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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~変える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 12月に二週間、13名の技術者を連れて、インド・バンガロールに滞在した。目的は、大きく2つ。ビジネスの観点からは、今後ますます売り上げ拡大が期待される新興国市場のニーズを知ってもらうこと。そして、各人の成長の視点からは、一般的に視野が狭くなりがちな技術者(エンジニア)に、異文化をどっぷり体感してもらうことで、目を見開き、自らをポジティブな方向に変えるきっかけをつかんでもらうこと。異文化に触れるために、インドからも7名の技術者に参加してもらい、インド人が入った4-5名のチーム編成で、家庭/店舗訪問・消費者へのインタビューや、調査のまとめと発表など、さまざまなグループワークをやってもらった。
 前者についての効果検証はこれからになるが、後者については、一定の成果を得ることができた。もちろん、個人差はある。感受性がより豊かな人、観察力に優れている人、英語力が十分でなくても積極的にコミュニケーションを取る人、内省ができる人、想いをより表面に出す人は、大きく変わった。研修の最中にも、幾度となく、「とてもいい経験をさせてもらっています。人生の中でも上位5位に入る経験です」と語ってくれたある人は、滞在した大学院の看板の前でジャンプする自らの姿を写真に収め、「変化する自分」を象徴的に示した。
 そんな彼の姿にも刺激を受け、その他の人達も変わっていった。海外出張が初めてだった人。外国人と英語で接すること自体が初めてだった人、外国人と仕事では接することがあっても、それ以外のことで語り合うのは初めてだった人、そもそも、仕事以外で人と接することが苦手で、自分の殻に閉じこもりがちだった人。そんな人達が、一緒にグループを組んだインド人達と友達になった。研修が終われば終わる関係性ではなく、今後も続く可能性を秘めた関係性ができた。適切な英語表現が思いつかず、言いたいことが上手く表現できないもどかしさを、程度の差はあれ、全員が味わった。自分の殻に閉じこもりがちで、「上手く他の人と溶け込んでやっていけるのか」懸念していた人が、皆に、愛を持って可愛いがられる存在になった。彼は、フェイスブックで皆と友達になり、それまでは非公開としていた自分の写真をフェイスブック上で公開した。そして、最終日には、「皆とつながりができたことが、宝です」と発言してくれた。9月から彼らを見てきて、大学院の寮で生活を共にしてきた中で、研修事務局冥利につきた瞬間だった。
 変える力。インドの多様性や家族に対する深い愛情や物を大事にする力、勤勉さ等に触れ、自らの考え方や行動の仕方を変えるきっかけを得た彼ら。研修に求められるものが、単なる「知識を得ること」から「行動変容」に変わってきている中で、今回の研修はその役割を果たしたと言えるだろう。しかし、研修中だけ気分が高揚しても、それが持続しないと意味が無い。これからの課題が、「行動変容をどう持続させていくか」だ。基本は、彼ら自身の意識と行動だ。加えて、今回は、二週間、同じ釜の飯を食い構築された関係性から期待される刺激がある。私はそばで見守り、時々更なる刺激を与える役割を果たそう。
 そのためには、私自身も変わっていかなければならない。年末は、1年を振り返り、来年何をするのかを考える絶好の機会だ。職場で上長とこの半年について語った際に言われた言葉が脳裏にある。言われた時は「そんなことない」と反発したけれど、冷静になって考えると、適切なアドバイスだった。彼がある事例を通して言いたかったのは、「決められたことは立派に実行するけれど、それを越えてやっていく点が弱い」確かに、自分の強みの領域では工夫はするけれど、それ以外には首を突っ込まない。末っ子として身についてきた他力本願的なところがなかなか抜けない。先日父親にも言われた。「苦手だと言わずにやってみたらどう?」その時はこう言った。「この年になってまで苦手なことをやらなくても、、、」
 でもその直後に、苦手なことをやらないといけない事態になり、なんとかそれを実践することができ、ちょっぴり自信がついた。親のPCにウイルスバスターをインストールするというタスクだった。通常は、夫に一任している。しかし、その日は、夫は不在だった。普段なら、ちょっとやってみて上手くいかないとすぐ諦めるのだが、高齢の父親に安心してもらうためにも、なんとかしないといけなかった。そんな状態の中で、普段では働かない脳が働いたのだろう。無事母親のPCにインストールしていたウイルスバスターを父親のPCにも入れることができた。
 2014年。強みを磨くと共に、苦手な領域にも少し、手を出してみようと思う。研修生だけに変わることを期待するのではなく、自らも変わるために。

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