グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第75回)
ヨーロッパからフレンチ・アフリカへ

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 新年おめでとうございます。世界の東半球を巡回して語り部をやっていると、母体である日本の情勢が語りの勢いに影響する。安倍政権の成果としてドングリの背比べ的なOECD諸国の経済成長のなかで、ちょっと抜けたパフォーマンスを誇る日本のおかげで、私のラッパもかなり音色がよくなった。
 12月はモスクワでの非常に充実した一週間を終えて、ウクライナのキエフに列車で戻り、そこからエールフランス機でパリに行き、ANAに乗り継いで10日に帰国した。フライトは毎月のことであるが、たまに搭乗するエアラインとなると観察クセがでてくる。一年ぶりに利用したエールフランスは機内も綺麗でCAも大変フレンドリーであった。なによりフランス語の練習ができるのがありがたい。食事のエールフランスというが、ヨーロッパ域内のフライトの昼食は最低クラスである。ケータリングはキエフのようだが、物価の安いウクライナでは原価が100円以下という質であった。これを知っているらしいウクライナからフランスに出稼ぎに行っている女性の芸人たちは、タッパウェアで手作り料理とフルーツを持ち込み、免税店で買ったウイスキーをガポガポやりながら、楽しく過ごしていた。さすが、食通のウクライナ人である。CAはべつに咎めもしなかった。
 モスクワでは社会人とロシア連邦トップのビジネススクールの准教授と大学院生の混成クラスで研修を行い、その後、巨大国営企業(従業員90万人:日本最大のトヨタや日立でも35万人である)で招待講演のあと、9月に国際教授・修士課程イノベーション専攻のチェアに就任したモスクワ国立文理大学で、1日の全学セミナー(学部生から教授まで)を無事終えた。ロシアの国立大学は生き残りをかけた教育改革の波にさらされており、これは国の主導でもあるので、学長以下神経を研ぎ澄ませて大学各自の価値を打ち出すべく奮闘中である。大学の動きは日本では信じられないほど早い。学長も理が合えば即決である。
 あと1ヶ月でソチ冬季オリンピックであるが、我がモスクワ文理大はオリンピックボランティア拠点No.1であり、数百人規模を養成しているとのこと。トワイライト・エクスプレスと自称する私にとり、尽力したことで、即前に進む大学と巡り会えたことは大変うれしいことだ。


 モスクワでは、調子に乗り過ぎで悪い冗談を言った。「201年前にナポレオン・ボナパルトは70万人の兵を率いてモスクワに入場したが、ロシア帝国軍の反撃に逢い、一週間で撤退する羽目になった。私はたった一人でフランスからウクライナ経由でモスクワに1年前にやってきた。しかし、私はこちらで歓迎されて留まっている。そういう私のことをカザフスタンの友人達はパルチザン・ヒロシと呼んでいる。」この不遜なジョークは、この大学の玄関に入ったところに将軍の胸像があり、これは誰かと尋ねたら、この方はナポレオン軍を撃退したミハイル・クトゥーゾフ将軍(肖像画左)だとのこと、それでこの話を思いついた次第だ。ただし、本学はクトゥーゾフ将軍ではなく、ロシアのトルストイの後を継いだ文豪ミハイル・ショーロフ(上の写真左の写真)の名を冠っている。ちなみに私がウクライナで所属している国立造船大学は、日露戦争のロシア連合艦隊長として旅順港で機雷に触雷し戦死したステパン・マカロフ提督の名前を戴いている。(肖像画はWikipediaから引用)

ミハイル・クトゥーゾフ将軍 ステパン・マカロフ提督

 非常に興味深いのは、フランスと幾度となく戦ったロシアであるが、フランスへの憧れが非常に強く、また文化や教育でフランスの影響が強いということである。そもそもロシア連邦の国旗を見れば、フランスのトリコロール国旗の色模様を横にして順番を変えただけであることでもフランスの影響がわかるし、ロシアの格式のあるレストランの料理はフランス料理の地方版みたいなものだ。

 さて、今年であるが、これまでのフランスから北西への遠征も続けるが、今度はパリから南下して、かつてのフランス領西アフリカの中心であり、現在も親仏筆頭のセネガル共和国ダカールにあるCenter for Advanced Studies and Research in Project, Programme and Portfolio Management (略称CASR3PM)と称する大学院大学での講義が始まる。セネガルの教育制度はフランスの制度をそのまま応用しており、公用語もフランス語であるが、博士課程生は英語も達者であるので英語での講義を要請されている。この大学院大学は2010年に、私の学の師匠であるフランス人教授が世界銀行のプログラムで設立したのであるが、内政事情で、本格稼働が遅れていたものが昨年秋に再開され、一応教授である私が海外勢の口火を切って今月ダカールに入ることになった。

 セネガルでは、知識人はフランスで教育を受けており、極めて知力が高いが、国の開発はまだまだであり、一人当たりGDPではヨーロッパでも最貧に近いウクライナの3分の1程度である。日本との関係も極めて緊密で、また、日本が旧宗主国のフランスと共同で食糧自足に向けたプログラムを仕込んでいるなど、アフリカにおける重要なパートナーであり、私もなんとか役に立ちたいと入念に準備をしている。  ♥♥♥

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