図書紹介
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人間にとって成熟とは何か
(曽野綾子著、幻冬舎新書、2013年9月10日発行、8刷、239ページ、760円+税)

デニマルさん: 12月号

紹介の本は、2013年度の新書部門で最も売れた本になるかも知れない。先日の新聞広告で、出版3ヶ月で70万部を突破とあった。この本の話題は、書かれた内容とその売上部数と著者のアクティビティであろうか。著者の知名度は、作家としてだけでなくクリスチャン、国際ボランティア(海外邦人宣教者活動援助後援会)活動、日本財団会長等々と高い。中でも2000年に、ペルー大統領であったフジモリ氏の日本亡命時に宿を提供し、その理由を問われて「クリスチャンとして困っている人を助けるのは当然」と応じ、当時の新聞等で話題となった。また最近では、「何でも会社のせいにする甘ったれた女子社員たちへ」の投稿(週刊現代8月号)で、「出産したらお辞めなさい」と産休制度を批判した。これには賛否両論の意見がネットや雑誌に数多く掲載された。この本でも「権利を使うのは当然、とは考えない」「甘やかされて得することは何もない」等、同種のことを書いている。著者は保守の論客と言われている。この本が売れている理由は、現代世相の批判なのであろうか。

人間にとっての成熟 (個人・家族編)   ―― 自分を見極められるのか ――
この本は、18のテーマにそれぞれ3つのサブタイトルが付けられたエッセーである。そのタイトルが上手く惹かれる。「自分さえ良ければいい、という思いが未熟な大人を作る」では、自分の伴侶がえらくなると自分もえらくなった様に振る舞う人がいると書いている。確かに、そんな人を見かける。自分の価値は自分が一番分かっているのに他人の注目だけを判断基準にしている。そのことが本当の自分を見失っている未熟に気付いていないのか。

人間にとっての成熟 (友人・他人編)  ―― 自分と他人の距離間か ――
人間の成長は、他人との比較ではなく自分の過去との対比である。この点を著者は「もっと尊敬されたいという思いが、自分も他人を不幸にする」の中で、「自分の不運の原因は他人にある」と考えていて、自己確立されてない不幸があるという。更に、老人なのに成熟していない人も同じ範疇に入る。「町の英雄は、決して他人の出世や評判を羨んだり気にしない」書いている。人は幾つになっても成熟しないのか、シニア-人よ頑張れと言いたい。

人間にとっての成熟 (社会・制度編)  ―― 個人と社会の関わりか ――
この本に成熟の定義は書いていないが、自立した人や自律出来る人が成熟に近いことが縷々書いてある。その中で、先の「権利を使うのは当然、とは考えない」に関する著者の論点は、自分の権利を主張する背景に社会や制度や他人に感謝する配慮が必要であるという。『成熟とは、魂と眼力に磨きをかけること』と主張している。成熟するには未熟を克服する鍛錬が必要だった。こんな青臭いことを書く凡人には、成熟は望めないかも知れない。


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