PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(114) 「不適格なPM群像 5」

高根 宏士: 2月号

2.3 仮面例 2 (嘘をつくこと)
 独善的な人・視野の狭い人の仮面例2として「嘘をつくこと」が挙げられる。これは表明された言葉(プロジェクト目標・方針等)と具体的施策が乖離していることである。
 例えばあるプロジェクトでスタート時にPMが「品質第一」という方針を掲げた(この方針自体スローガン的でプロジェクト推進の方針としてはあまり適当ではないが)。ソフトウエア開発プロジェクトの場合、バグ撲滅は品質のベースであり、その確認はプロジェクト最終段階では欠くべからずのものである。ところがこのプロジェクトでは、納期まで2週間を切った段階でシステムテストの進捗がはかばかしくなく、予定したテストケースの消化が30%であり、このままでは納期までに50%の消化がやっとという状態だった。このときPMが出した施策は納期の日までとにかく頑張ってできるだけテストケースを消化し、未消化のケースが残っても納入する、そして運用に供して万一問題があったら、すぐに対処できるようにしようということであった。この施策は「品質第一」という方針に反する。「納期第一」という方針になる。これは「嘘をつく」ことである。PMがこれを嘘と自覚するかどうかが、そのPMの本質を示す。
 この場合プロジェクトとしては品質の確認をしようとすれば納期が守れなくなり、納期を守ろうとすれば品質の確認ができなくなるというディレンマに陥ったことになる。納期が守れないということは請け負った側(通常は企業)としては致命傷になる可能性がある。品質は確認できないだけで、必ずしも品質が悪いという事態ではない。だからこの場合納期通りに納入すると決めたのだと説明するかもしれない。一見妥当な判断のようであるが、これは間違っている。「品質第一」という方針は守れる場合守ればよくて、守れない場合は守らなくても良いというものではない。プロジェクトが困難に陥り、あちら立てればこちらが立たず、こちら立てればあちらが立たずという場合、どちらを取るかの判断のベースになるものである。そこを認識していない方針の表明はプロジェクト計画書を、体裁だけ立派にするための単なる飾りである。
 このような嘘をつくPMの多くは自分の行動に反省心を持っていないことである。自分が立てた方針、自分が決定したこと、自分の行動について、何ら責任を感じず、その場その場の皮相的判断に身をやつしている。結果としてプロジェクトを全体的観点から認識していないことである。そしてそのような視点から問題提起をするメンバーを自分に対する反発と感じ、闇雲に抑え込もうとしたりする。典型的な独善タイプである。
 ところで現実に合わなくなった方針をそのまま墨守することが本当に良いのかという反論が出るかもしれない。これについては現実が当初想定した事態と「根本的に違ってしまった」場合は、当然変える必要がある。しかし多くの場合プロジェクトの目標や方針を定める場合、プロジェクトの位置づけや環境、主要ステークホルダーの立場や思い、プロジェクトの実力等をきちんと把握せずに、単純に思いつきで表現している。そしてプロジェクト推進段階では目標や方針を踏まえず、成り行きで行動し、最終段階で例に示したような判断をしていることが多い。
 プロジェクトの目標や方針は、個々の事態や問題に対して、どのように対応するかの判断基準になるということを重く認識することが肝要である。
 最後に蛇足になるが、1で述べた「いい子いい子・短所是正型」は結果として嘘をつくことが多い。

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