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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~多様な文化に対応する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 「グローバル人材を育てないといけない」メディアや社内でこの趣旨のコメントを耳にしない日はない。私自身も、日本プロジェクトマネジメント協会や大学で異文化コミュニケーションを教える度に、PMAJのテキストに従い「文化相対主義者を目指しましょう」と伝えてきた。また、それを実践することを心がけてきたつもりだ。元々、アメリカ・オーストラリア・インドやその他数多くの国での生活や滞在を経験してきた。そういう中で、多様な文化に対応する力は高まってきたと感じていた。しかし、これまではそれを客観的に示すことができなかった。英語力を示すTOEICの点数はあるが、「多様な文化的背景を持つ人と上手く接することができます!」と言っても、それはあくまでも、私の主観的な見方の範囲内でしかなかった。
 そんな中、私の主観を客観に変える可能性を持った、あるアセスメントツールとの出会いが先日あった。Intercultural Readiness Check (IRC) というオランダで開発されたツールで、異文化センシティビティー(感度)、コミュニケーション、コミットメント、そしてアンサーテンティー(不確実性)の4つの側面から、異文化適応力を数値化してくれる。知らなかったが、日本でこのツールを展開している(株)JTBコーポレートセールスによると、オランダは、多文化研究の最先端なのだそうだ。車で少し移動すると、すぐ他の国の国境に辿り着くような環境で育つ欧州人は、多様な文化に対応する力を自然と身につけているのかと思っていた。しかし、どうもそうではないようだ。実際、複数の国での滞在経験がある人が、異文化適応力が必ずしも高いわけではないらしい。「この国の人はこうだ」とステレオタイプ化して決めつけてしまう人は、異文化適応力が低いと診断されるという。
 これを聞いた時、以前読んだ本を思い出した。タイトルは失念してしまったが、何かを練習する際に、考えずにやるのと、何を学ぶのか、どう学ぶのか等を意識して練習するのとでは大きく差が出る、といった主旨だった。「経験で人は育つ」。このことは事実だけれど、十分条件ではない。経験学習で留意すべき点として、事前に意識し、終わった後内省する、というプロセスが欠かせない。このことは、海外に行ったり外国の方と会ったりする機会がある際には、異文化適応力の向上を意識しないといけないことを意味する。
 このIRCは学術的にも研究が進められており、興味深い論文もいくつか書かれている。その中で私が危機感を感じたのは、「日本人との会議では沈黙を守る」ということを、異文化研修でオランダ人が学んでいるという事例だった。我々日本人は、異文化研修で、「低コンテキスト文化の人と接する際は、言葉できちんと伝える」ことを学ぶ。一方、日本人が曖昧な表現をした時に、その意味を問いただすよう学んでいる外国人がいることは、新聞記事で読んで知っていた。しかし、沈黙を守ることまで徹底している外国人がいることは、知らなかった。日本人が相当「話さない」国民だと思われている、ということだ。多様な国々の人とコラボして物事を進めていくためには、我々日本人は、もっともっとコミュニケーション力を磨く必要がある。
 さて、私の診断結果は、主に外国人と比較した際、残念ながら目標としているトップレベルにはなかった。異文化センシティビティー(感度)、コミュニケーション、コミットメントは9段階の内上位から2番目、不確実性への対応力が3番目に位置している。不確実性への対応力に関して陥りやすい点の中に、はっと思うものが2つあった。1つ目は、「ストレスを感じている時、あるいは時間に追われている時には、文化的な要因を軽視する」リスクが私の場合あるとのことだ。確かに、思い当たるふしはある。忙しさの中で、短時間で事を進めようとするあまり、「じっくり時間をかけて話をしたい」という相手の意向を無視して、早口になり、相手がスローペースだと、遮ってしゃべってしまう傾向がある。英語の学習のために、最近1.5倍速で英語ニュースを聞いていることも、その傾向に拍車をかけてしまっている。反省、反省。
 2つ目の陥りやすい点が、「新しい取り組みに参画するまでに長い時間がかかる人たちに苛立つ」だ。「考えるよりも行動する」という猪突猛進型の私は、確かに、「石橋をたたいて渡る」タイプの人に対して、良く言っている。「とにかくやろうよ」と。後でしまった!と思うことも多いし、相手の感情を害してしまっている場合もある。結果として、より長く時間がかかってしまっている場合もある。
 診断を受けた他の人たちも、各自何らかの気づきと、それをもとに改善につなげようという気持ちを持ったようだ。皆さんも、こういったツールや他人からのフィードバックを利用して、ご自分の多様な文化に対応する力を客観的に見てみるのはいかがですか。

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