アカウントマネジメントとプログラムマネジメント
皆さん、アカウントマネジメントという言葉を聞いたことがあるでしょうか?最近は日本でも、営業における重要顧客(キーアカウント)マネジメントという視点で注目されつつあるようです。一方、私はこれを狭い意味での”営業”の戦略的な方法論としてのみ捉えるのではなく、プログラムマネジメントやP2Mの1つの考え方としても有効ではないかと考えています。
実は私も半年くらい前に知ったのですが、戦略的アカウントマネジメントに特化した活動団体として、Strategic Account Management Association, Inc.(略称、SAMA)という非営利組織があります。所在地はシカゴで、設立は何とPMIより早い1964年で、来年50周年を迎えます。2013年9月時点で会員数は8,000を超え、3M, ABB, DHL, Emerson, Hilton, HP, IBM, Johnson & Johnson, John Deere, Microsoft, Motorola, P&G, Samsung, Schneider Electric, Siemens, Xerox 他名だたるグローバル企業83社が法人会員になっています。SAMAのミッションは、会員間でのアカウントマネジメントに関する知識の共有、会員による顧客への提供価値の向上で、年1回のカンファレンスの開催による情報共有機会の提供、認定プログラム、SAMA大学/アカデミー、ウェビナー等の提供によるアカウントマネジャーの育成、専門誌の発行による最新情報の提供等を通じて、古くから会員や会員企業間で戦略的アカウントマネジメント技術を切磋琢磨しながら磨いているようです。
そのSAMAの会員企業の中でも、アカウントマネジメントを積極的に実践している代表的な企業として、Siemensがあります。SAMAの年次カンファレンスでは毎年、”Strategic Account Management Program of the Year Award”という最優秀賞が発表されるのですが、Siemensはこれを2003年、2011年と2度受賞しています。アカウントマネジメントでは、重要顧客の定義、顧客の取引状況の把握と共有、ビジネスシナリオの策定、推進体制の構築が重要とされていますが、Siemensでは正にこれらをトップのコミットメントの下、全社的に実施しており、有名なハーバードビジネススクールのケーススタディの題材にも取り上げられたほどです。特徴は、トップダウンによるキーアカウントの選定、アカウントマネジャーの任命、役割に応じた3レベル(Corporate, Regional, Global)のアカウントマネジャー体制、アカウントビジネスプラン策定等標準プロセスの整備、教育プログラムや支援ツールの開発、評価制度や認定制度の導入、統括組織によるプログラム推進等です。特に、その中心となるCAM(Corporate Account Manager)は各セクター、ビジネスユニット、地域を超えて、Siemensのポートフォリオ全体をカバーし、アカウントチームをリードし、顧客との良好で戦略的なパートナーシップを築いて、最終的に事業横断のプロジェクト組織を編成する、という重要な役割を担っています。当然、コミュニケーション能力やマネジメントスキルが高く、自ら独自の目標を設定できるような人物で、Siemens全社でも150人ほどしかいないようです。
Siemensは2001年より”PM@Siemens”という全社的なPM体系を運用していることでも有名ですが、個人的には彼らのアカウントマネジメント制度は事業戦略と個別プロジェクトを繋ぐ、正にP2M的な性格を持つ仕組みであり、CAMの役割は限りなくプログラムマネジャーのそれに近いのではないかと思います。但し、Siemens自身はこれをプログラムマネジメントとは言っていませんが。
最初にコンセプトが重要視される欧米に比べて、実践や事例をより重んじる日本の製造業においては、プロジェクトマネジメントはともかく、プログラムマネジメントという概念はまだまだ定着していないように思いますが、こういったアカウントマネジメントの考え方を営業だけに閉じるのではなく、事業横断的なプログラムマネジメントとして捉え発展させていくというのは如何なものでしょうか?
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