ヤングコーナー
先号   次号

企業におけるPMの問題点から,大学のPMについて考察する
- 企業へのインターンシップを経験して -

東北大 D2 田久 創大 [プロフィール] :11月号

 筆者は大学院博士後期課程に在籍しており,現在まで約7年半,学生生活を続けています. 研究分野は医用工学(もしくは原子力)であり,産業と結びつきの強い分野でもあります. 会社生活を経験したことのない筆者が最近,大手総合電機メーカーへの3ヶ月間の長期研究インターンシップを経験しました. 本稿ではその経験を基に,大学の研究室の現状と企業のPM的な問題点,そして大学のPMのあり方について,大学院生の視点から考えたことを述べようと思います.

・大学の研究室の現状
 大学の研究室の運営は,正に教授の「我流」と言って良いほどで,教授の研究の仕方がそのまま弟子に継承されていきます. 研究室ごとに運営方法は多種多様で,一貫性はほぼ存在しないと言ってよいと思います. 当然「5W1H」のような情報伝達はなく,PDCAサイクルが実現できているかというとかなり疑問が残ります. したがって学生の視点としては,研究室にPMの概念を導入することができれば,より良い成果・イノベーションが生まれるのではと普段から考えることが多々ありました.

・企業の研究所(研究室)におけるPM
 今回のインターンシップを通して,企業の研究所は大学と違い,細かいルールが非常に多いことがわかりました. 第一に必ず成果が求められ,それが会社の利益になるかどうかが最も重要視されます. その実現性について,研究テーマを提案する段階で厳しい審査が行われます. 研究を開始できたとしても,半期・四半期ごとに技術報告書の提出やその特許請求,目標達成までの残り期間等を明確に報告しなければなりません. そのため何か1つアクションを起こすにも必ず書類の作成,上長の承認,資格取得者の帯同下で作業を行う等,詳細な取り決めが存在します. これでは肝心のアクションを起こすまでに疲れてしまうと感じることが頻繁にありました. さらに企業規模が大きくなればなるほど,マネジメント・規則がより厳しくなり,小回りが利かないことで人々の動きが制限されるような印象も受けました. 規則によって進捗を管理してより良い成果が生まれる反面,革新的な発想や身軽さを損なってしまう状況があるのではないか?と感じました.

・大学におけるPMとは?
 今回の経験から,大学の研究室にPM的考え方を導入する場合,ただ企業と同じようなPMを導入するのは好ましくないという印象を持ち始めました. 元来,大学はゆっくりと流れる時間の中でじっくりと物事を考え,新規の学問・科学技術が生まれていくものです. 自由な気風の中で研究を行うことによりブレイクスルーが生じる,という考え方を持つ研究者は多いと思います.
 自由な気風で研究を進める大学,組織を統率することで利益を生み出す企業,各々長所と短所があることがわかりました. 大学の特色を生かすPMの導入にあたっては,革新的アイデアを創出する手助けとなるマネジメント,すぐにそれを実行できる環境を整備するマネジメントを重要視する必要があると思います. これらをどうやって導入するか,その具体案は模索中ですが,教員と学生間のコミュニケーション不足の解消や,双方が歩み寄ったface to faceでの議論機会の設置などが第一歩になるのではないかと思っています.研究のコンセンサスが何時でも取れるようになれば,小さなPM的仕組みが生まれてきます.その過程をマニュアル化することで,大学におけるPMを定義できるのではないでしょうか?
 東北PM研究会の活動を通して,企業と大学におけるPMについて考察を続けていきたいと思います.

ページトップに戻る