グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第68回)
モスクワより「日本への熱い期待」を込めて

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :5月号

 日本人にはロシア(連邦)は、あまり親しみ深い国には映らないのが一般的なようであるが、それは旧ソ連のイメージの残像があり、また、北方領土問題があり、ロシア人の威圧的と映る話し方や論法があるからであろう。

 しかし、ロシアは急速に変わっている。今や、出入国手続きはビザさえ持っていれば極めて迅速であるし、国を動かしているのは政府首脳から大企業の経営者、大学教授までかなり若い人達である。モスクワは(バスを除いては)他のヨーロッパの都市とあまり変わらない、お金さえあれば何でもある。北方領土問題は置いておいて、ロシア人の日本への期待はかなり高い。ちょっとロシア人と付き合うと、ロシア語は分からないとしても、話し方、若干タテヨコが合わないレトリックなどは南米の人達とほぼ同じであると分かった。

 ただし、ロシア語(ウクライナ語もそうであるが)は、キリル文字(ギリシャ文字の分派)がどうしても読み切れないので、取り組みは諦めた。幼児のように音を聞いて頻発する単語の意味を、英語を話す友人に尋ねているが、遅々として語彙が増えない。ウクライナやモスクワのホテルにあるテレビはチャンネルが20から30くらいあって外国製の番組もあるが、ご丁寧にすべてロシア語に吹き替えてある。従って、テレビはスリープタイマーをセットして、子守唄ボックスとなる。

 今月はモスクワの中心部からの報告である。4月9日から16日まで滞在し、ロシアのパートナーが主催したエクゼクティブ・プロジェクトビジネスフォーラムで基調講演を分担し、次いで、エンジニアリング(EPC)プロジェクトのPMセミナーとP2Mを基軸とするイノベーションP&PMセミナーを実施してきた。成果は十分にあった。

 4月9日深夜に羽田空港を発ちいつもの通りフランクフルト経由でモスクワには同日昼頃に着いた。際安航空券であると普段は乗り継ぎに5時間半あるが、今回は1時間の待ちで乗り継げた。前日まではマイナス4度から0度くらいの日が続いていたとのことだが、ドモジェドボ空港に着いたら快晴(4か月ぶりに太陽が出たと)であり、気温は15度まで上がっていた。結局1週間居て良い天気が続いたので田中さんが春を持ってきてくれたと喜ばれた。

 これまで3回のモスクワ訪問では、市内ではあるが、外周部に泊まっていたが、今回陣を構えたホテルはクレムリンや赤の広場まで徒歩10分、ボリショイ劇場まで5分で大変便利であった。とはいえ高級ホテルではなく、2つ星であり、質素ではあるが大変居心地がよかった。

 私も加わって丹念にコンセプトを練ったビジネスフォーラムは大成功であった。元々私のブランドであるPM Innovationの のロシア版を創り、大会のテーマを Project Management -the guideline for innovation developmentとし、対象を、ロシア北極海石油・天然ガス開発(5 千億$~7千億$)、ロシア極東地域開発(5千億$)、石油化学産業・生産業近代化、IT産業の競争力強化、大企業の経営近代化、とした。

 期待通り満席の120名の参加があり、基調講演は、来賓としてロシア原子力機構 "ROSATOM"副総裁、道路公団副総裁、連邦産業構造審議会 エンジニアリング委員会委員長、ウリヤノフ州(工業州であり日本企業も進出)副知事が、主催者側で田中、ウクライナPM協会セルゲイ・ブシュエブ会長が、務めた。その後、EPC、IT、PMメソドロジーの3つの並行トラックが組まれて、各々6セッションがあり、極めて高いレベルの発表と議論が繰り広げられた。基調講演者もトラック講演者も大体P2Mに馴染みがあり、私が参加した 並行セッションのPMメソドロジートラックでも発表者6名全員がP2Mに言及してくれた。

会場Holiday Innには日の丸が前列中央にある

 自習でやっている企業も含めて10社がP2Mに取り組んでいると表明しており、そのなかにロシア最大のスベルバンク(日本の郵貯銀行に相当)や巨大オイルカンパニーなどが入っている。ホテルの費用は東京以上に高いモスクワの5スターホテルで、3つの部屋を抑えて大会を組んだので費用もかなりかかっているはずであるが、中小企業である主催者は営業を周到に行って大企業から参加者を確保した。参加費はバブル時代の日本のエクゼクティブ・セミナー並みである。
会場Holiday Innには日の丸が前列中央にある

