PM研究・研修部会
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グローバルPM/PgM標準の比較分析テンプレート“GAPPS”とGAPPS WS31の紹介

笠原 直樹 [プロフィール] :8月号

 GAPPS(Global Alliance for Project Performance Standards)とは、グローバルレベルでのプロジェクトマネジメント(PM)標準、プログラムマネジメント(PgM)標準を開発し、無償で公開しているボランティア団体である。同時に、P2Mを含む主要なPM標準、PgM標準を比較分析し、ベンチマーキング結果を公表している。このたび、2014年5月30日から6月1日までの3日間、第31回Working Session(WS31)が東京で開催された。そのWS31に参加したので概要を紹介するとともに、筆者の私見、感想を述べる。

 筆者の参加の経緯を簡単に述べると、PMAJから招待いただいたのをきっかけとして、当初、各種のPM標準やPgM標準の概観を手っ取り早く知るには絶好の機会であると思い、思いきって飛び込んでみようと決意したのが最初のいきさつであった。

 GAPPS側の参加メンバの全容が明らかになるにつれ、当初思っていた認識は改めることになった。議長は元IPMA(国際PM協会)議長で現オーストラリアPM協会(PMA)の議長でもあるBrigitte Schaden女史、ボードメンバとして、オーストラリア・シドニー大学教授のLynn Crawford女史、イギリスPM協会(APM)/APM GroupからはRod Baker氏、南アフリカからは、南アフリカPM協会の元議長でコンサルタントのLesley Jane Rider女史、カナダからは国際コンサルタントのPeter Milsom氏、インドネシア・オーストラリアを中心に活躍されているコンサルタントのTony Simmonds氏、シンガポールPM協会(SPM)の第一副会長のYIP Kim Seng氏に加えて、参加者としてシドニー大学からDr. Ehssan Sakhaee講師、Niccolo Debriganti氏の両名が名を連ねた。PMAJからは光藤昭男理事長、改訂3版P2Mの改訂委員長である清水基夫教授(日本工業大学)をはじめ、各界から錚々たるメンバが集結した。独立行政法人 国際協力機構(JICA)の多大なる後援を得て、PMAJがホストとなり開催の運びとなった。

 WS31のあらましを述べる前に、GAPPSの既存の標準類について説明したいと思う。

 PM標準とPgM標準を無償で公開していることは前述のとおりであるが、GAPPS標準類にはいくつかの特色がある。
成果物はフリーで公開され、利用は自由である。ただし、著作権は全てGAPPSが保持している。さらに、PM標準のLinuxモデルであると述べている。
この表現は筆者にとって実に感慨深いものがある。
余談となるが、筆者はLinuxが普及する随分前に、カーネルのソースコードを読み、勉強したことがあった。その時に、Linuxのソースコードの中に日本人が寄贈したものがあることを文字どおり目の当りにし、日本が世界に寄与していることが強く印象に残っている。筆者には、この時の記憶がGAPPSに重なった。Linuxがその後またたく間に世界的に普及したことはご存知のとおりである。GAPPSは、現時点では残念ながら日本ではさほど名前が知られていないが、今後、その意義とともに普及展開していくことも大いに期待される。
プロジェクト、プログラムの複雑度を定義し、それぞれに求められるレベルを定義している。
プロジェクトの複雑度と役割は“CIFTER Table”と呼ばれる表に定義されている。“CIFTER”とは、 “Crawford-Ishikura Factor Table for Evaluating Roles”の略であり、その定義に大きく貢献されたCrawford女史と石倉氏の頭文字をとって命名されている。石倉氏はPMAJの前身であるJPMF時代からの活動を通じ、GAPPSをはじめとする国際PM界にも大きく貢献されてきた。なお同氏はGAPPS PgM標準でも貢献者の一人として名を連ねている。このことは、もちろん石倉氏のご尽力によるものであることには間違いないが、日本発の世界貢献の大きな足跡でもある。誰もが石倉氏の偉業に肩を並べることは簡単には出来ないが、日本に求められるものはまさにこういった国際貢献ではないだろうか。
(なお、PgM標準における複雑さのモデリングは、同様に貢献者の頭文字をとって、ACDC: Aitken-Carnegie-Duncan Complexity Table for Program Manager Role Definitionと呼ばれている。)
WS形式で議論・レビューされ、ボードメンバによって承認後、公開される。
今回は第31回のWSであるが、第1回は2003年2月のフランスのリールでの開催であり、これまで連綿と世界各国でWSの活動が続けられてきた。各国で問題意識のある参加メンバから議題が提起され、Workstreamと呼ばれる分科会にて集中討議される。この営みが繰り返される。
「マッピング」と称されるベンチマーキング結果が公開されている。
GAPPS標準を軸として、主要なPM標準、PgM標準との間での適合度を、各要素ごとに3段階で評価している。これにより、GAPPSを核として、世界的なプロジェクトの遂行にふさわしいプロジェクトマネジャー選定の基礎的な基準となる。
パフォーマンスベースのコンピテンシーに基づいたモデルを採用している。
例えばPMIのPMBOK Guideはその名のとおり知識体系である。プロジェクトマネジャーが知っておくべき知識を体系化したものである。このことは(PMI自身も主張しているが)、プロジェクトの成功を約束・保証するものではない。イギリス商務省(OGC)が策定したPRINCE2は、プロセス(ステージ)コントロールを軸としたPM手法の一つである。(最近、PRINCE2などの一連の成果はAXELOSに移管された。) また、IPMAが定めているICB(IPMA Competence Baseline)第3版は、GAPPSと同じくコンピテンシーに基づいたモデルであり、3つのコンピテンシー(技術、行動、状況)から成り立っている。これらはGAPPSから見るとinput competenceとされ、一方、GAPPSはoutput competence、すなわちパフォーマンスで評価する。プロジェクトにおいて何をなし得たのか、そのエビデンスは何か、ということが問われる。
これも余談だが、筆者の私見として、日本の経営層にもこの考え方は親和性が高いと考えている。経営層の視点から考えた場合、プロジェクトの成功、すなわち結果を残し、会社事業にどれだけ貢献したのかによって評価されるべきものであるし、プロジェクトにおいては、どのような役割で何をなし得たのか、ということが強い関心事であると思う。その観点でもGAPPSの意義は大きい。

