図書紹介
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そして父になる LIKE FATHER、LIKE SON
(是枝裕和、佐野晶著、(株)宝島社、2013年9月19日発行、1刷、340ページ、657円+税)

デニマルさん: 11月号

今回紹介の本は、今年映画になりテレビドラマとしても放映された。特に、日本で映画が公開以前にカンヌ国際映画祭の審査委員賞を受賞して一層人気が高まった。そんな関係からか、書籍(43万部売上)よりも映画の方が話題性があり、10月中旬時点の観客動員も180万人を集め2週連続のトップ興業成績である。この映画の監督が是枝氏で、1995年のベェネツィア国際映画賞で金賞、2004年にカンヌ国際映画祭で映画祭史上最年少の最優秀男優賞、2008年には日本のブルーリボン賞監督賞を受賞している。その著者が今回この本を書き、映画化して監督を務めた。この映画のストーリとなっている赤ちゃん取り違い事件は、実際にあった話である。昭和52年に沖縄で起きた事件で、地元の新聞「琉球新報」が社会面でスクープしたものである。この事件を17年間追跡調査して纏めた本が、「ねじれた絆」(奥野修司著、文集文庫)である。その関係から映画「そして父になる」が参考書籍として紹介されている。今回の本は、「ねじれた絆」がベースとなって小説化されている。

30数年前にあった話   ―― 赤ちゃん取り違い事件 ――
今では殆ど聞くことがない「赤ちゃん取り違い事件」であるが、昭和30年代から50年代に掛けて年数件発生していた。自宅から産院での出産と、ベビーブームが重なって多くの赤ちゃんが誕生した時代背景がある。当時の赤ちゃんは、簡単なタグを付ける程度で識別していた。特に、新生児室の赤ちゃんは、ベッドに表示された名前で区別されて母親とは別々な時間もあり、もし病院で間違って取り違えても直ぐに分からない仕組みがあった。

両親の葛藤  ―― 血のつながりか家族の絆か ――
この物語は、子供の小学入学時健診で夫婦の血液型からは有り得ない子の血液型が判明したことに始まる。6年間も自分の子として育てきた両親が、突然見ず知らずの家族の子が本当の子であると宣言される。普通では考えられない現実に遭遇する。両家族の交流を通じて子供の交換に努力するのだが、それぞれの家族の生き方や考え方が問われる問題である。子供の将来を考えれば、交換しなければならない道理に両家族の親の悩みと葛藤があった。

子供たちの悩み  ―― 産みの親か育ての親か ――
両親の悩みは、その子らにとっても同じである。まして6歳の子に、今までと違った親がいたので、これからはその家族の一員になると言われても納得出来る事ではない。しかし、実際には交換せざるを得ない現実がある。それぞれの親子は、今まで大切にしていた家族関係を新たに再構築しなければならない。この本では、交換された家族のその後の詳細については触れていない。「ねじれた絆」と併せて読むとこの問題の本質が見える様に思える。


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