例会部会
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「第187回例会」報告

PMAJ 例会部会 中前 正: 8月号

 日頃、プロジェクトマネジメントに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、2014年6月に開催された第187回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日時: 2014年6月27日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「社内PM力の底上げを実現」
 ~プロジェクトの問題を暗黙知から形式知へ~
講師: 有賀美裕氏 (PMAJ 事例に基づくPM問題集研究WG 主査、TIS株式会社)

 昨今の厳しい経済情勢のもと、企業間の競争は、一段と激しさを増しています。そんな中、プロジェクトマネジメントの難易度が、以前に比べて高まっていると感じている人は多いのではないでしょうか。

 難易度の高いプロジェクトを成功に導くには、成功例、失敗例ともに、過去の経験からしっかり学ぶことが不可欠ですが、実際は、それらの経験を活用できていないことが多いと思われます。しかしその一方、さまざまな企業において、プロジェクトをマネジメントする過程で経験してきたことをアーカイブ化し、組織の資産とすることで、ノウハウを若い人たちに継承しようとする動きも見られます。

 今回の例会では、PMAJ「事例に基づくPM問題集研究WG」主査の有賀美裕氏とメンバー4名を講師としてお招きしました。このワーキンググループは、過去の事例をもとに4択形式の問題を作成し、それらを若いマネジャーに解かせることによって、ノウハウを共有することを目的に活動しています。その手法は、以下の4段階で構成されています。

    1. 現場で発生している事例を、ショートストーリーで表現する
    2. 解決方法を考えさせる
    3. 解答案とのギャップがあれば、その理由を考えさせる
    4. 解説でノウハウの定着を図る

 ワーキンググループでは、この段階を踏むことによって、実際に起こりうるプロジェクトの課題を疑似体験し、生の経験やスキルを継承することができると考えています。現在もプロジェクトにかかわる多種多様な事例を集め、問題を作り続けており、日々、それらをブラッシュアップしています。

 例会は、参加者全員で実際に問題を解いてみたあと、グループで討論し、解答を発表するワークショップ形式で進行しました。ここではそのうちの1問を以下に紹介します。

<問題>
 プロジェクトは要件定義工程に入り、お客様と共に要件定義書作成を進めているが、なかなか進まない。
 原因は、お客様が定常業務に追われて時間が取れず、要件が固まらないためである。
 その結果、お客様マターの課題が山積み状態になっている。お客様の担当者に問題提起を行ない、改善を依頼しているが、一向に改善されない。
 さて、プロジェクトマネージャのあなたは、まず何をすべきか最も適切な解決案を一つ選びなさい。

<選択肢>
A ) 担当者間だけのやり取りに留めず、双方の上位レベルに、定期的に問題をエスカレーションする場を設け(ステコミ等)、プロジェクトとしての改善をお願いする。
B ) お客様に要件を詰めてもらうに当たり、解決案の提示も行い、気付きを促す事で回答をし易くする。
C ) 課題一覧で回答期限を明確にし、定期的にお客様に回答の催促を行なう。
D ) お客様マターの要件確定を待っていると全体が遅れてしまうので、お客様マターの要件は後回しにし、先に進める。

 いかがでしょうか。この問題については、参加者の正解率が高く、多くの人が解答に納得していたものと思われます。では、解答と解説文を見てみましょう。

<解答>
 A )

<解説文>
■ 要件定義に慣れていないお客様の対応
 この問題は開発サイドだけでは解決出来ない為、お客様と現状の問題点について話し合い、共有する事が重要です。また、この内容については担当者レベルだけに留めず、ステコミ等の会議体を通じて、トップ層も含めた階層別のエスカレーションが必要です。
 また、開発サイドで出来る事として、お客様に課題を投げかけ回答を待つだけではなく、課題に対して考えられる解決案をいくつか挙げ、お客様に選択して貰う事(B)も効果がありますが、お客様のトップダウンによる改革をして頂かないと、現場レベルでは限界がある為、Aが優先度が高いです。
 Cの「回答期限を明確にして催促する」は、状況を考えると効果は期待できないです。Dの「お客様マター要件は後回しで進める」は手戻りに繋がります

 講師によると、この解説文に、どれだけベテランとしての知見やノウハウをちりばめられるかが重要とのことです。また、単に「正解させること」が目的でないとも言います。正解にたどりつくまでに「自分の頭でじっくり考えさせ、シミュレートさせること」が、現場で活躍できるマネジャーを育成する早道になり、それがひいては組織のプロジェクトマネジメント力の強化につながっていくと考えられます。

 一人一人の「暗黙知」となりがちなノウハウを、組織全体の「形式知」に昇華するために、問題を作ってシェアする、というアプローチは、私自身、とても有効な方法だと感じました。最後に、講師から、参加者の皆さんへ、ぜひこの手法やエッセンスを会社に持ち帰って実践してほしい、そして、我々のワーキンググループに入って一緒に活動してほしい、とメッセージが伝えられ、終了となりました。

 以上が今回の例会の報告となりますが、PMAJホームページのライブラリに、例会資料を公開しています。ほかにも問題が掲載されていますので、興味をもたれた方はダウンロードしていただければと思います。

参考リンク
◇ PMAJライブラリ (例会/関西例会)

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