 今回のWS31の議題は以下のとおりであった。
Project Sponsor Standard 作成継続
Project Control Services 作成継続
Knowledge Management Standard 作成
なお本項目はフロリダで開催されたWS27にて、NASAからリクエストがあった議題である。
Mapping Standards and Assessments 継続
GAPPS Communication and Promotion 継続

 既にPM標準、PgM標準は公開されているので、そのメンテナンスも含まれているが、今回のWSでは既存のGAPPS標準改訂に関する議題提起は無かった。

 各議題に対するWS31での到達点概要は以下のとおりであった。
Project Sponsor Standard
WS31の最後に開かれるWrap Upでの状況報告や、その後のGAPPS Webサイトでの案内によると、リリース直前まで漕ぎ着けたようである。残念ながら筆者はこのWorkstreamに参加することができなかったため詳細は不明である。
Project Control Services
継続課題となった。こちらも筆者は参加せず。
Knowledge Management Standard 作成
筆者はこのWorkstremを最後の方に少し見学させていただいたが、日本人参加者の多大なる尽力により、Draft版が完成した。
Mapping Standard and Assessments
改訂3版P2Mが公開され、Mappingに反映することがWS31の大きな主題と思われたが、その中でもP2MのPgM部分については、主査のBrigitte女史の忍耐強い長時間にわたる主導のもと、日本人参加者による精力的なpre-reviewを完了することができた。公式には、第三者機関による評価などのプロセスを経てからの公開となるため、改訂3版P2Mの英語版の出版が強く待たれることとなった。
GAPPS Communication and Promotion
GAPPSの普及展開戦略を検討する分科会であり、こちらでもさまざまなアイデアが持ち寄られ、活発に議論された。技術的な各論は他の機会に譲るが、やはり、Mappingなどの強みを全面に出すこと、Webサイトの改善、Webサイトの更新頻度の向上などが課題として浮き彫りとなった。GAPPSがボランティアベースのコミュニティであることを考えると、継続的な改善が求められるテーマかもしれない。
なお参考までに、提示されたGAPPSサイトのアクセス分析によると、アクセス数の多い順に、アメリカ、オーストラリア、イギリス、インド、中国となっていた。世界的なPM/GAPPSに対する関心度の高まりをこれらの国々に一端を感じることができる。

 GAPPSのサイトは以下のURLからアクセスすることができる。ぜひアクセスしていただきたい。
 URLは  こちら

 GAPPSのWSは、PM界の重鎮が一同に会する、大きな機会である。今回、東京開催WSという絶好の機会に参加できたのは大きい。筆者のような弱輩者の意見に対しても真摯に耳を傾けてくれるGAPPSコミュニティに筆者は大きく感銘を受け、筆者の拙い英語力でも暖かく受け入れてサポートまでいただいた他のPMAJメンバの皆さまにも深く感謝したい。

 最後になるが、GAPPS WS31への参加の機会を与えていただいたPMAJに感謝するとともに、運営に尽力された吉野事務局長、岡﨑副理事長(当時)をはじめとするPMAJ関係者、JICAの皆さまに謝意を表したい。

PMI、PMP、PMBOKは米国Project Management Institute, Inc.の登録商標である。
MSP、PRINCE2は、AXELOS Limitedの登録商標である。
IPMA、ICBはInternational Project Management Association(IPMA)の登録商標である。
PMAJ、P2Mは日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)の登録商標である。
その他、記載された会社名、システム名、製品名は一般にそれぞれ各社・各団体の登録商標または商標である。
本文中の商標表記は省略している。

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