PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(69)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :12月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●問題提起
 前号では、以下の問題を提起した。日本は、構造的危機に直面し、特に日本の経済、産業、事業は「ヤバイ」。日本企業の99%を占める中小企業は、深刻な問題を抱え、今も苦闘している。日本が輝かしい未来を築くためには、一にも、二にも日本の経済、産業、事業の再生と発展を達成させねばならない。そのためには個々の企業が「ビジネス・イノベーション」を成功させること、一方各個人が仕事や生活の場で「生き甲斐」を得ることであろう。

 この基本目的が達成できるか否は、詰まるところ「人間」の考え方と行動に依って決まる。しかもそれらを制するのは、すべて人間の頭脳の働きである。その働きの中の「創造」のパワーこそ根源的な力となる。「創造力」こそ、すべてを制する。

 本号から「創造」をテーマに様々な事を議論したい。尚、このテーマは、本稿の「エンタテイメント論」の核心の1つである「右脳的働き」に深く関わっている。

●脳に関する本
 今も、昔も、「頭を良くするトレーニング」、「脳を活性化する方法」、「幼児教育と脳の発達」など脳に関する本は、程度の差はあっても、よく話題に乗り、よく売れる。また「味の素は頭をよくする」、「青魚を食べると頭が活性化する」などの脳栄養学的?な話も幅を効かせている。

 最近は、脳トレ・ブームと言っても過言でないほど、数多くの「脳トレ計算ドリル」、「脳トレ・クイズ」、「脳トレ・ゲーム」などの本やソフトが店頭に並び、多くの人が買っている。更にTV番組では、数多くの脳トレ指導者、脳科学者などが登場し、脳のミステリー、脳の仕組み、脳の逸話、脳の発想などを語っている。

 この脳ブームの様な社会現象は、海外でも起こっており、今だけではない。古くは、約200年前のヨーロッパで起こっている。それは、やはり脳に関係する「骨相学ブーム」であった。

 その中心人物がF・J・ガル(1758~1828)とJ・スブルツハイム(1776~1838)であった。彼らは、頭蓋骨の形で脳の機能と性格を判別する学説を提唱した。

出典:Franz Joseph Gall(1758~1828) Yahoo USA
出典:Franz Joseph Gall(1758~1828) Yahoo USA

出典:Johann Spurzheim(1776~1838) Yahoo USA
出典:Johann Spurzheim(1776~1838) Yahoo USA

 彼らは、相談に来た人の頭を触り、「頭が良い、頑張りなさい」、「この能力が優れているから伸ばしなさい」などと診断し、巨万の富を得た。しかしそれらの診断は、すべてデタラメで、骨相学はニセ科学であった。

 しかし日本では現在も、「顔の形」、「手の形」、「手のシワ」などで性格を判別し、その人物の未来まで予測する人物が大勢いる。しかもTV番組に度々登場し、堂々と自説を説き、性格判別や人生予測、時に人生相談まで乗る。また人の名前、生年月日などで性格を判別し、人生予測までする人物がこれまた大勢いる。彼らは、巨万の富は稼いでいないが、それなりの金を稼いでいる。

 考えれば、日本とは不思議な国だ。科学的な根拠が全くないことを信じ、高い金を払い、相談するのだから。この様な日本人は、200年前の骨相学を笑えるだろうか?

●脳に関する迷信や誤解
 エンタテイメント・ビジネスの典型例であるテレビ放送の分野で、脳に関する迷信や誤解をあたかも真実として「おもしろ、おかしく」放映される。その放映が更なる迷信や誤解を生む。その迷信と誤解の一例を紹介したい。

発想は、天才の専売特許である。
発想は、誰も考え付かなかった「独創的アイデア」を創り出すことである。
発想は、特別な能力が生み出すものである。
発想は、個人の独創で生まれる。他人との共創はない。
発想能力は、知能指数と正比例する。
発想能力は、自分には無い。
発想能力は、味の素や青魚を食べると活性化されるなど。

 これらの迷信に惑わされず、誤解を解けば、誰しも自由で確実な発想が可能になる。この事を、順を追って本稿で今後明らかにしたい。そして読者諸氏は、自由で確実な発想によって新たな創造を成功し、明るい、楽しい生活の糧を得て欲しい。また企業人は、その発想でビジネス・イノベーションを成功させ、企業を発展させて欲しい。いずれの場合も、「生き甲斐」も得て欲しい。

●脳トレは有効か?
 既述の通り、日本では発想力や創造力を高めるための「脳トレ」が盛んである。

出典:両著共に川島隆太教授の監修 アマゾン出版 出典:両著共に
川島隆太教授の監修
アマゾン出版

 「脳トレーニングは、脳の血流量を増やし、脳を活性化する」と、その有効性を主張する川島隆太教授(東北大学医学部)に対して、「脳トレは、脳の特定領域だけを活性化し、全般的な有効性はない」と疑問視する藤田一郎教授(大阪大学医学部)の論争がある。

 どちらの説が正しいのであろうか? この事も、順を追って今後本稿で明らかにしていきた。もっとも脳トレで自分の脳が活性化され、アイデアが次々と浮かぶ様になるかもしれないと信じて、楽しんで脳トレに没頭することは、エンタテイメントの見地から観ると、良いことかもしれない?

出典:脳ブームの迷信 藤田一郎著 アマゾン出版
出典:脳ブームの迷信 藤田一郎著 アマゾン出版

つづく

ページトップに戻る