PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(115) 「不適格なPM群像 6」

高根 宏士: 3月号

3 自信のない人、弱気・逃避型の人
 このタイプの人間は自分の発想の原点を明確に認識していないため、常に周りの意見に左右され、ぐらぐらしている。すなわち自分の考えや行動に自信がない。その結果弱気になり、直面する課題から逃げたくなるタイプである。
 例えば誰かから「プロジェクトの進捗が遅れている」と指摘されると、自分も遅れていると思ってしまい、オロオロと皆にどうしたらよいかと問いかけ、他の人から「大丈夫ですよ」と言われるとそれで安心してしまう。そして次の日誰かからまた「遅れている」といわれるとその気になって心配する。しかし心配したり、悩んでいるだけで、具体的な行動や指示は出ない。また問題がある場合、最も重要なステークホルダーである顧客やスポンサーと積極的に折衝せず、むしろ逃げるようになる。プロジェクトの内部ではメンバーそれぞれが個別に現状認識するだけであり、その認識はばらばらになる。時間が経過するにつれ、プロジェクトでは疑心暗鬼と混乱が大きくなっていく。力のあるメンバーはプロジェクト全体のことは考えず、自分が独善的に良かれと思うことを勝手にするようになる。力のないメンバーは何もできず、PMの雰囲気が伝染し、自信を失っていく。プロジェクトは崩壊の坂道を転げることになる。
 このようなPMは問題があってもその問題が過ぎ去るまでじっと待っているだけで何もしない。気持ちとして投げているわけではないが、ハラハラして見ているだけということが多い。どら息子(娘)のプロジェクトをコントロールできず、立ち尽くしている母親のようである。哀れであるが、このままでは救いようがない。プロジェクトで発生した問題はPMが解決する意欲と迫力を持っていない限りだれも解決してくれない。プロジェクトを救うためにはPMを交代させる必要があるかもしれない。
 リスクマネジメントにおける対応策の一つに「受容」がある。これはリスクがあることは認識するが、そのリスクの発生確率、影響度と対策の困難度、コスト等の面から、あえて具体的対策を取らないというものである。この場合リスクから目をそらすのではなく、それを見極めた上で、最終的に何もしないという決断をすることである。今回のタイプのPMはリスクマネジメントにおける「受容」という決断をしているのではなく、怖くてリスクから目をそらしているだけである。リスクマネジメントにおける「受容」とは全く異なる態度である。
 PMはプロジェクトにおける扇の要である。扇の要がしっかりしていなければ扇の機能は働かない。PMがしっかりしていなければプロジェクトは堂々とは進まない。

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