例会部会
先号  次号

第172回例会レポート

例会部会部会長 枝窪 肇: 5月号

 日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、3月に開催された第172回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日時: 2013年3月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「話下手」でも人と組織を動かす5つのポイント
  ~今、求められるコミュニケーションスキルとは!?~
講師: 株式会社 MANY ABILITIES 代表取締役 野原 秀樹氏

 今回の例会で講師をされた野原秀樹氏(以下、講師)は「バレエダンサー」「経営者」「講師」という3つの顔を持ち、初めての方にご自分を紹介するときには「私は『踊る企業家』です」と自己紹介をされる大変ユニークな方で、日頃から「ドラマティックコミュニケーション」という研修を展開されています。
 今回は3~4人のグループをいくつか作って、「体感型相互学習」にてコミュニケーションにおいて必要なことにお互いに気付き合っていこうという内容でした。
 以下に、講演の様子をご紹介します。

「話下手」でも人と組織を動かす5つのポイント
  相手の変化に気づき、タイミングを逃さず人を行動へと導く力
  (観察力・察知力・想像力)
  相手の話をよく聞き且つ効果的な質問で人を行動へと導く力
  (傾聴力・ヒアリング力)
  物事をポジティブに捉え、肯定し人を行動へと導く力
  (リフレーム・肯定的ストローク)
  相手にあわせた伝わる、伝えきる表現力
  (論理力・非言語スキル)
  俯瞰的な視点を持ち、役割認識及び相互理解の中から自ら働きかけて行く力
  (主体性・リーダーシップ・フォロワーシップ)

話し上手、聞き上手
  話し上手 良くしゃべるだけ ×
      相手に「伝わる」 ○
  聞き上手 大きなリアクションだけ ×
      相手を「理解する」   ○

自発的協力行動
 人間とチンパンジーはDNA的に言うと約98%が同じだと言われていますが、コミュニケーションの取り方で、決定的な違いがあります。
 人間は、目の前で人が財布を落としたら、たとえそれが見ず知らずの人であっても財布を拾ってその人に手渡すでしょう。このように「自発的に協力行動をする」というのが、人間にしか備わっていない能力なのです。
 チンパンジーの実験では、二頭のチンパンジーをお互いに良く見える別々の檻に入れ、Aの檻の外には約1メートル離れたところにエサを置き、Bの檻の中に1メートルほどの棒を入れておきます。Aのチンパンジーは手を伸ばしてもエサには届きません。Bのチンパンジーは自分の檻の中の棒を使えばAのチンパンジーがエサを取ることができるということを理解しています。けれどもBのチンパンジーはAのチンパンジーが「その棒をよこせ」とアピールしない限り、決して自発的には協力しないという実験結果が出たそうです。

★ ワーク
ミッション:
 拍手合わせ
方法:
 グループを作ります。(最初は二人組、あとで4人組を作ります。)
 一人が手をパンと叩きます。
 それに合わせてその他の人が同時に手を叩きます。
ルール:
 「せえの」などの掛け声を使ってはいけません。
 わざと合わせづらくするためにフェイントをかけてはいけません。
<各グループの結果>
 どのグループでもきちんと拍手を合わせることができました。

 今日のみなさんには、自発的に協力しようとするDNAがあることが立証できました。
 お互いに相手に合わせていこうという気持ちを持ち、音が一つになったときにお互いの気持ちが通じ合うのです。このワークでは言葉は使っていません。言葉を使わなくても気持ちを一つにすることができるということは、話下手でも構わないということです。
 人数を増やした際には誰に合わせるか、つまりリーダーを決める必要があったと思います。リーダーを決めるときにも「自発的協力行動」が必要になります。そういう状況に出くわしたときには、自らリーダーに志願するとか、誰かを指名するなど、「自発的協力行動」を発揮してください。

