PMプロの知恵コーナー
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「原発事故」 (18) おわりに (最終回)

仲 俊二郎/小石原 健介 [プロフィール] :6月号

 昨年1月から1年半にわたりオンラインジャーナルに連載をさせて頂いた「原発事故」については、今回で最終回とさせて頂きます。このシリーズを最後までお読み頂いた読者の方々ならびにこの連載を快く受け入れてくださったPMAJ理事長光藤昭男氏、編集長岩下幸功氏、三浦進氏に心から感謝します。また、技術的な内容の裏付けについては、私たちの訴えに対し、級友佐藤剛一氏経由で関西電力会長・関経連会長森詳介氏から贈られた大前研一の著書「原発再稼働最後の条件」ならびに北野倶楽部会長曾野豪夫氏経由でわが国原発の最高権威である石川迪夫氏から贈られた同氏の著書「原子炉の暴走」の助けによるものです。著書を贈ってくださった両氏ならびに私たちの訴えの仲介の労をおとり頂いた佐藤剛一氏、曾野豪夫氏に心から感謝します。

 おわりに

 今回の事故について危機管理の視点から最大の問題は、原発の命綱である電源の復旧がなぜ遅れたのかです。5号機、6号機や福島第2原発、女川原発、東海第2原発のように迅速に電源の復旧がなされておれば、原子力事故の国際原子力事象評価尺度(INES)において最悪のレベル7(深刻な事故)、史上例を見ない深刻な原発事故は防ぐことが出来たのです。電力会社にとって電源の復旧こそは、専門分野として他の容喙を許さぬ絶対領域にもかかわらずなぜ遅れたのか?この点については東電による説明もなく、いずれの事故調査委員会でも検証されていません。プラント管理者の常識としては、万一外部電源が喪失した際には、非常用発電設備によるバックアップ、さらにバッテリー電源の有効な8時間以内に外部電源の復旧を図ることが至上命令です。今回のケースは、11日15時47分に全電源を喪失し、実際に外部電源の復旧がなされたのは20日15時46分です。外部電源の復旧まで実に9日間を要しています。これでは現場の危機管理として全く弁解の余地はありません。この間に1号機、2号機、3号機のメルトダウンと1号機、3号機さらに4号機原子炉建屋の水素爆発、2号機原子炉格納容器の穴あき、これらによる大量の放射線物質の漏えい拡散という最悪の事態を招いてしまったのです。しかもこれらは、すべて全電源喪失から4日以内に発生してしまったのです。この事実を真摯に反省しなければなりません。

 日本の原発の多くは、活断層の真上に設置されています。百年に一度の地震や津波がいつまた起こるか誰にも予測がつきません。原発を継続すべきか廃止すべきか、あるいは長期的に縮小の方向にもっていくべきか、についての真剣な議論や国民的な合意のないまま、政府は本年4月11日、国のエネルギー政策を示す「エネルギー基本計画」を閣議決定。安倍政権は、民主党政権が打ち出した2030年代の「原発稼働ゼロ」方針を撤回し、原発回帰に向けて大きく舵をきることを宣言しました。私たちは、これを一方的に反対する者ではありません。この方針を進めるためには、まず今回の事故の真の原因とその背景にある抜本的な問題の解明とその解消がなければなりません。しかし、現状では真の原因の解明どころか抜本的な問題の洗い出しすら出来ていません。これで事故の教訓を学びとったといえるのでしょうか。同じ東日本大震災の地震と津波に襲われながら、なぜ福島第1原発のみが事故から3年経った今も13万人が避難する世界最悪の原発事故を起こし、他の原発、福島第2原発、女川原発、東海第2原発は事故を起こさず生き延びたのか、この点を究明しなければ決して事故の教訓を学ぶことはできません。事故を簡単に想定外の地震と津波による「自然災害」として責任を逃れ、何人も事故の責任を追及されない。なぜ「人災」としての事故を直視しないのか。これでは原発が日本の禍機となることを否定できません。

 現在福島第1原発では、これから半世紀にわたる原発事故の後始末である困難な廃炉作業への取り組みがはじまっています。これにかかる費用は2兆円あるいはそれ以上といわれています。廃炉作業の実績としては、これまでアメリカのスリーマイル島原発で行われています。これは原子炉や格納容器が健全な状態の中で燃料デブリと呼ばれる溶け落ちた核燃料の取り出し作業と原発施設の解体です。しかし、福島第1原発では、損傷または一部破壊されている原子炉や格納容器から燃料デブリを取り出すというスリーマイル島原発とは比較にならない極めて困難な作業です。しかも1~4号機の複数の原子炉を同時に行う廃炉作業としては、前例のないものです。そしてこの高い放射線量のため、人は現場へ近づけず作業はロボットに頼るしかありません。これには当然、日本のあらゆる科学技術の粋を結集しなければ遂行はできません、また途中でのギブアップは国として許されません。

 日本は世界で唯一の被曝国であるだけでなく、チェルノブイリ原発事故と共に世界でも史上最悪の原発事故を起こした国です。廃炉作業を含め日本は原発から完全に撤退することはできないのです。また事故の教訓から真剣に学ぶこともなく、簡単に即原発「ゼロ」を唱えるような無責任な選択は許されません。今日世界では400を超える原子炉が稼働しており、その中で日本が史上最悪の原発事故を起こした現実を謙虚に受けとめ、反省しなければなりません。日本人は果してこの事故から何を学んだのか?この教訓から原発の是非の議論ではなく、技術立国の威信をかけて原発の安全性をいかに高めるかに挑戦し、世界のエネルギー問題と地球環境の課題に貢献しなければなりません。これは日本にとって、正に国家百年の計の瀬戸際にきているのではないでしょうか。

参考文献
 下記の文献を参考にさせていただきました。
原発再稼動「最後の条件」 (大前研一、小学館)
朝日新聞
原子炉の暴走 (石川迪夫、日刊工業)
PMAJジャーナル 東日本大震災に寄せて (小石原健介)
神戸商船大学75周年記念誌 (記念誌編集委員会)
原子力船のマンニングに関する諸問題 (小田啓二 神戸大学大学院海事科学研究科長)
AERA 2011.4.11号
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