 ロシアには国際PM協会連盟(IPMA)加盟の ロシアPM協会 SOVNETがあり、SOVNETは旧JPMF時代からPMAJと相互交流があり、今回も親友であるVladimir Voropaev名誉会長とAlexander Tovb副会長が来賓として参加してくれた。SOVNETは立派な協会であるが、PM体系としては、PMI® のPMBOK® Guide が一番流通しており、ロシア人のPM実践家はPMの基礎知識はPMBOK®で得ているのであるが、この数年でイノベーション意識が大企業に行きわたってきて、イノベーションを支えるマネジメントメソドロジーとしてP2Mの良いところを採り入れようという動きがある。

基調講演・・・ハイテク装置に注目 ロシアの親P2M企業の紹介
基調講演・・・ハイテク装置に注目 ロシアの親P2M企業の紹介

 2ラウンド行った研修セミナーは、参加者が各十数人とこれまでより下回ったが、これは、PM Innovation Week in Russia と銘打って開催したイベント間の共食いであるので仕方がないところだ。大会のインパクトが大きいので成果は重々である。

 2つのセミナーは、モスクワ国立人文大学が後援してくれて、美しく落ち着いた大学幹部の会議室を提供してくれ、快適に実施できた。

 本大学には、大学の未来先導のためのInnovation Centerがあり、所長が国際P2M資格(ウクライナ協会が所掌)を取得し、大学の競争力強化に向けた先端的な専攻間連携プログラムやグローバルプレゼンス向上のプログラムを展開しているが、イノベーションプログラムのミッションステートメントに基づき、大目標(プログラムレベル)、中目標(プロジェクトレベル)、タスクが表示され実に見事に整理されている。このようなプログラムマネジメントを行っている大学は日本にあるであろうか。

 また、研修の合間を縫って、B.D. Nechaev学長と30分間の交流を行った。的確な質問があり、双方でP2Mを通じた日本・ロシア・ウクライナ間の交流の成果につき総括を行い、学長から感謝状を戴いた。それには、本学でのセミナーの成果を尊重し、今後ともP2Mのパラダイムに基いて本学のイノベーションプログラムを推進し、併せて。PMAJ、UPMA(ウクライナ)との交流を継続することを期待したいと述べられている。

一流の国立大学の学長はなんと40歳である。ロシアは変わったのである。

学長との交流会 イノベーションセンター、所長と
学長との交流会 イノベーションセンター、所長と

学長(右から2人目)から感謝状 研修集合写真
学長(右から2人目)から感謝状 研修集合写真

ロシア一口メモ:
商談や会議ではロシアの代表はまくしたてる。それに威圧されないで当方ペースを守ること。即座に過剰反応しないで、しゃべるだけしゃべらせて反論するなりすればよい。
すぐに形をつくりたがる。どこかに訪問するといきなり交流の覚え書きに調印しようなどというのはよくあることである。本当に怖い場合は「持ち帰って」もあるかもしれないが、金の明記がないプロトコルは儀礼であると考えてもよい。
プロジェクトなどでは、顧客は情報開示に極めて慎重であるのに、ロシアでは顧客側が先にリークすることがよくあるとのこと。
記念写真を撮るのが大好きで、写真を採る際には面識がない男女間でも身体をくっつけてお互いに手を廻しあうのが礼儀であるので驚かないように。この国では当然のことでセクハラではありません。
一杯やっている際には必ず乾杯が繰り返されるので、気の利いた乾杯の言葉を3つくらい用意しておくこと。順番は、ホスト、ゲスト(主賓)、ホストによる女性への賛辞、あとはホストの指名により順番に。一流のレストランでも乾杯をやっている。
モスクワには英語の表示がほとんどない。ウクライナよりはよいが英語は通じないことが多い。買い物で、手で「これ」と示す場合は真上から下に向かって指さないと別のものになってしまう(マッシュルームサラダを指したのに奥にあるニシンのマリネがでてきた)。
モスクワの中心部については、深夜以外は安全であるが(警官が非常に多いので)、ひとり歩きはできるだけ避けたほうがよい。
モスクワは物価が高い。日本の1.3から1.5倍である。ホテルは2つ星でも1万円を超える。4スター以上であると最低4万円くらい。レストランも高い。
料理はちゃんとしたレストランでは、フランス料理やイタリア料理は本物がでてくる。バジェットトラベルにはカフェテリアレストラン(酒類もある)がおすすめ。比較的安いし、好みのものを指してオーダーできる。
スラブ料理ではウクライナ料理が本家であるので、ウクライナ料理レストランは人気があり、ロシア料理より3割がた高い。
酒類は酒屋では夜8時過ぎには絶対に買えない。したがい、みなカフェに行って一杯やっている。
いわゆる“ハニートラップ”は今でもあるとのことで要注意。
中国人が非常に多い。韓国人も多い。
西ヨーロッパの若いビジネスマン(特に英国人)がロシア人の女性たちをナンパしようとして、ロシア人の女性が怒っている風景がよくある。  ♥♥♥♥♥


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