「超・柔軟性」と「頭のよさ」
 2011年4月18日発行のNewsweek日本語版で、シリコンバレーの企業を研究しているある講師が「超・柔軟性」について述べています。「超・柔軟性」とは、物事を多角的に捉えて柔軟に受け止めて、察知して判断して行動していくという力で、柔軟な思考力、タフな精神力、さまざまな分野の要素を併せ持つ包括的な資質がこれから必要になっていくということです。
 また、細谷功氏は自身の著書「地頭力を鍛える」で、「頭のよさ」は
物知り(知識・記憶力)
機転が利く(対人感性力)
地頭がいい(考える力)
の3種類あり、より良いコミュニケーションにおいて、この3つがとても重要な要素であり、特に、考える力と機転を利かせる力が非常に重要であると書いています。

★ ワーク
ミッション:
 誕生日並び
方法:
 誕生日の早い順から順に一列に全員で列を作ります。
 年は無関係に、1月1日から12月31日までの順番に並びます。
 制限時間は2分間です。
ルール:
 しゃべってはいけません(口パクも含みます)。
 紙、壁、背中などに書いてはいけません(指で空中をなぞるなどの行為も含みます)。
 誕生日が書いてある身分証などを見せてはいけません。
 数字が示されている掲示物などを指し示してはいけません。
 指で数字を作る(指を2本立てて「2」を表す)こともいけません。
 一人でもルール違反をしたら、その時点で全員失格とします。
<ワークの最中の様子>
 自分の誕生月から「だいたいこの辺り」という目星を付けてそれぞれが移動する。
 お互いに顔色をうかがう。
 講師から繰り返し禁止事項が伝えられる。
 時間が半分経過したあたりで一人が足を踏み鳴らす(左足で1回、右足で12回)。
 別の一人がジェスチャーで何かを表現し始める。
 数人が足を踏み鳴らしたり、ジェスチャーを繰り出す動作に追従する。
 タイムアップ。
<結果>
 正しい順番で並ぶことができたのは6人目までだった。

 ルール説明で「やってはいけないこと」をいくつも伝えられた途端、ほとんどの方は「できない」と思ったのではないでしょうか?ネガティブになり、正確な情報を得ることをあきらめて、なんとなくこの辺りだろうと自分で判断して場所を決めてしまった方がいると思います。機転を利かせようとした方もいらっしゃいましたが、それを全員に広めようとするアクションが足りませんでした。
 過去、このワークで大成功した人たちは手拍子の回数と「上旬」「中旬」「下旬」を示すジェスチャーを駆使してミッションをやり遂げました。ですから、今回足を踏み鳴らした方は非常に惜しかったと思います。
 我われの脳は、あえて「やってはいけないこと」を伝えられると、ネガティブなところからスタートしてしまうということです。成功する人は「やってはいけないことがあるのならばやって良いことがある」と考えてポジティブな視点で行動へとつなげていきます。
 行動に移す前からできないと決めつけてしまっている、いつものことだからそうなのだろうと確認もせずにその位置にとどまってしまう、そんなことはありませんか?今の不確実であいまいな厳しい時代はそれでは乗り切っていけません。インプットした知識をどのタイミングでどのようにアウトプットしていくか、機転を利かせていくかという「超・柔軟性」が必要なのだと思います。

日本人と欧米人のコミュニケーションの違い
 日本では、言いたいことを聞き手側が察知してくれることを期待しています。逆に言えば相手が察して理解する余地が残る伝え方をしているとも言えます。直接的に言うのではなくオブラートに包んだ表現をするのが日本人のコミュニケーションの特徴です。
 これに対して、欧米には陸続きで多様な人種、多様な価値観を持った人達がいるため、どんな人にも自分の意見が伝わるように、しっかり表現して伝えきるという習慣があります。
 グローバルな今の世の中では、日本人のコミュニケーションの良さを活かしつつも、欧米人にも通じるコミュニケーション力を発揮する必要があると思います。
 2000年から経済協力開発機構(OECD)が15歳の生徒を対象に「読解力」「科学的知識」「数学的知識」の3分野の知識を調査するために3年に一度「学習到達度調査(PISA)」という調査を実施しているのですが、フィンランドは2000年から2009年までの全ての年で、「読解力」と「科学的知識」の分野においてずっと3位以内に入り続けています。「数学的知識」でも2009年に6位になった以外はずっと3位以内に入っています。
 フィンランドでは、「発想力」「論理力」「表現力」といったことを授業に取り入れ、自分の主張をしっかりと言い切り、多様な価値観の人達にもしっかりと伝えていくというコミュニケーションスキルを幼少の頃からきちんと刷り込ませているからこうした結果を出せているのです。

