「グローバルPMへの窓」(第79回) 南フランスにて
3月30日から4月21日まで、フランス、セネガル、英国で過ごした。悪化するウクライナ情勢を見守り、ウ国のパートナー達を気遣いながらの旅であったが、セネガル ダカールでの大学院講義とPM協会発足大会での基調講演、ロンドンでのEuropean Business Assembly主催London Summit of Leaders世界シンポジウムでの基調講演ともにうまく収まった。その報告は次回行う。
今回は行程の半分をフランスの旅に充てた。今年からセネガルの大学院大学CASR3PMを自分の第一本拠と定めたため、セネガルの本家であるフランスについてもっと知りたい、フランス語に慣れたい、そしてフランス人の動態について観察したいという目的があり、これに1965年南米大陸放浪以来の陸路長距離移動の趣味を組み合わせた。ついでに講演を頼まれたロンドンの世界シンポジウムに出席のため、パリとロンドンをTGV、英仏フェリーそして英国南西鉄道の新幹線を乗り継いで往復してみた。
パリに学事打ち合わせで2日滞在の後、セネガルに渡る前の1週間は、南フランスのスペイン国境に近いフランス側カタルーニャ地方の中心であるペルピニャンという20万人都市で過ごした。カタルーニャ(フランス語ではカタラン)とはフランス・スペイン国境を成すピレネー山脈の両側に広がる独特の文化圏を形成する地方で、最大都市はスペイン側のバルセロナである。フランスの大学はベルギー国境に近いリール(Lille)にあり、北部はお馴染みになっているが、パリから南に来たのはこれが初めてであった。
フランスでは、3日以上滞在の場合はアパートホテルと呼ばれている滞在型ホテルで過ごすが、ペルピニャンのそれは、駅の真ん前でホームから2分、駅ビル地下のスーパーまで3分、町まで徒歩10分と便が大変よく、また、雪を抱くピレネーの高峰を望み、7キロ先の地中海からの潮風をかすかに感じ、ホテルを訪れるスペイン人(客の80%)、イタリア人、中国人とロビーでちょっとした交流ができる楽しい場所であった。中国人はこのような町にも団体でやって来て私に中国語で話しかけてくる。中国人から同国人と思われるのはしょっちゅうある。
ペルピニャンではフランス語の他にみなスペイン語を話すので、フランス語の会話は片言でもスペイン語は一応話せる私には大変心地よい。駅はフランスのTGVの国内線の南の終着駅であるが、国際線ではパリ発スペイン・バルセロナ駅直通便が日に4本ある。また、同じ地中海沿岸のマルセイユからマドリードへ直行するスペイン国鉄RENFEの新幹線AVEも半年前に開通した。子供の頃から鉄道そのものと駅が大好きな私は、フランスに行くと、仕事の合間をみて一日2時間は駅で過ごす。駅は動態観察に絶好の場所であり、何時間居ても飽きない。また、生きた会話のヒアリング練習の場でもある。
拠点(パリ、リール)から近距離のローカル鉄道の旅を行うのを常としているが、今回はペルピニャンからスペイン国境の町セルベール (Cerbère)と北のナルボンヌ(Narbonne) まで行ってみた。国境の町、セルベールは熱海にそっくりな町で、切り立った峠からの碧い地中海や国境の半島の眺めが素晴らしい。不思議なことは、ペルピニャン方面から、セルベールでトンネルを抜けたスペイン側の国境の町ポール・ブー (Port Bou)までは何本も直行列車があるのに、ポール・ブー発フランス側行きは全くないことだ。バルセロナからフランスに来るTGVはよいが、スペインからのローカル越境列車がだめなのは、なにかフランス側の(移民)政策があるのかもしれない。
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ペルピニャン駅前 |
セルベールの丘の上から、スペイン方向を望む |
ペルピニャンまでは、北フランス リール発、パリ・シャルルドゴール空港、リヨン、モンペリエ経由の直行TGVあるいは、パリ・リヨン駅からモンペリエまでTGV、そこから在来急行で行く。距離はパリから843キロで東京から広島相当である。
