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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (22)
―日本再生へのアプローチ (6) 「アベノミクス」―

渡辺 貢成: 1月号

A. 新年おめでとう。先月は「日本再生に必要な新しい現代的な発想とは何か」というテーマにいろいろな意見を出してもらった。魅力的な提案があったが、経済優先の発想だけでなく、人間の原点に戻り、人にとって何が幸せかを考えてみようという提案があった。確かに現在の資本主義は手段のための金儲けが目的化したことで、多くの問題が発生している。経済規模第一の米国、第二の中国が特に金儲けに熱心で、地球温暖化問題から、公害無視の経営が公然と行われている。これらの問題はいずれ社会を揺るがす問題に発展するだろうということは理解できる。
 だが、この問題はいずれ解決できる問題と考えて、今月は成熟社会一番乗りの日本は世界に先駆けて何を実行したいか提案してもらいたい。Cさんから大胆にも原始的生活に戻ろうではないか、という提案があった。勿論この発想は、原始的社会を出発点として、現在の科学技術を活用すると、21世紀向けの手法が確立できるかもしれないという想定が含まれている。ここでのテーマは金儲けではなく、「安全、安心」から人間にとって真の幸せとは何かを考えながら持続可能性が得られるシステムを考える提案である。
 これに対し、皆さんのご意見はないかな。
D. 新しい視点から出発する方式は魅力ありますが、一方、日本は「アベノミクス」という日本再生を安倍総理が提案しています。これはマネー資本主義から出発していますが、日本はマネー資本主義の良いところさえ活用していません。マネー資本主義を活用しながら、新しいテーマに取り組むという方法を取り上げてみてはと思います。
A. 突然新しい方式を採用するには、関係者の頭の切り替えに時間がかかり失敗する例が多いというのが歴史的事実だな。その意味で彼の話を聞こうではないか。
D. 有難うございます。まず、「アベノミクス」とは何かをお話します。
  1 ) 不況脱出のための大胆な金融政策 : 2%物価上昇
  2 ) 機動的な財政政策 : 13兆円(災害地復興費3兆円、地域開発費3兆円、
                             再生医療開発費3兆円、その他4兆円
  3 ) 成長戦略 : 民間投資を喚起する7つのテーマ
  ・ 民間投資 : 3年で3兆円
  ・ インフラ輸出 : 30兆円
  ・ 外資導入 : 35兆円
  ・ 農業輸出 : 1兆円
  ・ その他 :
   ここで大胆な金融政策の提案者で安倍内閣官房参与であるイエール大学名誉教授浜田宏一氏の論点を説明します。
 浜田教授は「『金融政策だけではデフレも円高も阻めない』という日銀流論理でこれまで金融政策を実施してこなかった」と指摘しています。浜田教授は研究の集大成として日米の経済界、金融界の有識者60名とのインタービューで「日本経済は長年自国の潜在成長率の遥か下で運営されている。日本の経済政策は誤りだという回答を得ており、彼ら(内外の有識者)は日本経済が普遍の法則に則って運営されさえすれば直ちに復活し、成長著しいアジア経済を取り込み、再び輝きをますことを理解している。この事実をもとに安倍総理に提案した政策が「アベノミクス」の主部です。主部としたのは財務省が強く要望している消費税増税と財政政策に疑問を感じているからです。

 2013年11月に浜田宏一著「アベノミクス」とTPPが創る日本」が出版されましたのでこの内容を説明します。この本は日本国民が知りたいと思われる金融政策に関する20の質問、TPPに関する20の質問があり、その回答で構成されています。
Q 1. なぜ、日本経済に金融緩和が必要なのか?
Q 4. 人口が減少したからデフレになったのか?(「デフレの正体」というベストセラーに対する反論として)
Q 17. アベノミクスでの成長戦略とは何か?
Q 18. 消費税は将来どうすればいいのか?

