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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~他文化を受け入れる力~

井上 多恵子 [プロフィール] :5月号

 先日、テレビで放映されたテルマエ・ロマエを視た。2012年に、阿部寛・上戸彩主演で公開され、阿部寛が第36回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し話題になった映画だ。新聞のテレビ欄に「笑える映画」と書いてあったので、関心をひかれ視たのだが、その言葉通り、かなり楽しめた。私はつまらないギャグだと笑わないが、この映画では何回か笑える場面があった。これだけでなく、異文化との関わり方についても、楽しみながら気づきを得ることができる映画だった。
 題名の「テルマエ・ロマエ」は、ラテン語で「ローマの浴場」の意味を表すそうだ。阿部寛扮する古代ローマ人の浴場設計技師が、浴設計に悩む中、現代の日本に度々タイムスリップし、日本の風呂文化からヒントを得て、古代ローマに、現代の日本の風呂文化に似たものを造っていく。そして、彼が日本で出会った・上戸彩扮する女性も、何名かの日本人と共に古代ローマにタイムスリップし、古代ローマでの浴場づくりに貢献する、というストーリーになっている。
 阿部寛扮する古代ローマ人は、何もかもが異なっている日本に、カルチャーショックを覚える。ましてや、最初は、日本にある銭湯や脱衣所やウオッシュレットなどを古代ローマにいる「平たい顔族の奴隷」が造ったものだと思い、「ローマ人が奴隷に先を越されている」と思い込み、強いショックを受ける。しかし、それらを拒否するのではなく、古代ローマにある物的・人的資源を用いて、日本の優れた風呂文化を古代ローマで再現している。例えばジェットバスを再現するために、何人かが次々息を吹き込むというように。古代ローマにタイムスリップした上戸彩扮する女性とその仲間も、古代ローマのために、古代ローマ人と一緒になって浴場づくりに汗を流す。彼らは皆、P2Mで言うところの「文化相対主義者」と見なすことができる。それぞれの文化に、良さがあることを認めている。
 阿部寛の観察力が、これまた、素晴らしい。彼にとっては、現代の日本にある物全てが珍しい。それら一つひとつに対し、好奇心を持って、大きな目を見開いて観察している。だからこそ、それらを古代ローマで再現することができたのだろう。日本人が古代ローマに来た時にも、浴場づくりに精を出す彼らを観察し、「この人たちは不思議だ。一人ひとりのためにではなく、皆のために努力をしている」と語っている。ここもポイントの一つだ。他文化に接した際には、「何が良い点か?」「どうすれば、それらの良い点を自取り入れることができるのか?」という問いを投げかけながら観察すると、建設的だ。上戸彩も、「古代ローマ人」と話すために、古代ローマの歴史とラテン語を必死に学び、たどたどしいながらも話しかけることに成功する。「伝えたい」という気持ちで外国語を勉強することの大事さを、思い出させてくれる。
 テレビでの映画放送終了後に、ブルガリアで続編を撮影中の阿部寛と上戸彩の様子が紹介された。多くのブルガリア人エキストラや外国人のスタッフと共に、国際的なプロジェクトとして続編を進めている様子が伺えた。大々的に海外で撮影している映画だとは知らなかったので、正直驚いた。私自身が持っていた国際的なプロジェクトに対するイメージは、工場や道路などのインフラ系や私が会社で経験してきた商品販売や人事のサービスの展開だった。邦画を海外で、大勢の外国人のスタッフと共に製作することが行われているのだ。他の領域でも、知恵次第で国際的なプロジェクトをどんどん起こせそうな気がする。
 そういったプロジェクトに携わる人にはどんな資質が求められるのだろうか?IMDというスイスの大学院の学長と共に、「グローバルリーダーとは何か?」について考える場に、先日出席した。学長は学生時代に日本に留学していたという経験を踏まえ、グローバルリーダーになるために、様々な異なる文化を知ることの重要性を説いていた。それを体現するために、彼の子供たちを毎年別の国に連れて行き、違う文化を体感させてきたと言う。そして、同様に、異文化経験に重要性を置き、複数の国での業務を経験させ意図的に育成するネスレの役員の事例を紹介してくれた。異文化経験という点において、島国に住む我々日本人は、日帰りでも容易に他国に行ける欧州の人と比べ、何倍も努力をしないといけない。
 私はこれまでかなり多くの国を訪れてきたし、人にも会ってきた。しかしその際に、「文化をそのまま受け入れず批判的に見る」ことがなかったとは言えない。また、じっくり観察したりなぜそうなっているのかという背景に思いを寄せず、表面的な部分だけを見てきたこともある。今後は、映画で阿部寛や上戸彩や仲間たちが見せたキャラクターを思い出して、他国の文化に好奇心を持って接し、その背景となる部分まで理解できるようにしていきたい。

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