TGVの旅後半であるが、セネガル・ダカールからパリ空港に帰ってきた際、その足で空港駅からTGVのほぼ北端駅であるドーバー海峡の町カレー ビル (Clais Ville) までTGVを利用したが、こちらは287キロの走行距離がある。この路線のTGVの買いどころは、ロンドンとパリ、ブラッセル結ぶユーロスター(原型はTGV)と同系の高グレード列車が使われていることだ。
フランスのTGV(高速鉄道の意味)は日本の新幹線のライバルであるが、独断で比較をすると、定時運行性は圧倒的に新幹線が上で、TGVでは遅れはごく普通である。平均速度はほぼ同じ、ただし、平野部でのTGVの速度はすごい(風景写真をとってもぶれる)。内装は趣(サロン感)でTGVが上で、機能性では新幹線。TGVの座席配置は数字の順番通りではないので、フランス人以外には大変わかりにくい(ホテルの部屋番号も同じ)。料金では、新幹線は同じ駅間は均一料金であるが、TGVは日にちどころか時間帯で料金が変わる。TGVの本数は幹線でも1時間に1本あればよいほうで、新幹線のようにシャトルサービスではない。
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TGV、というかフランス国鉄、は1年有効のシニアパスを買うと平均25%、最大50%の割引を受けられる(パリ~ペルピニャン間は850キロ弱でシニア料金は片道8,500円程度と新幹線の半分程度でかなり安い)。TGVの乗車券を購入するのに必要な時間は新幹線の倍は優にかかる。TGVは改札がない代わりにコンポストと呼ばれる乗車券のパンチマシン刻印が必須で、これを忘れると検札で不正乗車扱 |
TGVの最新車両 (EUROSTAR仕様) |
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いされて3倍の料金を徴収されることがある。また無賃乗車や乗車券紛失も、3倍の料金徴収対象となる(リヨン→パリ間で乗車券を紛失した大学生が料金の3倍を取られていた。切符がでてきたら課徴金は返してくれるそうだ)。
TGVの料金は一等でも航空運賃より安いので倹約志向の強いフランス人はまずフライトを使わない。ちなみにTGVはあくまで高速移動の手段で、車窓からの景観はまったく単調で、何もない(町も1時間にひとつ程度である)。TGVに乗るとフランスが農業国であるのがよくわかる。
このような旅は小型のプロジェクトマネジメント適用版でもある。旅で何を一番重視するかの目的設定、旅程計画を立て、現地で修正また修正、定額予算を守るコストマネジメント、リスク管理(列車が予定通り走らない、ホテルの予約が通ってない、駅にタクシーが居ないなどの際の代替案の想定、盗難防止や町の危険な個所を情報と目視で察知する)、などが必要である。ちなみに南フランスに5泊6日居て、かかった費用はパリからの往復TGV代金が130ユーロ、キッチン付のアパートホテル代金が朝食を付けて250ユーロ、食費がほとんど自炊で(ボルドーワインを飲み放題で)75ユーロ、近接列車乗車賃が25ユーロで、合計6万7千円程度であった。
フランスでは私が入国した翌日にスペイン出身のManuel Valls新首相と、これまたスペイン出身のAnne Idalgo新パリ市長が誕生した。はじめ、このことを4月1日にペルピニャン市で聞いたときは地元のジョークだろうと思ったが、本当であった。EUの一体性を痛切に感じた瞬間であった。失業問題が依然深刻で、社会党政権の支持率は地を這っている。
フランスと地続きである、ウクライナでは国家分裂の危機が続いている。クリミア州については前号で、併合を決議した方もこれを歓迎した住民も後先を考えてないと記したが、さっそく、金融機関も電力・ガス供給も麻痺状態であり、最大の収入源である観光もウクライナからも欧米からも客が来るわけがなく開店休業状態となっている。大混乱が続くウクライナ東南部には私の関係する大学が3校あり、仲間うちの情報収集は簡単なメール交換でやっているが、大学は普通に運営されているものの国を建て直す道は遠そうである。 ♥♥♥
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