Q 1. この15年間デフレで悩んできたのは世界で日本だけで、その理由の一つは、市場に出回る通貨。円の量が少ないことでした。円が供給されないことで消費活動が低下し、デフレで物価が下がる。当然企業は儲けが減るので給料が下がり、失業も増えるという悪循環に陥っていた。日銀が金融機関から国債や手形を買い取り、市場への資金の供給量を増やすなどの政策をとれば、企業がお金を借りやすくなり、設備投資も活発化する。こうして景気が刺激され、使えるお金が増えれば消費活動も活発化されデフレが解消されていく。
Q 4. 「人口減が、デフレの正体」という本がベストセラーになり、日銀もこの説を採用しているが、現在の経済学では人口減少とデフレの原因とが決して結びつかない。これに対し、財務省は所管である日本の財政破綻を防ぐには、安易に金融緩和をすることは財政悪化をもたらすとの発想に基づいている。円高政策を悪いとは考えていないが、この政策はよわい企業をいじめる政策といえる。
Q 17. アベノミクスでの成長戦略に世界の注目が集まっている。安倍総理は成長戦略について、「大量に眠っている資金を動かして、国内外の潜在市場を掘り起こし、民間投資を喚起する。併せて、人材、技術、資金を、生産性の高い部門へとシフトさせ、一人当たりの売り上げを伸ばし、その成果を賃金・所得として家計に還元していく。所得の増加は更なる成長につながる。この『好循環』のための鍵は規制・制度改革で、医療、エネルギー、インフラ整備などで日本人や、日本企業の持つ創造力や突破力が期待される。これからはリスクを恐れず行動し、改革を進めていけば日本は世界の真ん中で活躍できる、というのが安倍総理の固い決意です。この決意で産業競争力会議は7つのテーマとして、「産業の新陳代謝の促進」、「人材力強化・雇用制度改革」、「立地競争力の強化」、「クリーンかつ経済的なエネルギー需給実現」、「健康長寿社会の実現」、「農業輸出拡大・競争力強化」、「科学技術イノベーション・ITの強化」を企画しています。
Q 18. 消費税増税への浜田教授の考えは、消費税増税は慎重にして欲しい。引き上げの条件は国内総生産と雇用の改善、GDPの実質成長率が継続4%以上、失業率3%、有効求人倍率が1.2倍になるまで様子を見るのが賢明と答申した。

D. アベノミクス実施後円高が実現し、株価も上昇しました。このため、財布の紐の結び目が緩み、デパートでは高級品が売れ出し、おせち料理が高級化し、忘年会の費用が2,000円ほど上がったと話題がテレビで報道されるようになりました。
A. アベノミクスも出だしは好調のようだね。日本人が窒息していた感があったが、明るくなったことは事実だ。何か質問はないかな。
C. 私はアベノミクスに対し、2つの点で疑問を持っています。第一が景気浮上策に、景気阻害政策を絡ませたのかということです。それは何故消費増税を急ぐのか。昔の大蔵省は景気が回復し始めると、増税し、景気潰しにかかり、構造改革そのものを失敗に持ち込んでいます。今円安でガソリン、灯油が値上がりしています。20%円安となると、自動的に輸入品は20%上がります。ここで年金者には決定的な打撃を受けます。消費税が5%上がれば痛みが増加します。財布の紐を緩めた老人も、再度紐の締め直しをします。
第二の問題ですが、財政政策です。浜田教授は財政政策はいらないといっています。それなのに何故、国の金を使うのか。震災復旧対策として三陸沿岸一体に防潮堤を建設する案が出されています。防潮堤は何ら経済的効果をあげることはありません。国が50%予算を出すとしても、50%は地方自治で、なお本庁の天下りを引き受けた上に、毎年の運営費を支払うことで自治体の経営を逼迫させます。この点はどうですか。
A. この問題は私も関心がある。来月各位からの意見をもらうとしよう。

以上

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