理事長コーナー
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イノベーションを導くのは英語の社内公用語か

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :4月号

 「オフの発見は、仕事に効く」とのタイトルは、劇作家・演出家で、かつ、大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの平田オリザ教授の言葉だ。(朝日朝刊3/23付)仕事以外の時間である“オフに集う効果は予想以上に大きい”として、ビジネスと関係ないイベントを勧め、バーベュキューや素人演劇を例としてあげている。さらに、興味深い言葉が続く。“できるだけフラットな関係を作り、同じ言葉で褒め合ったり励まし合ったりすることが、仕事にとって大事なのです。・・・仕事上の序列や年齢や性別を超えたコミュニケーション”が“日本の仕事力になるのではないでしょうか”と結んでいる。しかし、“欧米の言葉に比べて日本語には、対等な関係で褒め合うボキャブラリーが極端に少ないと感じます”とも述べている。

 言語学の話になる。自分を示す第一人称代名詞には、「僕、おれ、おいら、わたし、わたくし、あたし、あたい、わし、わて、わちき、あっし、我輩、こちとら、小生、小職、拙者、それがし、自分」などがあるが、もともと「おおやけ(公)」に対するこちら側の「わたし(私)」という言葉であったという。一方、第二人称代名詞は、「君、あなた、そのほう、そこもと、そち、そちらさん、貴様、貴殿、御身、お主、おまえ、てめえ」などがあるが、もともと“あちらのほう”という方向指示の代名詞に由来しているという。その他に、「名前に『さん』をつける」。・・・「古来、日本人は話者自身を指す『私』の視点で周りの事物や人物を捉える。・・・対象とは客観的な存在としての事物ではなく、あくまで自己とどのような関係にあるかによって存在の意味を持つ『私』中心の観念であった。」(森田良行著、「日本人の発想、日本語の表現」、中公新書)

 現代英語の日常会話では、第一人称代名詞は、「I(アイ)」であり、第二人称代名詞は、「You(ユー)」しかない。日本人は、「先生、先輩、上司」と「同輩、同年代の友人」と「生徒、後輩、部下」と「私」が会話する時に、TPO(時、場所、機会)を考慮に入れて言葉を選ぶ。選択した言葉を間違うと、後々まで関係が悪くなる可能性が大だ。慎重に選択しようとすると多少のストレスを感じる。一方、英語の場合は、あらかじめ決まっているので選択の余地はなく、選択ミスへのストレスはない。実際、日本人相手だと明らかに敬語を多用する相手でも、英語であれば気楽に話せる経験をしている人は多いと思う。相手が客先の社長でも、英語の場合、気分は何となく“対等”である。

 これは人称代名詞に限定した話だ。平田は、日本語には“褒め合う語い”が極端に少ないと云っている。褒め合う習慣が少ないので、語いも少ない。励ます言葉も語いが少ない気がする。褒め合い、励まし合いは人間関係の潤滑剤だ。通常、褒められたり、励まされたりして、悪い気はしない。

 それでは、日本人同士で、平田の云う対等な関係を本当に作れるのであろうか。周囲との関係性を「私」視点で考慮して言葉を選択する(森田著)。例えば、実際にバーベキューやプライベートなゴルフなどのオフの際に、目上の教授や客先の社長を役職で呼ばずに「xxさん」と呼ぶには勇気が必要だ。対等なオフの関係を築けると、仕事も合理的に進むと思うが、実際に対等な関係作りは口で言う程には易しくない。宴席で、「今夜は無礼講でお願いします」とわざわざ断っても、その通りにやる人は実際多くはない。しかし、ブレーンストーミング的な会議では、対等な関係が基本である。何でもオープンに議論し、自由に批判し合わなくては良質のアイディアは出ないし、まして昇華することもない。日本のイノベーションをリードしたと云われているソニーやホンダでは、社内のオープンなコミュニケーションが尊ばれてきた。“自由でオープンなソニー”であり、対等をベースとした“ワイガヤ”はホンダの特長であった。

 このように考えると、日本のイノベーションの推進を妨げる要因の一つに、対等な討論を妨げている“日本語”があるのかもしれない。日本語での会話では少なくても“褒める”、“励ます”ことを心がけることが重要だ。ところで、ユニクロや楽天では、“グローバル人材”の養成を目指し社内公用語を英語にしたと報道されている。案外英語による会話を通して対等な討議がなされ、その結果、イノベーションが起きる確率が上がるのかもしれない。P2Mでは、イノベーションを追求するプログラムマネジメントの基本原則の第一に「ゼロベース発想」がある。この原則の実現には、社内公用語としての英語の採用が案外効果をもたらすかもしれない。

以 上

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