PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (44) (実践編 - 1)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 これまで3年半にわたっていろいろな面から「ゼネラルなプロ」について説明をしてきました。この話の発端は「ゼネラルなプロ-1」に示しているように公園のベンチで筆者が居眠りをしていた時にPM協会発行の「P2M」を拾い読みした見知らぬK氏が「この本に書いてある使命達成型職業人はゼネラルな業務に対応できるプロですなー」と言っていた言葉から、本エッセーの表題を「ゼネラルなプロ」としました。
 ゼネラルな業務に対応できる人??
 この言葉から想像するとゼネラリストと言う言葉を思い出す人が多いと思います。
 ゼネラリストとは2~3年ごとに多くの部署を巡り、各部署の業務をこなし、その都度上位職になっていくような人材と読者諸氏はイメージするでしょう。
 要するに自社組織内の仕事の内容を幅広く知っている人であり、特に各部署の専門業務知識を持つ人ではないです。

 昨今はほとんどの組織が専門分化され、縦割り的組織がほとんどでありそのため部門間の連携を阻み、異質な知の融合や新たな知の統合を阻止し、自部署の部分最適型人材(社員)の視野狭窄化が起きています。
 それを担う全体最適型人材の育成が必要であるとし、一橋大学の伊藤教授はこれをプロヂューサーまたはゼネラリストと称しています。
 教授の考えの多くは筆者の思っている「ゼネラルなプロ」の意味と似ています。
 しかし、一企業にとらわれず与えられた目標(具体的目標又は新技術開発や市場創生のような戦略的目標)を業際を越えてマネジメントできるプロフェッショナルという事では若干意味が異なっています。
 なぜなら、「ゼネラルなプロ」は上記のように与えられた使命の達成の「プロ」でなければなりません。

 ここで少し「プロ」の意味について考えてみましょう。
 大前研一の著書である「ザ・プロフェッショナル」から一部引用して解釈すると以下のようになります。

社内のみならず社外においても第一線で通用する専門知識や実務能力を備えている人」
顧客満足を約束事として自ら宣言することのできる人

 しかし、筆者はこれにも若干異論があります。①の定義は問題ないが、②は納得できません。自分が勝手に宣言しても結果がまずければプロフェッショナルとは言えません。よって、②は以下のように修正します。

 「仕事に結果責任をもち、顧客満足を達成できる人」

 プロフェッショナルと言えば身近なところで医師、弁護士、公認会計士、建築士等々がいますが、必ずしもこの人達全部がプロフェッショナルとは言えないケースもあります。
 この人達は優秀な大学を出て、国家試験も通って、専門知識も実務能力もあると証明がなされてはいます。しかし、社内的に優秀と言われペーパーワークも素晴らしいが、実務適性が低かったり、人間性に問題があったり、マネジメント能力に問題あったり等々で顧客との契約または約束事での実務において結果責任を持つこともせず、または顧客満足のできない人も多くいます。
 このような人達はプロフェッショナルとは言えません。

 「ゼネラルなプロ」は新しいタイプのプロフェッショナルです。

 要するに、「自社のコアー技術やそれ以外の技術そして人間の知恵を組み合わせて、事業に求められる使命や要求に柔軟に対応し、ソリューションを行うことのできる複合技術適用手法、すなわち「エンジニアリング」を通しての特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」人材という事です。
 しかし、昨今の企業に求められるものはこれまでのような猿まね的な技術または業務運営手法では企業のゴーイングコンサーン(企業の持続性)は守れない環境となってきている。
 すなわち、上記でも述べたように、使命の意味にも大きく2つがあり、その一つは具体的目標のある使命ともう一つは具体的目標の無い使命があります。
 前者はこれまで述べてきたような「ゼネラルなプロ」の範疇にてマネジメントできるが、後者は、話題となっているイノベーションを求める使命であると考えられる。
 すなわち、
 「イノベーションの創出を目的とし、新しい技術や手法を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を創出していくための戦略・決定・実行するものである。」
 これはMOT(Management of Technology)として定義されているものですが、P2Mの求める「不確実性」すなわち未知の情報、未確定な技術、予測不可能な環境などのリスクを発生する価値創造事業である。
 このためには発想力、認知力、創意工夫、知恵、判断力そして段取り力といった知識や経験を土台とした人間的特性の発揮も必要となります。

 筆者としては「ゼネラルなプロ」に求める人材像は後者の能力を持つことを期待していますが、ここまで到達する人材は経営者にもなれる人と思っています。

 ある会社では前者に相当する能力を持ち多くの海外でのビッグプロジェクトに成功し、会社の社長になったが一年も待たないで消えてしまった人もいる。この人はプロジェクトマネジメント能力には秀でていたがMOTの定義に示すような能力に欠けていたことが原因と考えられる。
 優秀なプロジェクトマネジャであっても経営者に向かないと良く聞く話です。
 その一方では会社では優秀な成績で通常業務を行い、将来役員として標榜されていた人がこの会社が投資したあるビッグプロジェクトのプログラムダイレクターとして派遣されたが、失敗したケースもある。このケースは前者に示した能力すなわち「エンジニアリング」を通しての特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」といった実務能力に問題があった為と考えらます。

 このように、「ゼネラルなプロ」になることで読者諸氏の将来は非常に明るいものとなります。
 その為には「組織、資源等の制約から自らをとき放ち、所与の使命を、国内に限らず海外を含め、あらゆる業界で活躍できる社内、国内、世界で通用するハイエンドプレーヤ」になることと思います。

 読者諸氏の中にも「ゼネラルなプロ」になるには相当の業務遂行上での経験、そして知識を得なければ簡単に到達する域にはなれないと思っている人も多いでしょう。
 このように言っている筆者もその域に達しているかと言えば必ずしもそうとは言えなく「論語読みの論語知らず」ですが「ゼネラルなプロ」に上、中、下レベルがあるとすれば「下」ぐらいと思っています。
 良く、講演などで人材育成の話を聞きますが、確かに立派なことを言っている人がいますが、この人が「ゼネラルなプロ」に相当する能力を持っているかと問うと「話し上手」だけの人も多いようです。

 これまで説明してきたことは最近発刊されたP2M標準ガイドブックのまえがきと第一章に記述されているのでそちらも併せて参照してください。

 次回からこの「ゼネラルなプロ」への道筋について筆者の拙い実務での経験やその中で思ったこと、そしてどのようにしてきたか等を例示しながら話を進めていきたいと思います。

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