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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (20)
―日本再生へのアプローチ (4)―

渡辺 貢成: 11月号

A. 先月は貿易赤字の米国が何故破産しないかという疑問に対し、Eさんが見事謎解きをしてくれた。さて、グローバル経済社会では量産型の製造業で新興国が決定的な役割を果たしている。日本の入る余地がないとも思える。今月はいよいよ日本再生について各位の話を聞くが、従来からの延長でものを考えていては日本の再生を達成させることはできない。この点を踏まえて話をして欲しい。
C. 先生から発想の転換を要請されましたが、ここで面白い話をさせてください。
A. 発想を変えることに関してかね。
C. 多少関係があります。『MBAが会社を滅ぼす』の著書で知られたヘンリー・ミンツバーグ マギル大学教授が本年8月に来日しました。「失われた20年といわれている日本」の現状視察のためです。視察後の感想文がありますので紹介します。
  失われた20年をイメージして日本を訪問し、東京、鎌倉、京都、隠岐の島に滞在した。そこで目にしたのは清潔で安定した裕福な国だった。手入れの行き届いた最新車種、魅力的なレストラン、店舗。人々はこれまでと変わりなく感じが良く親切だった。北米の現状と比較して、日本での滞在は素晴らしく、円滑に運んだ。
  日本の現状は高度成長期とかわりなく、文化を見事に維持している。日本人の健康を示す寿命が延びている。
  伸びていないのは米国基準のエコノミストが求める経営指標である。米国が求めている株価価値は、株価以外を評価しないシステムで、従業員や企業を支持してきた地元さえ考慮しない生き方を求めている。現実の米国は少数の富裕層以外、人々の所得は伸び悩んでいる。受刑率、肥満率、不法薬物の使用、医療費が高く、最悪である、言葉を換えると資本主義の勝利という作り話と米国経済に与える影響は破棄的なものといえる。
  日本からの帰りに、サンフランシスコに立ち寄ったら、普通のちっぽけな部屋で300ドル。チップは18~20%、京都の旅館の清潔さと比較すらできない。
  日本人の何人かのエリート達と話し合いを持ったが、彼らの態度からすると、日本が失ったモノとは、指導的立場のエリートの自分自身の姿だろう。
  日本の短い滞在で感じた日本は過去からの繁栄を今も保ち、文化や尊厳、そして慎み深さを維持している。もし日本がその良識を維持し続けるコトができるなら、問題が山積する世界にとっての新たなモデルとなる。勝利するために、他に例を求めるのではなく、自らの強みを見つめるのだ。かつての時代のように世界から孤立するのではなく、自らを創り上げるのだ。日本の精神は失われていない。そのことに気がつけば、実現は可能である。
   ミンツバーク教授の発言からすると、新しい発想ではなく、日本は米国の物まねから早く脱皮しなさい。日本人が持っているDNAの中に新しい価値が存在している。自信を持つことだといっています。
 問題は日本でエリートといわれる多くの人々が既得権益者的役割を果たしています。日本の庶民文化は新しい価値をどんどん創り上げていますが、これらエリートがグローバリゼーションに弱腰であることが気がかりです。日本再生についての課題の一つと思います。
A. 日本人の持つ価値観で世界に勝負したらどうかという意見と受け止めていいかな。
C. 成熟社会を日本が真っ先に迎えているという腹構えが必要だと思いました。
B. 先日のテレビに「Japan as No.1」を書いたハーバード大学のヴォーゲル教授は「日本の経営者はリスクを取って世界に打ち出ていない。能力はあるかもしれないが勇気がない」と発言していました。私は思うのですが、経営者といっても高度成長期の元気な経営者を初代とすると、現在の経営者は3代目です。2代目は初代の背中を見て育ったので、日本経済を維持することができました。三代目の経営者は基盤ができた業界の中で組織を運営するのが勤めです。失敗は許されない環境で経営をしています。無理して危険なグローバル市場へ飛び出そうとすると、日本の稟議制がそれを許してくれません。結果的に失われた20年になっています。たとえ三代目経営者がグローバル社会へ出たとしても、失敗を乗り越える実践経験がありません。実践経営能力のある人材をヘッドハンティングする米国流が優れていると思います。
D. スポーツ界を見ると外人に劣等感のない若者が活躍し出しています。これからは勢いのある若者に活躍の場を与えることが重要かもしれません。
A. それは素晴らしい考えかもしれない。
D. 人的資源についての議論は正しいと思いますが、議論の対象であるより、人材をいかにリクルートするかと問題になり、ないものねだりになる可能性があり、議論が継続されません。ここでは「日本再生に必要な新しい現代的な発想とは何か」について議論をしてみませんか。
A. それは正論だな。
D. 日本では「モノづくり日本:技術」という発想を続けてきました。この発想は「モノさえつくれば売れる」という時代の発想です。需要が減ると経営者は「マーケット・イン」という言葉を使い、自分は「マーケット・イン」を実行していると満足していますが、経営者自らが実行しないため、彼の戦略は「絵に書いた餅」になっています。だが、現場の人間は目先の商品を売るコトが優先され、これを「マーケット・イン」と勘違いし、広告、足で稼ぐ、値引きで競争者の先を越すことを考えます。商品が目の前にあると、「モノ」という概念から抜け出るコトガできないからです。最近「道の駅」が繁盛し始めています。このBM(ビジネス・モデル)は農家がJA(農協)をバイパスすることで中間マージンを減らすという発想です。これでは「プロダクト・アウト」の典型から抜け出ていません。
E. グローバルで活躍するに、私は顧客の潜在ニーズ開発するための「コトづくり手法」をお勧めします。顧客の潜在ニーズといっても簡単に探すことはできません。そこで私が提案するのは、顧客が喜ぶ「価値づくり」を提案します。ただし。価値とは何かという定義が必要になります。顧客に対し、現在ではなく近未来を考え、私たちの生活様式がどのように変わるかを想定することも大切になります。私からの提案は、価値と何かという議論を研究会の参加者で議論していただきたいと思います。
A. 今日の議論は今までの発想『モノづくり=技術:日本』から一歩進んだ考えのように思える。また、別の意見があれば次回にそれを話して欲しい。他の方は新しい発想で「価値とは何か?」を考えてもらいたい。

以上

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