ダブリンの風(118) 「不適格なPM群像 9」
高根 宏士: 6月号
6 他人依存・保護・制約期待の人
このタイプのPMは自分で何とかしようとする気迫を持たず、他人に何とかしてもらおうとか、他人のせいで自分はできないと言い訳を考えている。
このタイプには2種類ある。一つは「保護期待」のタイプである。このようなPMは自分では何もせず、常に関係者の誰かが何とかしてくれることを期待している。
「誰かが何とかしてくれるだろう」
「誰かがいい状態にしてくれるだろう」
「できなければあの人がバックアップしてくれるだろう」
と思いつつ、半ば白昼夢に浸っている。男性ならばピーターパン・シンドロームになっており、いつまでも幼児意識の抜けない人である。女性ならばシンデレラ・シンドロームであり、いつか王子様が迎えに来てくれることを夢見ている。このタイプの人間はかわいいかもしれないが、PMには向かない。
もう一つは「制約期待」のタイプである。制約がないと不安になり、制約があると安心する。すなわちできないことの言い訳を探している。例えば
「顧客からこんなことを言われたからできませんでした」
「上からこんなことを指示されたのでできませんでした」
などである。
ある企業で実際にあった話である。そこで比較的大型プロジェクトがあった。途中段階でそのプロジェクトの進捗は品質も含め、捗捗しくなかった。PMは一見したところバイタリティもあり、主張も強い人間であった。しかしながら、上司(A)から見ると、全体ステークホルダーとのコミュニケーションに対する気配りが欠けているように見えた。(A)はその辺を注意しつつ、事態の推移を見守っていた。しかし時間が経過するに従って、プロジェクトの進捗は回復するどころか、益々悪い方向へ進んだ。ところがそのときPMは(A)の上司(B)へ直訴し、(A)がことごとに口出しをするので、プロジェクトをうまくコントロールできないと報告した。(B)は(A)がそんな人間ではないと思っていたが、PMを試してやろうと考えた。彼はPMに
「(A)をお前の上司からはずすから、自分の思う通りにプロジェクトをコントロールしてみろ」
といい、その通りの配置にした。ところがプロジェクトは益々混乱の度を強めた。何よりもPM自身が混乱していった。彼には言い訳すべき制約がなくなってしまったのである。最後に(B)はそのPMを辞めさせ、若いメンバーを昇格させて事態を収拾した。この時のPMは典型的な「制約期待」のタイプである。
「保護期待」のタイプはPMには向かないが、人間的には愛すべきところもある。しかし「制約期待」のタイプは人間的にも周りに不協和音と陰湿な葛藤をもたらす。PMには絶対にすべきではない。
最後に、例における(B)として留意すべきことがある。例において(B)がとったことは単純に真似をすべきことではない。このような方針を出すには、先ずそのプロジェクトの顧客との関係をきちんと認識し、PMと(A)の人間性を洞察した上で、組織と人に関する長期的方針を明確に持っていなければならない。この例では(B)は顧客のトップとは深い信頼関係にあり、(A)に対しては通常の人事異動としての処遇を与えた。そして何よりもPMが「制約期待」のタイプであることを見通していた。また昇格させた若手に対してはこれからのPMとして育成する方針を持っていた。
このようなことを考慮せず、PMの直訴を単純に受け止め、後でそのPMに裏切られたなどと言っている(B)がいるが、そのような(B)は「制約期待」のPMよりも罪が深い。
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