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頑張れ、日本外交

東京大学 吉田 邦夫 [プロフィール] :9月号

 現行の国際制度は、おおむね第2次大戦終結後に設計され、先進工業国主導のものである。当然、途上国の多くが新興国となって発言力を強めた今日、WTOやCOPの会議など全て利害が激しく対立して合意の形成が困難となっている。
 代わって登場したのが、複数国・地域間での協議を進めようとするもので、目下話題のTPPは代表的なものである。日本は首脳会議で、コメなど農業の一定分野を「センシティビティの高い分野」とオバマ大統領が認識し聖域(例外)扱いにすると約束してくれたと、交渉参加に舵を切った。しかし、この合意と引き換えに自動車を「関税引き下げ対象外」とし、これを米国の「聖域」とする取引を日本は呑まされている。普通車、トラックに高関税が掛かるTPPに参加する日本産業のメリットは何なのであろうか。僅か2回の全体交渉会合しか交渉に参加できる機会がない。医療、金融、知的財産権など多様な分野で、どれだけ例外措置を認めさせることができるのであろうか。発言力低下の著しい日本に同調してくれる盟友がいるとも思えない。
 そこで、あらためて日本は日中韓FTAを真剣に考慮すべきだと主張したい。韓国は日本の電子部品を、中国は日本の食糧を必要とするにも拘わらず高関税をかけている。日本は言うまでもなく、中国を重要な生産基地としていて日中韓の貿易額は増加する一方にある。悩ましいのは、勿論、歴史認識・領土問題を巡る紛争である。そこで、私は欧州連合発足時の歴史を勉強すべきだと考える。この連合発足の目的は、戦争を繰り返さないという決意にあり、そのために戦争資源、具体的には鉄、原子力を管理する共同体を作り上げたことにあった。「固有の領土」なんて言い分は、くだらないと思いませんか。ポーランドやアルザス領有権の変遷を見よと言いたい。
 今こそ尖閣諸島周辺に眠るガス田を協同で開発、管理することとして、アジア諸国の不戦同盟を作り上げることを目指すべきである。EU同盟結成に当たっては、不仲の独仏間を取り持つオランダやベルギーが居た。日中間には幸い台湾が居る。同じく尖閣でぶつかりながら日台間では、日本の領有は黙認するのと引き換えに、排他的経済水域での台湾漁船の自由操業を許可することで妥結した。ここに見られる外交的知恵こそ、今の日本に最も求められるものではないだろうか。
 米国は領土紛争を日本の問題とする。中国13億人の市場は米国にとって余りにも大きな魅力であり、日米同盟に頼り切っていると、お人好しの日本は捨てられることにもなろう。東アジア諸国の地域連携とTPPを両天秤に掛けて、少しでも多くの譲歩を引き出すような日本の外交力が発揮されることを願っている。

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