PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(116) 「不適格なPM群像 7」

高根 宏士: 4月号

4 暗い人・冷たい人
 このタイプの人間は本人が意識しているかどうかに関係なく、心の底に被害者意識を持っている。自分が関係している社会、狭くは組織から最も阻害されたり、痛めつけられていると思っている人間である。その結果、関係する周囲に対して、恨みつらみを感じている人間が「暗い人」である。そこから逃げようとし、敢えて関係をなくそうとしているのが「冷たい人」である。
「暗い人」に現れやすい現象としては。まず自分の立場に対する不平・不満である。
比較的容易なプロジェクトのPMになった場合は
「なんで俺がこんな簡単なプロジェクトのPMにアサインされたのか。」
困難なプロジェクトの場合は
「なんでこんな難しいプロジェクトのPMをやらなければならないのか。」
「こんな立場では何もできない」
「必要なだけの体制がない。人がいない。」
「周りは自分の苦労をわかってくれない。」
などの言動が見られる。また「眉間に険しい縦じわ」、「ため息」、「舌打ち」などの好ましくない表情が現われることも多い。
次にプロジェクトメンバーや顧客などのステークホルダーに対する悪口や愚痴である。
「あの客は何も分かっていない。」
「あいつはまたこんなチョンボをした。」
「あいつは俺の思っていることをさっぱり理解していない。」
昼食時などの息抜きの時間の雑談の中で、日曜日に行った花見の話題が出、あそこの桜は素晴らしいなどと話していると
「この大変な時期にお前らは遊びのことしか考えていないのか」などと怒鳴り散らすなどである。そのくせ本人は不平・不満を抱えているだけで、プロジェクトを進めることについてほとんど何も考えていない。不平・不満を持つことを考えていると錯覚しているに過ぎない。
 「冷たい人」の場合はコミュニケーションに対する姿勢に現れる。例えば
あることに対して一通り話した後、
「俺は一応伝えたよ。理解したかどうかは俺の責任ではないよ。おまえの問題よ。」とか
プロジェクトメンバーから、あるステークホルダーに対する問題提起をされると
「俺はお前から言われたことを相手には伝えたよ。どうするかは相手の考え次第だよ。」
というような発言が頻発することである。そこには目標に対して関係者を巻き込んで大きな力にしていくなど言う意識はない。うまくいくかどうかは全て相手の問題だとしている。自分は局外者だけれども、たまたま関係した部分について言い訳のできる最低限のことはしたよという態度である。
「暗い人」と「冷たい人」は、見かけは相当異なるが、根っこは被害者意識である。暗い人はそれを諸に表わしているが、「冷たい人」は周囲と関係を切り離すことによってその意識から逃れようとしている。このような人間は、対応する相手に暗い気分ややりきれない気持ちを与える。またこのような人間は自己中心的であり、他人の痛みや気持ちを理解しないため、プロジェクトメンバーはPMから逃げたくなる。
 このようなPMの根底にある被害者意識は間違っている。通常は、PMにされたということは、少なくともその時点では一応認められたということであり、この社会で最も痛めつけられている人間ではない。客観的に見れば、世の中の平均的な認められ方はしているということである。それを自覚せずに、被害者意識を持つことは自らの世界を狭めていることになり、視界や、ひいては自分の人生を小さくこだわりのあるものにしてしまうことを認識すべきである。

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