東京P2M研究部会
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高齢化社会に備えるトータルライフマネジメント

梶原 定: 2月号

●長寿社会の人生設計
 (長寿社会の到来)

現在、我が国は、世界でも前例のない超高齢化の進展、一方、出生率の低下による少子化により、人口減少と超高齢化のスピ-ドが速まり、少子高齢化社会を迎えつつある。 具体的には、1970年に7%を超えたわが国の高齢化率は、1994年に14%を超え、2010年現在23.0%となっている。今後、高齢化率はさらに高まり、中でも12年後(団塊の世代)が75歳以上となり、高齢者人口が急速に増加することが予想され、個人の長寿化と人口構造の変化によって、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が、世界でも類をみないスピードで高まっている。

 (我が国の平均寿命の伸び)
平成24年簡易生命表によると、我が国の平均寿命(0歳時の平均余命のこと)は、
    昭和22年は、男性が50.06歳、女性が53.96 歳、
    平成 2年は、男性が75.92歳、女性が81.90歳であった。
その後、医療体制の充実、医学の進歩、生活水準の向上等により、平均寿命の伸びは、
めざましく、平成24年では、男性が79.94歳、女性が86.41歳 (表-1)となった。

表-1   主な年齢別、平均寿命の推移                (単位:年)
年次 (和暦) 男性 (歳) 女性 (歳) 男女差
昭和22年 50.06 53.96 3.90
    30 63.60 67.75 4.15
    40 67.74 72.92 5.18
    50 71.73 76.89 5.16
    60 74.78 80.48 5.70
平成2年 75.92 81.90 5.98
    15 78.36 85.33 6.97
    16 78.64 85.59 6.95
    17 78.56 85.52 6.96
    18 79.00 85.81 6.81
    19 79.19 85.99 6.80
    20 79.29 86.05 6.76
    21 79.59 86.44 6.85
    22 79.55 86.30 6.75
    23 79.44 85.90 6.46
    24 79.94 86.41 6.47
(出典:厚生労働省「平成24年簡易生命表」より作成)

また、100 歳以上の高齢者は、平成10年には1万人を超え、平成24年には5万人を突破し、38年後の2050年には68 万人を超えると予測されている。まさに、我が国は、人生100年時代の長寿社会に突入しつつあると考えられる。

(主な年齢の平均余命)
平均余命とは、0歳時の平均余命のことをいう。このように長寿社会の到来は、退職期にあたる65歳時の平均余命の伸張をもたらし、平成24年簡易生命表によれば、男性が18.89年、女性が23.82年 (表-2)となり、まさに人生100年時代を物語っている。

しかし、多くの人は、我が国の平均寿命が60歳であった時代の画一的な人生モデルのまま高齢期を迎えている。

   表-2   主な年齢別、平均余命                  (単位:年)
年齢 < 男性 > < 女性 >
  平成24年 平成23年 前年との差 平成24年 平成23年 前年との差
0歳 79.94 79.44 0.50 86.41 85.90 0.51
10     70.23 69.77 0.46 76.70 76.24 0.46
20     60.36 59.93 0.43 66.78 66.35 0.43
30     50.69 50.28 0.41 56.94 56.56 0.38
40     41.05 40.69 0.36 47.17 46.84 0.33
50     31.70 31.39 0.31 37.59 37.32 0.27
60     22.93 22.70 0.23 28.33 28.12 0.21
65     18.89 18.69 0.20 23.82 23.66 0.16
70     15.11 14.93 0.18 19.45 19.31 0.14
75     11.57 11.43 0.14 15.27 15.16 0.11
80     8.48 8.39 0.09 11.43 11.36 0.07
85     6.00 5.96 0.04 8.10 8.07 0.03
90     4.16 4.14 0.02 5.47 5.46 0.01
(出典:厚生労働省「平成24年簡易生命表」より作成)

(社会状況の変化と今後の課題)
急速な少子高齢化社会への進展とともに、様々な社会状況の変化が発生している。
  社会のグローバル化による(経済、通信、情報)のグローバルな競争激化、
  技術革新によるネットワーク社会の到来 、
  高度情報化社会の進行による産業社会構造の大きな変化により、私達の生活も大きな影響をもたらしている。
  現状の雇用状況をみると、就労の多様化が進み、雇用形態も正規社員(長期契約雇用者)と非正規社員(短期契約雇用者)、さらに限定社員(正規社員と非正規社員のちょうど中間にあたる雇用者)が議論されており、就労形態も多様化してきている。
私達を取り巻く生活環境は、このような社会状況の変化のもと、今後、様々な影響を受けることになり、これらの変化に対応していくためには、将来を見据えた対応が必要となっている。

そのため、個々一人一人が充実した、豊かな人生を過ごすためには、「現状のありのままの姿(現実)を認識し、現状の課題を俯瞰し、将来に向け、ありたい姿を見据え、生涯をとうして、自己責任のもと、悔いのない、充実した人生をいかに過ごしていくか、自らの人生を総合的にマネジメント」するトータルライフマネジメントの実行が求められている。

(社会状況の変化に伴う生活環境で生ずるリスク)
私達を取り巻く生活環境の変化による日常生活の中で考えられるリスクを予測(特定)し、そのリスクに対しては、「どのようなリスクが起きるのか」と、「いかにして、なぜ起きるのか」を考察・分析することである。 そのためには、リスク(危機)を具体的に、特定しリスク・マネジメント(危機管理)を実行することが求められる。