コミュニケーションの基本
 コミュニケーションには、「伝える(言語・非言語)」姿勢と「受け止める(聞く・理解)」姿勢とがあります。そしてコミュニケーションを成立させるためには、これらを一方通行ではなく双方向性をもって、お互いに気持ちを通じ合わせることが重要になってきます。我われは「伝える」「受け止める」の繰り返しのなかで「対応する(察知・判断)」ということをしています。

★ ワーク
ミッション:
 トランプ並べ
方法:
 各グループを「伝える」側と「受け止める」側に分けます。
 「伝える」側と「受け止める」側はともに背を向けて座ります。
 「受け止める」側の前には机を用意します。
 「受け止める」側にトランプを10枚渡します。
 「伝える」側に10個の長方形が不規則に書かれた紙を1枚渡します。
 「伝える」側は渡された絵のとおりに「受け止める」側にトランプを並べさせます。
 制限時間は10分間です。
ルール:
 「伝える」側は「受け止める」側のカードの状況を目視で確認してはいけません。
 「受け止める」側は「伝える」側の紙を見てはいけません。
 お互いの指示や確認は言葉だけで行ってください。
 相互に相談し合って構いません。
 「伝える」側だけが言葉を発するのではなく、「受け止める側」も確認のために声を出して構いません。
<各グループの結果>
 1~4グループ:成功
 5、6グループ:未完成

 「受け止める」側は極めて情報量が少ない状況からスタートしており、不安を抱いています。「伝える」側には最初から100%の情報があるので、「受け止める」側に対して安心感を与えることが大切になります。
 例えば、カードのうち縦向きのものは3枚あって、横向きのものは4枚あるなど、全体像を伝えることで「受け止める」側には安心感が生まれます。その上で相手がイメージでき、ポイントを抑えることができる伝え方で伝えることと、相手に伝わっているかどうかを「伝える」側が確認することが大切なのです。
 また、「受け止める」側は質問することができるので、どういう位置関係なのかを質問でうまく引き出すことによって、「伝える」側の能力を引き出し、伝えやすい状況をつくることができます。
 情報には視覚情報、聴覚情報、嗅覚や触覚で感じる情報があります。しかし、それとは別に気持ちや感情など伝えるのが難しい情報もあります。大抵のコミュニケーションミスはそうした部分でのすれ違いによって発生します。ですから、それを具体的に相手に示すことができれば相手に安心感を与えられるのです。自分の気持ちを相手に示すことを「自己開示」と言います。「今この部分は出していかなくてはいけない」という状況であるならば、「恥ずかしい」とかいった感情は捨てて自分を出し、見える関係を作っていくということが、コミュニケーションにおいて非常に大事だと思います。

まとめ
 今日は、日々のコミュニケーションのあり方を少しだけ工夫しましょうというお話しでした。「体感ワーク」を通じて何を工夫すれば良いのかということに気付けたと思います。皆さんの中に芽生えた気付きを、日々の中で少しでも実践し、冒頭の「5つのポイント」で示した力を高めていただきたいと思います。

 以上が講演の全容です。
 講師が一方的に話をするのではなく、いくつものワークを全員で行う「参加型」の講演だったこともあり、非常に楽しい内容でした。また、ワークを通じて他の参加者の方々とコミュニケーションをとることができたことは、お互いに良い刺激になったと感じています。ありがとうございました。

 最後に、今回の講演で使われた資料が、協会ホームページの「PMAJライブラリ(例会・関西例会)」のページにアップロードされていますのでご参照いただければと思います。
 また、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

ページトップに戻る