グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第76回)
セネガルで花を咲かせたい

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :2月号

 新年は“ミッション・インポッシブル”への挑戦から始まり、月の後半は、教師として人生最大の待遇を受けるまで、全くめまぐるしい月であった。1月のハイライトはセネガルでの大学院教授として正式デビューであったが、その前にスエーデンの名門工科大学での欧州大学会議に出席したので、たった2週間で北欧と西アフリカへの2回の旅、摂氏-10度Cから+29度Cを経験、地球を東から西への移動が1万キロx 4、北から南への移動が9千キロと、めったにできない経験をした。

 1月14日、今年への私の夢とエスプリ (スエーデンでご一緒したチュニジア国の教授が、イノベーション教育をフランス語でEspritと表現しているのがすごく気に入り私も拝借することにした)を乗せてスカンジナビア航空コペンハーゲン行は成田空港を離陸した。静かな旅の目的地は、コペンハーゲンから対岸のスエーデン西岸にある北欧最大の港湾都市であり、名車ボルボの本社やエリクセンのオペレーションセンターがある、50万都市ヨーテボリであった。

 このヨーテボリに欧州きっての名門工科大学で、1820年創設の、チャルマース工科大(Chalmers Institute of Technology) があり、チャルマースがホストとなり開催されたCDIO Initiative 欧州地区年次大会にモスクワ国立文理大学チームの一員として参加した。

 CDIOとはConceive-Design-Implement-Operateの頭文字をとったもので、CDIOイニシアティブとは、モノづくりエンジニアリングのライフサイクル教育を主唱する工学教育の世界改革連盟であり、チャルマースを筆頭にスエーデンの3大学と米国マサチューセッツ工大が創設者となり形成され、現在は全世界の名門工科大学や工学部がメンバーとなっている。日本では、ものづくり工学教育で有名な金沢工業大学が加盟を認められている。このCDIOに加盟することが今ロシアの国立大学で大変なブームであり、すでに5大学が加盟しており、加盟申請をしている大学が5校ある。専攻した大学2校がRussian CDIO Academy まで創っている。

 私が国際教授として指導中のモスクワ国立文理大は、イノベーション修士課程を目玉に、加盟を申請しているが、名前(英語版)に Humanitiesがついていること、課程の母体の理学部が申請の核であるが、CDIOは「工学部」の連盟であることから、申請認可は一筋縄ではいかないであろう。本学は昨年12月に加盟申請を提出しており、準備不足は否めないが、加盟の所信表明のプレゼンテーションの機会を本大会で与えられた。国際舞台に慣れない大学関係者のヘッドコーチを務めたが、モスクワの大学のプレゼンテーションを私がやるわけにいかないので、共同スピーカーとして最後の締めのところだけ担当した。

 この大会で驚いたのは、欧州の名門チャルマース工大(約2百年前に広東を拠点とする東印度貿易で巨万の富を築いた豪商が私財を寄付して創設した)の超すばらしい教育・研究環境であり、また、ロシアの先端理・工学大学数校(モスクワ近郊のスコルカバ理工大学院大、シベリア連邦大など)が、すごい施設、カリキュラムで最先端工学教育をやっているということであった。

チャルマース工科大学 討議に臨むモスクワ文理大学部長(隅)と課程長
チャルマース工科大学 討議に臨むモスクワ文理大学部長(隅)と課程長

 スエーデンから帰国して2日後には、パリ経由セネガルに旅立った。パリからダカールへのエールフランス便は日本からのフライトでは乗継が間に合わないのでパリで1泊してダカールに乗り込むことになる。

 1月22日夜9時、ついに私にとり待望のセネガルに到着した。2010年終盤にセネガルに世界銀行のプログラムとして、政府の支援を得て、Le Centre pour les études avancées et reserche dans la management des projets, programmes et portefeuille (The Center for Advanced Studies and Research in Project, Program and Portfolio Management: 略称 CASR3PM)が設立され、学長は私の学の恩師であるフランス人教授であるので、私も、いの一番に教授に指名された。しかし、大学は同国の2012年大統領選挙のために一時的に活動停止を余儀なくされた。関係者の努力で昨年秋に活動が再開され、80名の博士課程生と40名程度(予定)の修士課程生を受け入れている。教授はダカールから5名が任に就いているが、海外教授は私が筆頭であるので、この度3年遅れで初講義と指導の機会に至った。

 3PMあるいは2PM専門の大学院はアフリカはおろか世界で唯一であり、学生は全員社会人であり、職種は公務員(かなりがキャリアの高官)、NGO幹部、開発コンサルタントが主であるので、教育内容は通常のPMではなく、国の開発(セクター開発)、公務改革、民間側の開発プロジェクトに関わるコンテキストでのP&PM教育である。私は、一応セネガルの旧宗主国フランスのPhDであり、P&PMのグローバルな環境での高度教育経験、45年の国際経験、途上国での業務経験と若干の開発論の知識があるとして、教授の白羽の矢がたったらしい。

 博士課程生23名、教授3名、若干の外部社会人を対象とした3日間のセミナー(授業)、博士課程生10名の研究テーマ指導、本学を拠点とする汎アフリカPM協会の指導は、お蔭で高く評価され、その内容は当地最大のTV局の30分の報道番組においてインタビュー入りで紹介され、また、ラジオ局からも2件の取材があった。

 セネガルは旧フランス領西アフリカの首都であった都市で、今でもフレンチアフリカ諸国の中でフランスに一番近い。フランス人にとってもアルジェリアとセネガルには特別の思いがある。フランス語が公用語で、実際にダカールでは知識人の間では完全にフランス語が使用されている。留学経験者もフランス帰りであるので、英語にはあまり馴染みがなかったが、いま国を挙げて英語への取り組みを奨励しているようだ。そういう環境ではCASR3PMの博士課程生も、まだ英語だけで課程に臨むことは無理な学生が過半数で、当方も講義スライドの事前配付や、いくつかのセクションはフランス語訳(グーグル翻訳を調整)を付けるなども配付するほか、学生のフランス語の研究論文テーマ、研究プロポーザルなどを、時間はかかるがフランス語で読むことに格闘している。幸い、若干のフランス語知識と学術・産業分野のフランス語は大体わかるので何とかなる。

 初講義が好評であり完全に捕まった状態となり、今年はあと2回、各々10日程度CASR3PMにでかけることになった。セネガルはアフリカの知と文化の都である。セネガルにプレゼンスを持つことは、アフリカ、少なくともフランス系サブサハラ・アフリカ諸国(コートジボアール、トーゴ、マリ、ニジェール、カメルーン、コンゴ(共和国)など、に展開する可能性を秘めている。

 スラブ・ヨーロッパ行きのトワイライトエクスプレスは、進路を変えて、アフリカ大陸にも展開することになった。

大学のガーデンでの集合写真
大学のガーデンでの集合写真

学生のキャプテン水資源・林野局長 民放テレビNo1 TFKの取材クルーと
学生のキャプテン水資源・林野局長 民放テレビNo1 TFKの取材クルーと

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