理事長コーナー
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スパコンとプロジェクトマネジメント

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :2月号

 国立情報学研究所 (NII : National Institute of Informatics) は、日本の人工知能の研究・開発の中心にいる。1980年以降に、各大学・研究所に分散化・細分化されている「人口知能の研究・技術を再統合することで新たな未知を切り開くことを目的」としている。現在、何と「東大入試に挑戦する」ことを掲げている。まず、「2016年までに大学入試センター試験で高得点をマークする」、ついで、東京オリンピックの翌年の「2021年に東京大学入試を突破する」ことが目標である。無論、東大が人口知能に配慮し、解きやすい入試を作ることはあり得ない。また、試験の解答時間も受験生と同じ時間で打ち切られる。

 これまで人工知能が挑戦してきた分野は、「チェス、オセロ、将棋、囲碁、クイズなど」が知られている。2011年1月にIBMのスパコン「Watson」が、米国のクイズ番組「ジェパディ!(Jeopardy!)」で、全米クイズ王に勝利した。2013年からは、電気通信大学にて囲碁の「電聖戦」があり、プロとスパコンの対決が始まった。「2013年に戦った二十四世本因坊秀芳・石田芳夫九段は、『囲碁ソフトはアマ六段程度』の実力があると話した」。この分野では、囲碁が一番難しいとされているが、あと10年もすると、プロがスパコンに“挑戦する立場”に変わるであろうと予測されている。

 ご存じの通りインテルの共同創業者のゴードン・ムーアによる「ムーアの法則」では、「マイクロプロセッサーの能力は2年で倍になる」とされている。勿論、物理的制約から、ムーア自身が、その限界にも触れている。少なくとも、スパコンが代表しているコンピュータの性能は、現状では当分上がり続けると予測されている。年々スマホの新機種が発売され、その都度性能が向上している事からも、スパコンに代表される最先端技術が、日常生活に反映されるスピードも速くなってきている。

 「フラット化する世界」にて、ピュリツァー賞を受賞したトーマス・フリードマンの新刊は、「ザ・セカンド・マシン・エイジ」(未邦訳:第二次機械化時代)だ。彼の云う“第一次機械化時代”は、18世紀後半の蒸気機関とともに産声をあげた産業革命である。性能が倍増するには70年を要する。あくまで、人間を補助し、人間の能力を増大させるための動力システムが中心であった。決定を下すのは人間である。人間と機械は、補完する関係にあった。

 “第二次機械化時代”は、コンピュータとともに始まった。コンピュータの性能は、他のなによりも向上し高速化する。約2年で倍増する。しかも、「動力の用途を決定するには、多くの場合、人間よりも的確な判断ができるのはコンピュータだ」というのだ。上記のスパコンの例をあげるまでもなく、現在はまだ人間が勝っている能力も、遠くない将来にはコンピュータに置換わる。これからは、「機械と競争する」のではなく、「機械とともに競争する」のであり、“そのようなことが出来る人を増やすように教育を刷新する”。

 コンピュータが得意とするのは、“前提と条件”がきっちりと決まっているシステムだ。曖昧な判断は人間が向いている。故に、コンピュータの能力は限定的だ。人間と機械は、それぞれの得意分野で補完し合えばいいと言われて来た。しかし、ソフトを含むコンピュータシステムの性能の著しい向上が見えてきた現在は、この分担論も変わってくる。例えば、この“前提と条件”も、過去に起きた多くの事例を形式知化し、“条件”をコンピュータの性能に合わせ可能な範囲まで広げる(すなわち“緩める“)と、その組み合わせが何万や何億ケースになり、ケースが多くなればなるほどコンピュータの方が得意だ。

 一方、プロジェクトマネジメントを含む“マネジメント”は、“サイエンス”と“アート”の良いバランスの上になされるという。現在進行している科学技術の進歩を将来まで伸ばし、全体を俯瞰してみると、現在未開発のサイエンス分野があっても、研究されいずれ解明され、サイエンスの応用範囲は拡大の一途である。直感や経験に基づく“アート”の部分もサイエンスとして解明されてゆき、バランスのウエイトはサイエンス優勢となる。

 パソコンが職場に入って、インターネットが繋がり、メールや“検索”が日常的になってから、まだ20年と経っていない。ワープロ専用機が世に出たころ、日本語変換は複雑で面倒だから日本人には不向きで、キーボード入力は普及しないという説が雑誌を賑わしたことも嘘のようである。電車で見かける高校生は、スマホを片手の指で器用に使い、私には到底真似できないスピードで日本語を入力している。これを見ていると、パソコンが不得意だと公言する役員も今は生き残れるが、その若者達が役員になる頃には、今からは想像も出来ない職場環境となっていると思われる。ヘッドギアの様な帽子、少し大型の眼鏡、時計もどきのような端末が、脳波や視線などの生体信号により、言語の仲介がなくコンピュータが制御される予兆もある。その時の“マネジメント”は、人類の過去の膨大な失敗データをもとに、コンピュータが推薦する選択肢を、脳波や視線で選ぶということになっているだろう。次のP2M標準ガイドブックの改訂第4版は、このような時代の流れに合った内容になる。今からは想像がつかないが、ワクワクする。

注 1 : NIIと人口知能関連の「 」及び“ ”内の記述は、NIIのホームページとWikipedia(1/26付)から引用
注 2 : トーマス・フリードマンの項は朝日新聞朝刊(1/24付)の“マシン・エイジ”から引用

以 上

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