き残るには、いかに変化できるかということであると思います。
そのために方法論が大事ですので、是非P2Mを実用に使って頂きたいと思います。

 【感想】
  講師の清水基夫様には、P2Mガイドブック改訂の背景について、大変分かり易く興味深い話題を交えてご説明頂きました。また改訂の中身についても、軽く図表を解説頂いた程度でしたが、改訂の骨子がよく理解できました。
 私がかつてPMSを受験する際に入手したP2Mガイドブック(初版、2分冊)は、不勉強な私には、どちらかというと色々なマネジメントの方法論を単に束ねたものとして映り、それぞれの関連についてはほとんど理解できませんでしたが、今回の改訂3版を見ると、講師が講演の中で述べられていたように、確かに初心者にもわかりやすく、且つポイントを押さえた内容になっていると思います。
 このレポートをご覧頂いている読者の方々も、是非改訂版を入手して一読されることをお奨め致します。
 最後に、今回のご講演を含め、改訂版を編集頂きました清水基夫様、及び色々な局面で改訂に携わった方々に、この場を借りて感謝いたします。
以上

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