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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~Everything is possible.~

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 Everything is possible. インドへの赴任者が教えてくれた、インドで役立つマインドセットだ。「全ては可能」。一見突拍子もないようなことでも、最初から「ダメ」と諦めるのではなく、「ダメもとの精神」でやってみることが大事。実際にその精神で行動することで、可能になったことがいくつかあるという。
 この考え方、なかなかいい。「全ては可能」と捉えることで、いろんな新しいことを経験したり実現したりすることができる。今年も11月末から二週間の予定でインドに行く。昨年始めて行った時よりも、インドに対する知識も経験も増えている。何を得られるだろうか、楽しみだ。
 先日日本経済新聞に、インドでの試験問題に対する回答の仕方についての文が掲載されていた。問題が5問あったとして、確実に点が取れそうな4問だけ回答し、1問を手つかずの状態にしておくと、教授から叱られるそうだ。適切な回答を思いつかない場合でも、問われているのだから、何でもいいから書くようにとの指示がなされるという。この前のめりの教育を受けているから、「自分は正しい」と思い込める自信が身につき、あそこまで話すのだろうか。彼らの自信が、他国の学生よりずば抜け突出している調査結果を見たことがある。なるほど!私が見聞きしてきた彼らの行動と照らし合わせてみて、なんとなく納得がいった。
 最近オブザーブしたある研修でも、インド人の話しぶりは抜きんでいた。別の研修生が何かコメントなり質問をすると、講師が対応する前に、2~3人のインド人が次々と解説をする。不明瞭なことを誰かが言った場合でも、「彼が言いたいことは、xxxだ」と説明してくれる人がでてくる。一般的な日本人のように、正しい答えだという確信が無い限り発言しないというのとは違う。ただし、時々本筋とは違うところでディベートのようなものがはじまったりすることもある。その時は、研修の場であれば、上手く軌道修正する力が講師に求められる。私が見学したクラスの講師の方は、さばき方が上手かったが、そうでないと、本題に戻れないままクラス全体が漂流することになりかねない。また、課題を簡潔に一行でまとめるというワークが出た際、「なぜ一行にまとめないといけないのか。一行にまとめることにより、自分が伝えたいリッチな内容が伝わらない」と疑問を呈するという人がいた。うーん、なかなか手ごわい。こういう考え方をする人達をどうやって説得したらいいのだろう?今回のインド訪問の目的は、研修のコーディネートだ。13名の日本人と7名のインド人で構成されるグループを相手にする。軌道修正する力と説得力を磨く、いい機会だと捉えたい。
 話すことが好きということは、語学を学ぶ上では大きなメリットだ。実際彼らは来日すると、日本語があっという間に上手になる。我々日本人が海外で、英語やその他の言語を話すようになるのに苦労するのとは、大きな違いだ。「あの人達は中身がないことでも気にせず、単にべらべら話しをしているだけだ」そう非難する人もいる。しかし、話す人と無口な人とを比較したら、話す人の方に軍杯が上がるのではないだろうか。
 日系企業で働いている彼らは、学習意欲も高い。分厚い本も、楽々と読みこなす。インド人を見ていて思う。日本人は大丈夫だろうか、と。少なくとも、今回一緒にインドに滞在することになった仲間たちには、Everything is possible.の精神で、話をしまくってきてほしい。話しすぎだと思うぐらいでちょうどいい。そのためのマインドセットと仕込みは、これまでにやってきた。インド人が話す英語が吹き込まれたCDROMを聴いてもらった。実践の場として、インド人の新入社員と話す場も持った。インド人が書いた難解な単語が用いられている本も、読んでもらった。インド人の気質を理解してもらおうと、3時間にわたるインド映画も一緒に視た。異文化対応力についても考えてもらう場を持った。ビデオ会議を設定して、話し合いもしてもらった。何よりも、何度も何度も繰り返し、英語力を磨いて、話すことの重要性を説いてきた。実際に研修を始める前に、インドで異文化研修兼チームワークビルディングも行う予定だ。
 これらの仕込みが、どんな効果を発揮するのか。昨年は、日本人が何か困ったことがあったら、私に相談してもらった。今年は、まずはインド人の研修生仲間、それでも解決しない場合は、インド人の研修事務局の人、それでも解決しない場合に始めて、私のところに来てもらうことにした。冷たいようだが、彼らの成長のためには、これがいいのではないかと決めたことだ。困っている彼らに手を差し伸べたいと思う気持ちをぐっとこらえ、心を鬼にして二週間を過ごすつもりだ。その結果、どんな変化が彼らの中に生じるのか、楽しみだ。次回以降、彼らの変化と、私自身の学びについて、ここで、皆さんと共有したい。

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