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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (17)
―日本再生へのアプローチ (1)―

渡辺 貢成: 8月号

A. 先月は『「2020年」10年後の世界新秩序を予測する』をDさんに説明してもらった。今月は議論をすることを約束した。議論を進めるにあたって、Dさん、解説の要点を箇条書きにして欲しい。
D. 要点だけ示します。
  第一の潮流:高齢化社会が世界を揺るがす
  米国はグローバリゼーションを取り入れ、製造業の雇用を1/3喪失した。しかし、規制緩和で新しい職種をつくり出し、雇用を回復させた。
  欧州と日本は規制緩和をしなかったため、新しい産業は生まれなかった。
  第二の潮流:新たな経済地図
  この30年間で国家間の交易と投資は世界の経済成長と投資の総額の2倍になった
  グローバリゼーションに対する投資を米国(23%)はしているが、欧州は7%と低い。主要な重工業は先進国の産業から消え、永久的に新興国に移転される。ここ5年間で先進国の雇用と賃金の低下が起こっている。
  グローバリゼーションを牽引しているのはソフトウエアで、先進国の生産性に大いに寄与したが、IT化の遅れた分野は保健医療と教育分野である
  第5章 なぜ、欧州と日本は停滞しているか
  起業化に官僚の壁:衰退産業に補助金を出し、起業の芽をつぶす
  女性の労働参加率の低下
  生産性の低い日本の労働者
  企業に効果的でないIT化
  自国の経済に世界からの投資を締め出している。日本へ参入した外資の生産性は製造業で60%、サービス業で80%高い。
  日本はグローバリゼーションを機会と捉えず、脅威と捉えている

A. Dさん、ありがとう。問題点が絞られた。Eさん、何か問題はあるかね。
E. Dさんの説明はグローバリゼーションの正の因子として理解できます。しかし、負の因子も同時に理解するべきと思います。
A. もっともな意見だな。説明してくれたまえ。
E. 2013年7月に出版された水野和夫著「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」にグローバリゼーションの実態が書かれています。現在の国際金融資本は独占状態で、富を独り占めした(金融の帝国主義化)状態にあり、金持に富が益々集中するようになっています。資本主義でもっとも難しいのが富の配分です。貧乏層に広く配分されると、世界経済は金の循環が良くなり、人々が幸せになります。現在は独占資本に集中的に集積されるので、世界経済は長期の不況と短期の好況になりやすい状態です。
A. 長期の不況は金融資本にしても困るよね。対策は何かあるのかね。
E. 第二次大戦前の大きな不況は米国ルーズベルト大統領のニューディール政策で解決したと言われていますが、本当は第二次大戦が不況解決に貢献しました。不思議なことに国際金融資本は戦争が起こる度に肥満体になっています。その問題はともかく、グローバリゼーションによってもたらされた社会問題に対して、合法、非合法的な反対運動が起こされてきました。それは「地域主義」、「市民社会運動」、「テロリズム」の3つです。
  「地域主義」はEUのような地域統合です。必ずしも成功しているとは限りません。
  「市民社会運動」はグローバリゼーションによってもたらされた市場経済化の拡大を是正する運動です。
  「テロリズム」はグローバリゼーションの進行で発生した貧困に対し起こされた現象で、現体制をテロによって揺さぶりをかけ、グローバリゼーションの流れを阻止する運動です。
  テロリズムを米国は犯罪者扱いしていますが、テロ側からは米国こそが戦争を仕掛ける国だと非難しています。結果的に死ぬのはテロと関係国の国民と米国人兵士で、いずれも貧乏人が犠牲者です。
A. Eさん、ありがとう。グローバリゼーションの負の面も理解できた。さて、日本再建に対する議論を始めたいと思う。そこでこの研究会に強力な助っ人に来ていただいた。Fさんだ。Fさん、何かご意見がありますか。
F. 新人のFです。よろしくお願いします。私からは議論を始める前に、議論の進め方についてお願いがあります。日本人の議論は末端の小さな問題に集中して、大きなところが抜けています。幸い、この研究会はグローバリゼーションという大きなテーマから始めました。グローバリゼーションの持つ可能性と大きなリスクがあります。その点國際金融資本も万能でないことを理解しました。自民党政権もグローバリゼーションへの対応という問題に取り組まねばなりません。しかし、最近のテレビの討論会を見ますと、年金問題、消費税問題、TPP問題と身近な問題を取り上げて議論をはじめています。しかし、これらの問題は収入がないと議論する価値すらありません。日本はグローバリゼーションへの対応策無しに、解決できない議論を20年間続けてきました。この現在の日本のエスタブリッシュのメンタリティーが最大のガンなのです。
 そこで提案があります。日本は何処で収入を増やすべきかが最初の課題です。グローバル社会のどこにチャンスがあるかを考えてください。第二が国内にどのような新しい産業のネタがあるか提案してください。提案が出されたら、その実現を阻害している原因を考えるという手順になります。まず第一の提案を皆で考える。決して否定してはいけない。その後第二の提案を皆で考える手順にしてください。
 第三の提案があります。私たちは習慣的に「モノづくり」の発想を持っていますが、この際「モノづくり」の発想を一時停止しませんか。そして「コトづくり」の発想を考えてください。「コト」は「モノ」の上位概念です。例えば「何がしたい」は「コトづくり」です。次にそれを実現するには「こんなモノがあると便利だ」となります。「コトづくり」で大切なことは、「そのコトがその人にとってどんな価値があるか」を示してください。価値がすべての上位概念になるからです。第四の提案があります。価値とは何でしょうか。二つあります。提案を受ける側にどのような価値を提供できるかということです。その結果受注者が受ける価値とは何かを考えてください。両者とも持続的可能な価値の提案、持続的可能な価値の受領という発想です。
B. その提案に同意します。最近の円安効果で、海外からの旅行者が増えました。そこで関西のさる自治体は旅行客の少ない東南アジアからの観光客を増やそうと活発に動き出し、マレーシアに行きました。マレーシアの旅行会社に関西地区の観光資源をアピールしました。マレーシアの旅行会社は「イスラム教徒が食べられる認定食品が整っていますか」との質問にあわてふためいている映像がテレビに映っていました。自分達をアピールする前に提供できる価値に、「日本のおもてなしの精神」、「安全、安心」、「楽しめるXXの内容」を研究する必要があります。これは「モノ」ではなく、「コトが起こす価値」の提案となり、従来から評価されている「モノ」X「コト」で相乗効果を出す演出が求められているのだと思います。韓国は日本より先にこのコトを実行しています。「コト」が入ると発想が楽に出てくると思います。日本人はこれまで、グローバリゼーションを受身で捉えていたので、自分たちの良さを見失っていたことに気がつくべきです。
C. Bさん、ありがとうございます。今日の議論で検討の進め方が見えてきた気がします。日本再生は日本再発見からですね。
A. 皆さんの提案に沿って議論を進めよう。来月は各位最低1つは提案をして欲しい。

以上

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