PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(117) 「不適格なPM群像 8」

高根 宏士: 5月号

5 あきらめ型の人
 このタイプのPMは、プロジェクトに与えられた制約条件(スコープ、品質、納期、予算等)を達成することができないことを当初から認識していながら、その条件を何ら問題にせず受け入れ、プロジェクトを推進していく。1で述べた「いい子・いい子」も上司からの方針を闇雲に守ろうとするが、彼(彼女)は上司の指示を守り、憶えめでたくなることが動機である。「あきらめ型」はそうではなく、制約条件が守れないことを知っていながら、顧客や上司から追及されるのを避けるため、見掛け上、プロジェクトの推進が順調に進んでいるように報告していく。彼の方針は制約条件が守れないことを最初から主張すると、周りのステークホルダーからの抵抗が大きくなり、ことごとに状況報告を要求され、場合により非難されたり、叱責されたりするので、面倒だということである。彼が常に口走るのは「どうせ怒られるのならば、毎回怒られるより、最後に1回怒られるほうがよい。だから納期近くまでは順調ということにしておけ」ということである。
 最初から勝負を投げている。全てを成り行きに任せていくタイプである。本質的な意味で責任感のないタイプである。基本的に意気地なしである。より具体的にいえば使命感を持っていない、自信を持っていない、主体性がない。人間として自分の生き方、人生に対して情熱がないタイプである。
 このタイプのPMの典型的な現象はステークホルダー(通常は顧客)との間で「不可能な納期を安易に設定すること」である。最初から納期を守ろうとする意欲を持っていないから、不可能であってもそのまま了承し、その場では何も問題がないように振る舞う。そしてプロジェクトメンバーに対しては、決まった納期として指示する。メンバーから不可能だという意見が出ても、なぜ不可能な納期を設定したかの理由を主体的に説明せ(でき)ず、「顧客意向で仕方がない」というような説明に終始する。そして折に触れ、「怒られるのは最後だけでよいから、今は問題を提起するな」という。
 このようなプロジェクトではどんなことが起こるだろうか。先ず納期は守れなくなる。しかしこれは当初から予定していたことだからそれほどの問題ではない。問題はメンバーがPMに対して全面的に不信感を持つことである。彼らが最初に思うことは、不可能な要求納期であることをPMが客先にきちんと説明することができない、すなわちPMに説明能力がないということである。次に思うことは見積りのベースになるプロジェクトの実力を把握していないのではないかということである。最悪は不可能だということを客先に言い出す勇気持っていないのではないかということである。すなわち人間として意気地なしであるということである。プロジェクトメンバーはこのようなPMを上に置いておくことに閉塞感を味わう。PMはメンバーの信頼を失い、納期通りにプロジェクトを完了させようとする意欲を消滅させる。
 プロジェクトは悲劇に陥る。顧客には騙されたという怒りの感情が膨らんでくる。そして何よりも問題なのはプロジェクトメンバーがプロジェクトの開始から納期までの時間分だけ人生を無駄にすることになることである。そしてこのようなPMはこのことにほとんど気がつかない。彼は思惑通りに最後に1回怒られることだけで済んだと思っている。

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