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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (21)
―日本再生へのアプローチ (5)―

渡辺 貢成: 12月号

A. 先月は「日本再生に必要な新しい現代的な発想とは何か」というテーマを考えようという宿題を出した。まず、「モノづくり日本」という発想を乗り越えものであること、将来求められる価値とは何かというテーマで議論することになっていたが、皆考えてきてくれたかな。
C. ミンスバーグ教授の話から言えることは、米国が今行っている株主資本主義は国民国家としての米国の立場からすると困った問題でもあります。それは投資資本が最大の利益を生むことに経営の重点があり、中産階級であるワーカーの報酬削減も視野に入れた方針だからです。結果として米国では今まで以上に資本家に金が集まり、中産階級の報酬が減っています。米国は国民国家としての立場で考えるならば、資本家だけでなくバランスよく国民を豊かにし、景気を維持するための最善の策をとりたいわけです。しかし、国際金融資本は「グローバリゼーションは国民国家という規制を取り外すことで、グローバル経済の拡大をはかり、米国をはじめ新興国を経済拡大に導き、多くの国々に経済的な恩恵を与えるという命題があること」を宣言しています。従って米国国家はその命題に逆らうことができません。米国企業から見るとグローバル進出は戦略内のことで、国際的大企業との競争に勝つために収益の最大化をねらう必要があるため、企業は国民国家としての要求を飲むことはできません。さて、米国企業はグローバル市場での競争に勝てる見込みがつくと、米国というマーケットにこだわる必要もなくなり、税金のない国に移籍する企業が増えています。この移籍で企業は25%の所得税が不要となり、グローバル市場での競争力が増します。結果として米国という国民国家は税収不足が大きな課題となっています。
 さて、日本の大企業の行く先を考えて見ます。エリート育ちの経営者はリスクを恐れてグローバル進出をためらい、遅れをとってしまいましたが、今や日本のマーケットは需要が少なすぎるので、グローバル市場へ進出し、先に成功している國際的大企業と戦うことになります。日本企業は新しい心構えで海外進出に臨まねばなりません。第一は日本的商習慣をきっぱりと捨てることです。第二は経営の意思決定を早くする組織的対応が求められます。リスクが多く発生するグローバル環境では即決がリスクを上手く吸収する能力といえます。第三が顧客関係性を構築することです。闇雲に進出するのではなく、顧客関係性をつくるために海外企業と連携することも必要になります。しかし日本で大企業といえども、グローバル市場では家電10社が束になってもサムスンに勝てません。何らかの企業集団の合併が必要となるでしょう。さて、これらの準備が整ったとしても、海外のグローバル企業同様に税金のない国に本社を移転しない限り、グローバル競争になりません。日本政府から見ると、税収が途絶えることになります。
 とりあえず、大企業の問題を纏めてみましたが、次は「成熟した経済社会」であるが少子高齢化社会となる日本を活力あるものにする必要があります。これは大企業以上に発想の転換が必要で、「モノづくり:日本」の発想を完全に捨てる覚悟が求められます。
ここで整理しますと、
  大企業の進む道はグローバル市場での競争という従来路線の発想が基盤となります。
  中小企業の対策
グローバル社会で生き残れる中小企業になるという命題があります。この問題は未解決です。別途議論を進める必要があります。
  少子高齢化社会への対応
  従来進めてきた生産性向上、コストダウンの経済とは発想が異なるアプローチが必要です。①、②は従来路線の高度化が求められますが、③は低生産性、安全・安心優先、自然の力の活用という原始的な経済を視野に入れた経済で、心豊かな生活を維持するものです。これは後述します。
この対策ができるかどうかは別として、ハイブリッド経済社会の出現を考えました。
A. それは面白そうだね。両立できるアイデアとは何かね。
C. ハイブリッド経済の第一は日本の実力ある大企業はドライにグローバル企業への船出をすることをお話ししました。
