図書紹介
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「知の逆転」
(吉成真由美インタビュー・編、NHK出版、2013年1月15日発行、第3刷、301ページ、860円+税)

デニマルさん: 4月号

今回紹介する本は、人の偉大さを知る上で刺激的な内容である。ここに登場する6人の世界的な知の巨匠が自分を含む世の中の過去・現在・未来を率直に語っている。何が刺激的かは、読んでのお楽しみであるが、世の中にこんなに凄い人が活躍しているという畏敬の念と読む人の知的カンフル剤となる内容である。6人とは、進化生物学者のジャレド・ダイアモンド、言語学者のノーム・チョムスキー、神経学者のオリバー・サックス、コンピュータ科学者のマービン・ミンスキー、数学者のトム・レイトン、分子生物学者のジェームズ・ワトソンである。著者がこの6人を選んだ理由は書いていない。しかし、文中にヒントがあった。現在の情報が氾濫する中で色々なロマンが喪失しつつある。そのロマンは人と人、人も物との出会いで生じるケミストリ(波長)で創造されると書いている。その波長が新たな出会いとこの本を創出したのか。知の冒険が楽しめる深い内容の良書である。

知の逆転とは?    ―― 学問の常識を逆転させた叡智 ――
知の巨匠は、物事の本質を見極めようと気の遠くなるような時間と膨大な資料から新たなものを見出している。それが過去の常識と異なったものでも「真実」を求め続けた結果が、ここにあるという。例えば、ワトソンがDNA二重らせん構造の発見でノーベル賞を受賞した「ヒトゲノム計画」は、十数年の歳月と世界中の多くの学者が研究に関与していた。この発見の背景には、人類の誕生から宗教の問題、種の起源の常識を覆すことも含んでいる。

知の巨匠とは?  ―― 未来の可能性を予見する叡智 ――
ここに取り上げられた方々は、それぞれの専門分野で独自の研究や理論を確立した人である。新たなものには、常に過去の常識や因習との軋轢が生じる。だから叡智ある人は、自分の信念を曲げず、周囲の人や時代の潮流に安易に流されず、いかに多くの人の反発があってもことの本質を見極める勇気と潔さが抜きんでていると著者は書いている。未来を予見する叡智の底流には、ロマンと物事の本質を追い続ける強い信念と勇気が必要とされる。

巨匠の共通点とは?  ―― 専門分野外でも活躍する叡智 ――
6人の巨匠の共通点を「限りなく真実を求めている姿勢にある」と著者はいう。しかし、他にも共通項がある。全員が学者であり、自分の専門分野以外でも活躍しているマルチタレントである。ダイアモンドは「銃・病原菌・鉄」、サックスは「レナードの朝」、ミンスキーは「心の社会」、ワトソンは「二重らせん」の名著を残している。チョムスキーは資本主義の未来を予見し、レイトンは「アカマイ社」創業者として異分野で世界を牽引している。

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