具体的には、人生のライフサイクルで生ずる、誰にでも訪れるリスク事象を予測し、リスク事象のインパクトを考察し、対応策を考察することである。

日常生活の中で考えられるリスクとしては、以下の事象が考えられる。
  人生を通して訪れる3大不安(貧困、病気、孤独)など、
  加齢から生ずる肉体的機能の低下や生活習慣病(日本人の3大死因ともなっている、癌、脳血管疾患、心臓病などが指摘され生活スタイルが要因となって発生する諸疾病)、並びに 後期高齢者(75歳以上)の発症率が高い認知症など、
  職業生活の変化から生ずる精神的健康問題等の事象などなど。

多くの人が、20歳前後に就職、その後、結婚、子どもの誕生・子育てと続き、退職後の生活を余生として人生を終える平均寿命が60歳代の画一的な人生モデルは、平均寿命が80歳以上を迎える、現在では、多くの人の求めにそぐわないものとなっており、リタイア後の四半世紀にも及ぶ人生を、健康で、生きがいをもち、自らが持つ能力を最大限に活用して生きていくための準備が必要となっている。

(豊かな高齢期を迎えるための準備)
一般的に、多くの就業者は、現役時代、地域社会との関わりをほとんど持たずに過ごすことが多く、定年退職を迎えてはじめて、定年退職後の生活をどのように、いかに生きていけばよいのか考え始めるケースが少なくないようである。

我が国の平均寿命の推移から読み取れるように、定年退職を過ぎて、尚、四半世紀に及ぶ人生を、如何に精神的に豊かに、充実した老後を迎えるためには、私達は、100歳までのトータルライフプラン(生涯生活設計)を、人生のライフステージ(節目、節目)で、準備し実行することが不可欠となっている。

このように、人々は、生活水準の向上に伴う物質的な豊かさに加え、生き方の多様化にみられる精神面の豊かさの追求など、生涯を通じて「健康」で「生きがい」や「希望」のある人生を送ることや、自己実現を求める傾向が強くなってきている。

(高齢者にとっての将来の三大不安)
多くの高齢者にとって将来(退職後)の不安を考えてみると、
  心身機能の衰えや要介護状態になって個人の尊厳の維持や社会とのつながりが困難になる不安、病気への不安、孤独・孤立への不安であり、高齢期を豊かに暮らすためには、何よりも健康であることが大切である。そのためには、若い頃から、健康管理の重要性を理解し、高齢期に向けた健康づくりに取り組むとともに、適度な運動を継続することが不可欠となっている。

  収入減に伴う経済的不安、生活費への不安であり、生涯にわたって予想される大きな出費(医療費・介護など)に必要な対策としての家計計画であり、生涯経済計画を策定し、将来のライフスタイルに合わせた生活費を確保することが、大事になる。

  社会的地位の低下への不安、仕事や為すべきことがなくなる不安、社会的存在意義の喪失への不安からくる、生きがい、働きがい、自分の居場所の確保が必要となる。

「生きがい」は、個人の生活の質を高め、人生に喜びをもたらすものであるが、何に生きがいを見いだすかは人それぞれ異なり、多種多様である。 趣味や教養のほか、就労、起業、社会貢献、さらには、それらにつながる学習活動も含めあらゆる活動が「生きがい」になりうる。

一人の人間にとっても、生きがいは、年とともに変化していくこともあるが、近年、地域参画・社会貢献に生きがいを感じる高齢者が増えてきている。定年後の生きがいは定年に伴ってすぐに見つかるものではないため、若い時期から高齢期を見据え、学習活動、能力開発、社会貢献など様々な活動に取り組むことを通じて、自ら生きがいを創出していくことが重要となる。

さらに、地域社会やコミュニティーでの活動を行っていく上で、人間関係の形成は不可欠であるが、 こうした人と人とのつながりは自然にできるものではなく、現役世代から、異なる分野の人と積極的に交わり、関係性やネットワークの構築・維持する努力を行い、継続することによってはじめて成立するものであり、それが高齢期の孤独・孤立を防ぐことにもつながる。

●おわりに
長寿社会の到来は、刻々と近づいており、高齢者だけの問題にとどまらず、すべての世代の人々が、長寿という新たな社会を迎えるにあたり、生き抜くことを意味しており、それぞれが人生100年時代を想定し、自らの人生を①健康で、②経済的に豊かで、③充実して生き生きとした人生をいかに生きるか、具体的に社会状況の変化と、それにより生ずる様々な課題を読み取り、ライフプラン(人生設計)として策定し、トータルライフマネジメントを実行する時代に突入していると考える。
その為には、個々一人一人が、どうすれば自己実現を計れるかを積極的に考え、自らの生きがいを創出していくことが重要となる。

言葉を変えると、長寿社会とは、性別や過去の慣習・経歴にとらわれず、一人一人が、選択的に自身の生きがいを選び取れる余地が増えた時代であるといえる。その中で、すべての人が、自己実現を果たし、これまで気付かなかった新しい世界や新しい自分を発見し、生きがいをもって、より自分らしい豊かな人生を選び取ることができるようにすることが、これからの「生涯学習 (∗)」に求められている。また、子どもや若者にとって、高齢者は自分たちの将来像である。高齢者が自身の役割を認識し満足のいく生き方をすることは、子どもや若者が人生の成熟を理解し、将来に希望を持つことにもつながる。
注 (∗) 生涯学習の理念
2006年12月に改正された教育基本法第3条では、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」という「生涯学習の理念」が掲げられている。

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