 第二は国民国家としての発想です。世界で最も早く、少子高齢化社会が到来します。高齢者を遊ばせておくわけにも行きません。グローバリゼーション下の資本主義は「マネー資本主義」と呼ばれるもので、国民の「安全・安心」を無視し、規模と生産性を重視する経営です。結果的に人件費を極力減らす方式を採用します。しかし、高齢化社会はそれとは反対の経済を行います。第一の経済は「マネー」が価値基準ですが、国民国家としての成熟社会は「マネー」、「便利さ」より「安全・安心」を重視した経営となります。生産性を重視しない経営で国を維持する方法を採用しますから「不便」になります。
A. 面白そうだが、達成されそうですか。
C. 最近はこれらの発想を取り入れた企画が提案されています。藻谷浩介著「里山資本主義」―日本経済は「安心の原理」で動くー(2013年7月初版11月6版)、広井良典著「人口減少社会という希望」―コミュニティ経済の生成と地球倫理―(2013年4月初版、7月3版)、広井良典著「創造的福祉社会」―「成長」後の社会構想と人間・地域・価値―(2011年7月初版)が提案されています。これらを支援する形の大和田順子著「アグリ・コミュニティビジネス」-農山力×交流力でつむぐ幸せな社会―(2011年初版、7月2版)、山本尚史著「エコノミック・ガーデニング」-地域主体のビジネス環境整備手法―(2010年5月初版)、井上健二著「地域の力が日本を変える」-コミュニティ再生と地域内循環型経済へ(2011年7月初版)がありますが、この関係の出版物は多々あり、実績等も出ています。
A. 多くの方々が考えているね。暴言を許してもらうならば、大雑把に言うとどのような発想なのかね。
C. 資本主義が成長し、金持ちの規模が拡大し、國際金融資本という巨大な資本が勢力を持ち始めました。その勢力は持続可能性の資本主義から離れて、資本家のための資本主義になってきたことです。国際金融資本の形成の歴史を見ますと、経済原理による成長ではなく、第一次世界大戦、第二次世界大戦、その他ローカルで発生する戦争でその富を増やしています。
 勿論國際金融資本も持続性可能な経営を心がけています。資本主義も高度成長期は生産性の向上が社員の報酬につながり、従業員が豊かになった時代もありましたが、最近は技術開発や、ICT化という資本投下による生産性の向上が人員削減や、人件費削減につながり、極限的な事例は無人工場の出現もあります。従って現在の資本主義は金持ちに金が集まる仕組みができ上がっており、これを変えることができません。更にグローバルによって起こされた問題が解決されないまま進行しています。それは地球温暖化という問題、公害という問題です。しかし彼らは「安全・安心」より収益向上を優先しています。
 そこで第二の提案は、大雑把に言いますと、大規模、生産性向上の資本主義は、国民を不幸にさせるから、発想を代えて多くの国民を幸福にする経済を考えようというものです。ここで「里山資本主義」のアイデアを紹介します。日本は遊休農地が多く、活用さえていません。私たちはこの貴重な宝物を生かして、自給自足の生活を試みます。森を活性化し、木材活用により、同時に燃料資源として、木材を活用します。森の恵みにより、海が豊かになり、日本の近海は魚の宝庫になります。養殖産業より安上がりになります。老人も農業にいそしみ、90歳まで働ける生活を楽しむことができる。自活の農産物を皆がつくり食べていれば、農産物の値段はただ同然で、生活に困らない。不便をして物々交換ができれば酪農も食べていける。森が良くなり、食べ物が美味しく、人々に笑顔があれば、この楽天国に人が集まります。発想を替えれば豊かになりますということです。
D. それは面白い発想ですね。しかし、言い換えれば原始時代の戻ろうという風にも聞こえますが、そのような形を成熟した日本人が受け入れますかね。
B. これは発想として原始的な生活にもどることを意味しますが、そのことを議論するより、現代の知識・知恵をしぼり、この発想を実現するには何をすることが大切か議論をすることが重要な気がしてきました。
C. 「里山資本主義」には世界中の事例も書かれております。「人口減少社会という希望」にもいろいろ検討されています。単に原始的社会に突入するのではなく、ネットワークを使った、物流や、文化交流という、今までと異なる優雅な暮らしを作ることもできます。それらに興味を示し、世界中から多くの見学客が増えることも事実です。皆さんでこれらの書籍を学び、その上で来月は討論したら面白いのではないでしょうか。
A. Cさんの意見に賛成だな。今月はこの程度にして、来月は皆さんからの意見や別な提案を受け、議論しようではないか。

以上

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