グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第69回)
複雑系の話 - 東京六大学野球にかけて

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 先月から今月にかけてヨーロッパのプロジェクトマネジメント世界大会に応募する英文の論文とPMAJジャーナルに寄稿する論文を書いている。テーマはいずれも複雑系のプロジェクトのマネジメントに関するものである。

 「複雑な」、とか「複雑性」は、日本語であると区別しにくいが、英語であるとComplicated/complicationとComplex/complexityと異なる用語を使用する。前者は「構造が込み入った」という意味の複雑性であり、構成要素は分解可能であり、構成要素間の繋がりも判別できる。日本人はこの複雑性の把握には長けている。

 一方後者の複雑性は、どのような要素が含まれるのか予測しにくいという性格を持ち、個々の要素ではその性質も挙動も大体分かっていても、要素間の相互作用で、想像がつかないような働きが生まれる環境とか関係性について言う。

 プロジェクトマネジメントで「複雑系プロジェクトマネジメント Complex Project Management」といった場合は、複雑系プロジェクトマネジメントを専門に扱うオーストラリアが本拠のInternational Centre for Complex Project Managementの定義によると、「スコープ設定に高度の不確実性が介在し、要素の分散性が高く、外部環境や内部環境に乱流が生じやすく、ローリングウェーブ(逐次)計画が必須で、明確に定義された境界を持った(構成)要素に分解し難い、といった特徴を持つ環境適応型システムの集合体である複雑系プロジェクトを通じて、創発性が高い戦略的成果をライフサイクルに亘って獲得するマネジメント」としている。何をいっているか、わかるであろうか。これは私自身への質問でもある。そこがそもそも複雑系であるのだが、現在の大型プロジェクト(投資金額で500億円以上)はほとんど複雑系といっても過言ではない。

 複雑系PM論と格闘している間に何度か神宮球場に足を運び東京六大学野球の春季リーグ戦を観戦してきた。春季リーグ戦の明治大学の野球はどうも複雑系PMをやっているように思えてきた。本日5月28日は法政大学と明治大学の間で優勝決定戦の試合が行われ、明治大学の応援に行ったが、明治が接戦を制して優勝を飾った。リーグ戦を通じて法政は9勝2敗、明治は10勝4敗であるが、東京六大学野球はカードの勝利点(勝点)制で優勝を争うので、明治は全校に勝ち点をあげて優勝となった。

 春の六大学リーグ戦はやってみないと分からないという荒れ具合が付きまとうようだ。前評判では、前年活躍した主力投手と主力打者が残っているチームが強いと思われる。しかし、プロ野球と違いチーム構成が毎年異なる大学野球では、チーム構成の微妙なバランス、あるいは発展途上の選手の身体、運動能力、精神力の進化度合により、リーグ戦というプロジェクト戦場の複雑性が一気に高まる。

 ゲームプランというPMにおけるスコープ設定は、進化あるいは前年の活躍からはガラッと変わって足踏みをする選手がいること、選手の不調あるいはブレークのチーム内連鎖が往々にして起こることなどから、自校と相手校の戦力を読み切れないのであるから不確実性がつきまとい、毎週あるいは毎日作戦を変えていくローリングウェーブ計画が必須である。結局、潜在能力がほぼ横並びであるチームの中では、一戦一戦からの、あるいは各ゲーム週(毎対戦カード)からのフィードバックをきちんとかけられて、環境対応性と創発性に優れたチームが優勝をする、ということではなかろうか。明治大学チームは、この点で大変優れていた。

 明治の応援の紫のタオルには白色鮮やかに「統創力」と書いてある。闘争力ではない。「統」はフィードバックをかけて制御すること(ゲームごとに前試合の収穫を組み込んでいくことなど)、「創」は環境にうまく対応して創発を行うこと(競争環境を読んで選手を乗せる善波監督の好采配)と思った。  ♥♥♥


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