グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第80回)
セネガル国変革プログラムを支える3PM

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 4月26日に、群馬県「富岡製糸場と絹産業遺産群」が、2014年6月開催のユネスコ世界遺産委員会で世界遺産に登録されることが内定した。報道のとおり、富岡製糸場は明治初期にフランスの生産技術を導入して建造され、運営されていた。絹製糸プロセスだけではなく、シフトなど生産工程もきわめて合理的であり、日本近代産業のパイオニアであったことを改めて認識し、開国して間もない日本にこのハイテクを恵んでくれたフランスに敬意を表したい。
 フランスは、農業国である一方、工学大国・産業大国であり、建築技術、原子力技術、軍需技術、高速鉄道技術あるいはユニークな製造技術などに優れる。
 今月(5月)、フランスで衝撃的なニューが流れた。エネルギーシステムと鉄道システムを事業の両輪とする大手企業アルストームが、同社売上の7割を占める電力・エネルギーシステム部門を売却して、TGVなどの高速鉄道を中心とした鉄道システムのみに事業を絞ることを決定して、GEを第1、シーメンスを第2候補として売却交渉に入ったとの報道である。売却するのが斜陽産業分野であるならともかく、火力発電・新エネルギー・送電設備という世界的に超主流の事業分野の売却に踏み切るということが衝撃的である。これは当然フランス国にも大きな打撃で、政府はフランス人従業員の雇用の継続とフランス国内の関連事業への大幅な投資の継続を売却候補先に求めている。
 日本では、超苦境にあった大手エレクトロニクス企業が、1社を除いては、2013年度決算ではなんとか、光が見えてきたようだ。かつて聖域であった雇用維持いう企業のパラダイムを変えて生きる道を見つけている状況と言えよう。
 先月号でフランス鉄道の旅について書いたが、4月の遠征の主たる目的はセネガル国での3PM(プロジェクト・プログラム・ポートフォリオマネジメント)の国としての位置づけへの支援と英国ロンドンでの都市サミットでの出講であった。
 セネガルの首都ダカールには4月8日から13日まで滞在し、3PM大学院大学博士課程で2科目の出講をして、同学の流れを作ることに関わったほか、汎アフリカPM協会 (Pan African Project Management Association -2PMA) の創立記念セレモニーと第一回大会で単独基調講演を行う機会を戴いた。
 2PMAは3PM大学院大学(CASR3PM)の博士課程生であるセネガルの高級官僚が主体となって創設したPM協会で、セネガルだけではなく、旧フランス領諸国を中心にアフリカ諸国を横断したPM協会の地位を得ることを目指している。筆者は旧世界PMフォーラムの会長をしていたこともあり、最高顧問を拝命している。
 設立セレモニー・大会は首相自らが議長を務められる予定であたったが、当日朝閣議が3時間中断する事態が発生して、首相は内閣府に足止めとなり、名代でAbdoulaye TOP外務大臣が議長をされ、ほかに3名の閣僚が参加された。
 セレモニーのあと、2PMAから指名を受け、”The Changing Landscape of Project Management: 2014 - Plan Sénégal Emergent” と題した1時間の記念基調講演を行った。この題目は筆者の研究者としての代表的な論文であり、PMモデルの変遷にかかわる論述に、今回、セネガル国が大統領の政治使命をかけて展開している、2035年までにセネガルが、いわゆる新興国 (An emerging country) に到達するための変革プログラム(Emergent Senegal Plan)を支える3PM基盤を2PMA(プロフェッショナルPM機構)とCASR3PM(3PM博士人材育成機構)が提供する、とう構想を説いた。発表は政府からも評価され、また、各マスコミ(テレビ、新聞)にも一斉に取り上げられた。
 アフリカのような地ではハプニングはつきもので(だから現場合わせのPMのワザはことさら重要であるのだが)、急遽議長を務めることになった隣に着席のTOP外務大臣は当初かなり慌てておられたが、実に見事に現場合わせで仕切られた。フランス代表で来賓挨拶をされた実業家のフランク・モロウ氏は、エールフランスの失態で、前日夜ファーストクラスで来たのに拘わらず、スーツケースが届かず、当日朝慌ててダークスーツを買いに行った。また、一番慌てたのは、超一流ホテルの会議場で開催したのに、プロジェクターの準備ができてなくて、開演ぎりぎりに何とか届いたが、延長ケーブルがなくて、その場でなんとか工夫をしてしのいだ。

セレモニーでTOP外務大臣と協会会長 汎アフリカPM協会幹部
セレモニーでTOP外務大臣と協会会長 汎アフリカPM協会幹部

 セネガル訪問の後参加したロンドンでの大会は、Europe Business Assemblyという英国のNGO団体が主催するLondon Summit of Leadersという国際シンポジウムで、テーマは都市の開発であり、38か国から150名が参加した。基調講演者とセッション・リードスピーカー以外は、アフリカ、CIS諸国、中東、アジアでの各分野成功者が参加しており、元国連大使、上院議員(ナイジェリア)、開発銀行総裁(モンゴル、カザフスタン、ベナン)現役の市長(インドネシア、モンテネグロ)大学教授、インフラデベロッパーのCEO、アンチエージングの巨匠、ロンドン駐在各国外交官など、多彩であった。
 会場も超一流で、英国きっての名門クラブであるInstitute of Directorsで、ピカデリー広場近くのこのクラブの建物は元々は英蘭連合軍の元帥としてワーテルローの戦いでナポレオン軍を破ったウェリントン公爵が英国王から下賜された由緒ある館で、各ホールともに歴代英国国王や皇太子の肖像画で飾られた絢爛豪華なところで、そもそも英国になじまない私にはあまり落ち着くところではなかった。昨年12月にロシアの所属大学で、ナポレオンのモスクワ遠征を打破したミハイル・クトゥーゾフ将軍の胸像を見て、今回ロンドンで、ナポレオンの命運を閉じさせることになった英国の英雄の館に来ることになるとは親仏派の私には少々複雑な思いがあったが、世界で多くの講演を行ってちょうど30か国目にして初めて英国デビューを果たした記念すべき場所ではある。
 この、かなり場違いな基調講演を行うことになったのは、ウクライナとの繋がりにある。このイベントのオーガナイザー(スポンサー)がウクライナ東部の出版社の社長(大富豪)であり、その友人であるウクライナの教授が基調セッションの議長に指名され、彼の仲間である私も引っ張り込まれた次第だ。危機にあるウクライナからも10名ほど参加し(ロシアからも8名)、私から、私はウクライナの教授であり、ウクライナは不滅である(ウクライナ国歌)とウクライナへの思いも込めたメッセージを講演に入れた。  ♥♥♥

田中の基調講演(左はRodney Turner教授) 議長のコノネンコ教授(ウクライナ)と
田中の基調講演(左はRodney Turner教授) 議長のコノネンコ教授(ウクライナ)と


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