SIG
先号   次号

脳と人の行動

IT-SIGコアメンバ: 向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 「あいつは頭が良いが、仕事のできないやつだ!」と言うことを聞くことがあります。
 確かに「論語読みの論語知らず」という格言もありますが、ただ単に頭でっかちの「知識だけを振り回す人は“物事”に対しての評論や批判はできますが実際の仕事においての実行力はあまり無いように感じられます。
 一方ではそんなに多くの知識も経験もなくビジネスの世界で優秀な成績を上げる人もいます。
 例えば、営業職などで先輩営業マンより新人の営業マンがより多くの成績を上げたりします。また、IT企業などでも若くして大きな事業を起こし成功している人もいます。
 このような人たちの行動パターンには知識や経験をそれほど多くを持っていなくても、目標を持って、物おじせずに積極的に行動する力強さがあります。
 すなわち、このような人は目標を持ったら全知全能を使って状況を俯瞰しながら考えそして行動します。また知らない分野や領域に関する知識は自ら継続的に学びその努力を惜しまない人と思われます。
 プロジェクトマネジメントの世界においても同じようなこと言えます。
 ある分野のプロジェクトマネジャが異業種分野の仕事でプロジェクトマネジャとして活躍している人もいます。
 「何故このようなことができるのか?」、人は「その人の持つ(マインド:思考方法や感性)が他の人と違うからこのようなことが可能なのでは!」と言う人もいます。

 ある本に「脳を自由にする」ということが書かれていました。
 これは、固定概念や限界というものを考えずにあらゆる選択肢を持って物事や事象を認知し多重知性を働かせ行動に移すといった全能的な機能を意味するということのようです。
 脳を取り出してみると一個の物体ではなく左半球と右半球で構成され、これらは脳の80%を占める大脳にありそこで認知能力を使って高度な思考が行われています。大脳はさらに後頭葉、側頭葉、頭頂葉、前頭葉の四つの部分に分かれ、特に、前頭葉の中の「前頭前野」という領域が、脳のほかの領域を制御する、最も高次な中枢と言われている。
 それぞれの機能については図-1に示しますが、それぞれ連携した形で機能を果たしそれを行動としてあらわすようです。
 基本的に左脳と右脳は超伝導体として神経線維の束である脳梁によって二つの半球は連結され情報のやり取りをし、情報は双方の半球の持っている機能によって認知処理される。
 このことは、知識や経験があるからと言って人間本来の能力が発揮されるということでなく両方の脳機能をバランスよく機能させることによって事象や物事を認知し処理していということです。
 よって、左脳だけの機能を優先する人の行動はどうしても自分の知識と経験から分析、推論、会話をベースとした行動特性となります。すなわち、片手を縛ってのマラソンをするようなものとなり、腕と手の効率的な動きが所定の半分も機能しなくなるということと同じです。よって、実務においても理屈が多くなり手順や自分の経験・知識に偏重し、突然の変化や新しいことに対応することのできない(仕事のできない)人と見られる様になってしまいます。
 しかし、左脳及び右脳バランスよく働いてもそこから得られる情報をベースにコミュニケーションし、そして思考し、意志を決定したり、意欲を持って行動を促したりする機能がないと認知した結果が外に対して目に見えるアクションとして現れることになりません。
 このように人はそれぞれ脳の働きによって仕事の処理の仕方に違いが出てくるようになります。

図-1 脳の構造と働き

図-1 脳の構造と働き


 米ハーバード大のマクレランド教授(心理学)がMcBer社とともに、1973年に学歴や知能レベルが同等の外交官に業績の差が出るのはなぜかを研究し、知識、技術、人間の根源的特性を含む広い概念を発表しました。
 これをコンピテンシーとして職務や役割における効果的ないしは優れた行動に結果的に結びつく個人特性である」とするEvarts(1987)の定義でもあります。
 一般的に、日本型の人材評価は「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」などから構成されているが、これでは従業員の日常の業務における態度を中心にした評価としか感じられません。しかも、この評価方法はかなり抽象的であり、その人の行動がどのように会社またはプロジェクトに貢献したかわかりません。特にプロジェクトマネジャにはEvartsの言っているコンピテンシー(日本語では一般的に行動特性と言っている)といった人間の根源的な特性が必要と筆者も思っています。
 例えば
 「あるプロジェクトマネジャが実行したプロジェクトで自分ではこれまでの実践経験と知識を最大利用してうまくやってきたつもりであるが大きな納期遅れが生じて、このため多くの金銭的損失を会社に負わせてしまった。」
 この人は自分の知識や経験に自信を持ってプロジェクトをまとめていたようですが、本人の話では惰性的なプロジェクト運営だったと反省していました。
 どのようなプロジェクトでも全く同じものはなくまた顧客も異なり千差万別という観点から、まずプロジェクトを始める前にはプロジェクトを取り巻く環境や状況の分析とその情報収取が必要です。
 そこから見えてくる問題点をこれまでの知識や経験から左脳を使って分析し、そしてプロジェクト全体を右脳を使って俯瞰し、直観、認知し、そしてプロジェクトのあり方をイメージするといった左脳と右脳の機能のやり取りをします。
 最後に、前頭前野の思考・意思決定機能によりイメージを具体化していき、企画または計画としてまとめていくといった行動を取らなければなりません。
 このようなやり取りが抜けていて上記に示すような失敗が発生したとすれば計画段階での稚拙な行動に問題があったと考えられます。

 また、部下の指導で脳の働きを行動に結びつける習慣を持たせる方法で、特に意思決定という場面では以下のような質問を業務の中で行うのも良い方法と思います。
何をどのようにするのかね?(問題の課題化)
狙いは何かね?(目標の設定)
他に方法はないのかね?(代替え案の評価)
何かまずいことはないのかね?(マイナス要因の検討)
何をどのように行動をとればうまくいくのかね?(マイナス要因の対策)

 上記はプロジェクトが動いている場面においての部下の教育及び育成にも役に立つ質問の仕方であり読者諸氏も一度使ってみてはどうでしょうか?

以上



 IT-SIG,内容にご意見ある方、参加申し込みされたい方は こちらまでメールください。歓迎します。

SIG推進部会は こちら
ITベンチマーキングSIGホームページは こちら
ページトップに戻る