2011年11月にウィーンで「第3回Global Drucker Forum 2011」が開催され、1997年にバングラディッシュで携帯電話会社グラミンフォンを立ち上げたクワディール氏(米国MIT教授)の講演を聴きました。当時バングラディッシュの一人当たりのGDPは約1ドルで電話普及率は世界で最も低いレベルだったそうです。「食べ物にも不自由している国で携帯電話会社を立ち上げるなど無謀だ、成功する訳がない。」と友人にも投資家にも思い留まるよう迫られたそうです。バングラディッシュで生まれ育ち奨学金を得てアメリカに渡った彼は「祖国の勤勉な人々が何故貧困を運命付けられているのか?」と悩みました。そして、通信手段の欠如が人々の協働を阻害し生産性向上を著しく低下させていると考え携帯電話を設立したのです。このプロジェクトは、政府の認可、投資家の説得や顧客の獲得等様々な困難を乗り越えての一大プロジェクトでした。現在、事業でも大成功を収めています。
ピーター F. ドラッカーは「事業の目的は顧客の創造だ。顧客は製品やサービスを買うのではなく、価値を買っている」と言っています。「人々をつなぐ通信手段は貧困にあえぐ人々に価格以上の新しい価値を提供できるのであろうか?」がクワディール氏にとってのチャレンジでした。貧しい村の女性達が、小額融資で有名なグラミン銀行から融資を受け携帯電話を購入しました。村の通りに置いた粗末な机に携帯電話とノートを置き顧客を待ちました。テレフォンレディーと呼ばれています。顧客が来て電話を使い、使った時間でお金を払うのです。近隣の国に出稼ぎに行った夫や息子との会話、隣村の商売相手との商談、色々なことに電話が使われ銀行からの借金を返済しテレフォンレディーの数は増えていきました。村々の人々に与えられた新しい価値は、元々勤勉であったバングラディッシュの人々を変えていきます。人々は町へ出て商売をしたり、人と人の絆のネットワークが拡大し農村も変わっていきました。今では携帯電話の普及率が50%近くになったと言われています。
昨年ウィーンで開かれた「第4回Global Drucker Forum 2012」ではピーター F. ドラッカーのご夫人であるドリス(101歳)さんからも叱咤・激励を受けました。「2050年には地球の人口は100億人に達するとの試算があり食料危機が眼の前にあり、対策の時間はあまり残っていないと私の眼には見えます。ピーターが主張したイノベーションをもっと、もっと拡大して欲しい」とのことでした。