「プロジェクト化」
イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭: 12月号
プロジェクトとは何かなどという書き出しで笑わないでいただきたい。PMBOK®ガイド では皆さんがよくご存じの以下のフレーズが記述されている。
「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務である。」
この文章ではプロジェクトと呼ぶことが出来る業務は既に存在するか、企画されていることを前提としていると読める。筆者は請負型のソフトウェア開発を行う会社に属していたこともあり、プロジェクトは顧客からの発注があって成立するのが常であり、プロジェクトが成立するかどうかということには疑問を感じたりしなかった。プロジェクトとして成立する業務に対してプロジェクトマネジメントを適用することにも疑問を抱かなかった。
このプロジェクトと呼べる業務が既に存在するか企画されている業務をマネジメントすることということ自体に落とし穴がないだろうか。筆者だけの勘違いか、頭が固いのか、有期性のない業務はプロジェクトマネジメントの対象外と考えあまり真剣にマネジメントを考えたことがなかった。ましてプロジェクトマネジメントを適用できるとは思わなかった、しかし社会、組織、企業の根深い問題の多くは解決の糸口もなく放置されていることが多いいのではないだろうか?有期性で業務にこそ大きな問題が潜んでいるのではないだろうか?
「運用保守の問題解決」
この2、3年、例えばIT関係の運用保守を行う部署で発生するトラブルを少なくしたいというような期限が存在しない業務のコンサルテーションの依頼がプロジェクトマネジメント関連のコンサルティングとして依頼されることが多くなってきた。システム開発のプロジェクトでは作るべきシステムの細部は未決定あっても作るべきシステムのスコープ、期限は明確でありマネジメントすることは容易であるが、運用保守のトラブルを少なくしたいというような要望は、定常業務の日々の改善であって期限を設けてプロジェクトして改善を行うことには馴染まないような気がしていた。定常業務の改善は、トラブルの発生を少なくする業務遂行ルール、組織を作るということで対応することになるが、改善の実行に期限は無く、期限を切ってトラブルを無くすことは出来ないことからプロジェクトとして行う業務とは捉えがたいものと思ってしまっていた。期限を切った改善策を提示することは難しく、コンサルティングの依頼を受けても提案を顧客と合意を得ることが難しい。
プラントを造る、建築物を造る、システムを造るなどの物作り、サービスを創造する等の開発型のプロジェクトではプロジェクトマネジメントはイメージし易く、またそれらを前提にPMBOK®ガイド も書かれており、開発型のプロジェクトはマネジメントの方法論も進歩してきた。しかし最近の日本では新たな物作り、サービスの創出を行う開発型のプロジェクトは少なくなってきている一方で、運用保守の問題を解決したいというような要望が多くなってきている。だが期限を持たない業務の改善を行うマネジメントの方法論は最近になりようやく論じられることが増えてきた段階で未熟な段階にある。
「社会問題の問題解決」
運用保守以外でも、社会的問題のように何年も解決しないものも多い。社会的問題では何十年も解決出来ず、解決の意志も見られないものが多く存在する。ちょっと思い出すだけで、例えば東京の環状八号線の中央高速、東名から第三京浜にいたる交通渋滞(246の交差が立体化したのを除く)などは何十年も解決しないし、解決する計画もない。なんでも米国のやりようが良いとは言わないが、米国で都市の重要な交通網の渋滞が何十年も放置されることは有権者、納税者が許さず放置される様なことはあまり無いようだ。もちろん米国と日本では土地価格等が異なり単純に比較出来ないが、それにしてもあまりに無策であることが多い。特養老の何十年にも渡る不足、保育園も同様である。これら社会問題の解決というと直ぐ政治家の能力云々となってしまうが、それだけだろうか?解決すべき方法論を見つけること自体を行っていないからではないだろうか?思いついただけでも大きな問題はこれだけあり、数多くの未解決な問題があるのではないだろうか?
しかし、最近になりようやくこれらの社会問題に対しても解決する動きが現れてきた。保育園の待機者を0にすることが出来る自治体が表れたのである。問題を解決するという明確な意志をもつことで、方法を考え実行に移すことが出来、その結果問題を解決することが出来るのである。大きな問題であればあるほど、その方策を誰も考えていないことが多い、問題が大きいのだからだれかが当然改善策を考えていると考えがちだが、大きな問題ほどそのステークホルダーは多く解決のプランを練ることが難しく放置されがちである。
このことは企業であっても同じで、大きな問題ほど解決しない、小さな集団における問題は速やかに解決出来る、品質改善の小集団活動などはもっとも良い例だろう。小さな問題の解決能力にはすばらしい才能を発揮するが、全社でシステム開発のトラブルを無くすなどと言う大きな問題はなかなか解決しないのが現実である。
問題があると、だれかがその解決策を考えているのだろう、大きな問題ほどだれかが考えていると思いがちである、最近言われている、問題解決を他人事と捉え、問題と対峙しない日本人特有の癖のようなものがあるのではないだろうか?
「プロジェクト化による問題解決」
運用保守の問題解決、社会問題の問題解決では「プロジェクト化」が極めて重要で有効な手段となりつつある。「プロジェクト化」とは一般的に言われている言葉ではないが、解決すべき問題点の整理し、解決後のイメージ(スコープの明確化)、スケジュールの作成、費用の算出等問題解決の方法をプロジェクトマネジメントの要素毎に明確にすることで、問題解決を、プロジェクトとして実行可能なものとし、ただ憂えていることから、問題解決の実施に大きく一歩踏み出すことを指す。
最近プロジェクト化という言葉は用いていないが、問題解決において大きな効果を発揮している例がある。これら成功事例ではプロジェクトマネジメントの方法論が陰に日向に影響している。行政のなかにもプロジェクトマネジメントの知識のある人材はおり、問題解決にプロジェクトマネジマントの知識の活用が有効と認識されつつある。先日もTVでPMAJシンポでも講演を依頼したことのある三井物産戦略研究所会長の寺島実郎氏が福島原発の廃炉を具体化するには、プロジェクトとして実行の可能計画を策定し実行出来るようにする必要があると言っていた。社会問題解決では、国、地方自治体にはプロジェクトマネジメント理解のある人間がまだ少ないので、寺島氏のようにプロジェクトマネジメントに理解のある人材を育てることが必要である。P2Mの作成から年数が経ち国のプロジェクトマネジメントへの熱は明らかに冷めてしまっていることもあり、社会問題解決のためにもプロジェクトマネジメントは必須の知識であることを強く訴えていく必要があるのではないだろうか。
解決策を見つけられない問題を「プロジェクト化」し問題解決の実行策とすることにはプロジェクトマネジメントの経験、知識をもったPMPは有効に機能を発揮すると思われる。
学歴差別の存在する米国では、プロジェクト実行を請け負うのはPMP、「プロジェクト化」を請け負うのはMBAという区分けが存在しえるが、日本ではその区別は必要がないので、PMP資格取得者は積極的に問題を解決すべく行動すべきではないだろうか、だれかがいつか問題を解決してくれるだろうという不作為な習慣から脱することが、今の日本における停滞感、手詰まり感を打ち破るのはどうしてもお必要なこと思われる。
「プロジェクト化する必要のある分野」
○ |
科学技術分野の運用保守の現場の種々の問題解決 |
○ |
社会門問題の問題解決 |
○ |
企業・組織内の未解決な問題の解決 |
「プロジェクト化とは」
→ |
「無計画で憂えている状態から確実に実行する状態に移行すること」
確実に実行する状態とは以下を計画、実行、監視すること。 |
以上
|